①恋する
結成当初から現在まで、ずっと恋や愛を歌い続けてきたSHISHAMOの原点とも言える曲。2013年11月リリースの1stアルバム『SHISHAMO』のラストに収録された。ドライブするギターリフ、早る鼓動のように躍動するリズムで恋をした時のフレッシュなときめきがまっすぐに描かれている。2023年、デビュー10周年を記念したコンセプトアルバム『恋を知っているすべてのあなたへ』には、“恋する -10 YEARS THANK YOU-”として同曲の新録バージョンを収録しており、SHISHAMOにとってこの楽曲がひとつの起点となっていることをうかがわせる。新録での宮崎の歌声は、恋するときめきはそのままに、女心をより繊細に表現している。②君と夏フェス
2014年7月にシングルリリースしたスマッシュヒット曲で、この曲をきっかけにSHISHAMOにはまった人も多い。アルバム『SHISHAMO 2』に収録され、以降、現在までSHISHAMOのサマーソングとして愛され続けている。好きな人と夏フェスに出かける高揚感、そして夏フェスならではの爽やかな解放感が歌とサウンドから溢れていて、夏フェスといえばこの楽曲を思い浮かべるリスナーも多い。映画の1シーンのようにリアルに恋物語を綴る、宮崎のソングライティングが光る名曲。SHISHAMOの楽曲にはこうした季節感を感じさせながら、ストーリーを映し出すものも多く、この楽曲がリリースされた翌年12月には、“君と夏フェス”に呼応するように“君とゲレンデ”もリリースされ、こちらはアッパーなポップロックが切ない恋心を描くウィンターソングとして、同様に長く愛される楽曲となっている。③熱帯夜
SHISHAMOといえば、宮崎の弾くギターリフのロックなフィールを思い浮かべる人も多いと思うが、グルーヴ感を全面に押し出したポップソングもバンドとしての大きな魅力のひとつだ。その一面が最初に発露されたのがこのシングル曲だったのではないかと思う(2015年8月にシングルリリースされ、その後、アルバム『SHISHAMO 3』に収録)。SHISHAMOの多彩な音楽性が花開いていく、その端緒となった楽曲と言ってもいい。この“熱帯夜”もサマーソングのひとつだが、“君と夏フェス”とは対照的に、夏の湿度と気だるさを感じさせるような洗練されたバンドサウンドがとても心地好い。まさに“熱帯夜”の雰囲気を携えたバンドアンサンブルは、3人のプレイにさらに豊かな表現力が加わったことを感じさせた。④明日も
恋や愛を歌うSHISHAMOとは一線を画す、正面切って聴く者を鼓舞する「応援歌」。この“明日も”は2016年に川崎フロンターレの試合を観戦した宮崎が、サポーターたちの熱い声援に胸を打たれ、翌日にその想いを込めて作曲した楽曲であり、そうした経緯を知るフロンターレサポーターは、2017年シーズンからこの楽曲のサビをチャントとして口にするようになり、“明日も”はSHISHAMOの音楽を、より多くの人に届けるきっかけともなった。そうした背景もあり、2017年末の『NHK紅白歌合戦』にこの楽曲で初出場を果たしている。幅広い層に届いたヒット曲ではあるが、“明日も”のような「応援歌」はSHISHAMOとしてはイレギュラーなのだと宮崎は言う。バンドの本懐はやはり「恋を歌う」ことにあるが、「応援歌」をごくナチュラルに表現できるのもSHISHAMOならではである。⑤BYE BYE
リリースのタイミング的には2017年8月、“明日も”が多くの人に受け入れられたあとのシングルということもあり、“明日も”で定着しつつあった「応援歌を歌うSHISHAMO」というパブリックイメージをいい意味で裏切る楽曲となった。予測不能な展開をクールにバンドサウンドで響かせるアンサンブルはSHISHAMOの新機軸であり、“君と夏フェス”以降、様々なサマーソングを放ってきたSHISHAMOの、バンドとしてのネクストステージを感じさせたサマーアンセム。ダークな趣のベースリフ、ファンキーなギターカッティング、不穏なピアノサウンド、そして流れるようにリズムを牽引するドラムと、バンドアンサンブルの成熟を明確に感じ取れる楽曲だ。そこにSHISHAMOらしいポップで切ないサビが絶妙につながる。“明日も”だけでSHISHAMOを判断しないでほしいと願う宮崎の渾身のソングライティングとも言える。アルバム『SHISHAMO 5』に収録。⑥君の大事にしてるもの
2019年10月リリースのシングル『君の隣にいたいから』のカップリング曲(アルバム『SHISHAMO 6』に収録)。“君の隣にいたいから”もSHISHAMOの名曲として名高いが、ここではカップリングの“君の大事にしてるもの”をピックアップしたい。この楽曲は、宮崎のソングライティングの映画的、物語的な完成度が非常に高いものだ。R&Bフィールの物憂げなサウンドにのせて描かれるのは、レスポールや漫画やライダースジャケットといった「君の大事なもの」を全部壊して、「私」だけを見てほしいという、ある意味狂気的な愛だ。もちろんフィクションとして書かれた歌詞だが、主人公である「私」の妄想がどんどん暴走していく様を淡々と歌う宮崎の歌唱は、むしろその物語にリアリティを宿す。この物語を映像化したMVはまさに短編映画のようでもあり、SHISHAMOのラブソングの中でも特異なエキセントリズムを感じさせる一曲。⑦君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!
2021年2月に配信リリースされ、アルバム『SHISHAMO 7』に収録された楽曲。SHISHAMOの描くピュアなラブソング、ここに極まれりといった趣で、疾走感のあるサウンドもバンドの真骨頂を感じさせるもの。ロッテ「ZEROアイス」のCM曲として流れていたのも記憶に新しい。まわりが見えなくなるほどに誰かを好きになるときめきを、ここまで鮮烈に、一直線に描くポップミュージックもなかなかないと思う。リアルとファンタジーとが絶妙なブレンド加減で楽曲化されているために、純粋なるラブソングとして共感を抱くのはもちろんのこと、いわゆる「推し」への愛になぞらえて楽曲にはまるリスナーも多い。メンバー出演によるファンタジックなMVも、この楽曲によりキュートでファニーな印象を与えている。⑧中毒
アルバムでいえば『SHISHAMO 6』が、3人のバンドサウンド以外の音やエフェクティブなサウンドアプローチで音楽性のさらなる拡充を意識したものだったとすれば、『SHISHAMO 7』は、原点回帰というわけではないが、3ピースのバンドサウンドをさらにブラッシュアップさせ、ミニマムな編成で表現できるものをさらに探求するモードに入っていったように思う。そのモードを如実に感じさせたのがその『SHISHAMO 7』の1曲目に配された、この“中毒”という楽曲である。この曲はその余白やタイム感を含め、ロックバンドとしてのグルーヴを明確に体現するものである。《あぁもう、なんだよ恋って/泣いて 病んで 辛いことばっかり》と嘆きながら、恋することをやめられない自分のことを“中毒”と称した楽曲が、文字通り中毒性の高い洗練されたR&Bサウンドで完成されているところも心憎い。⑨ブーツを鳴らして
2021年12月にリリースされた「冬」をテーマにしたコンセプトEPのタイトル曲にして、宮崎の歌声の良さ、切なさにあらためて気づかされるミディアムバラード。ここまで「歌」にフォーカスしたバラードも、SHISHAMOの中では珍しいが、ストリングスを取り入れたドラマチックなサウンドアレンジが、より歌声のエモーショナルな響きを際立たせている。この歌は《きっと愛しい誰かのため/ブーツを鳴らして急いでる》女の子を見かけて、ふと自分も「君」のことを思い出し、それでもその想いに蓋をしようとする切ない心情を描き出している。そんな、溢れ出してしまいそうな切ない感情を表現し切るボーカル、そして具体的な描写はなくとも雪が舞う冬の街の景色が鮮やかに浮かび上がる宮崎の作詞に、彼女のソングライターとしての真骨頂を見る想いがする。「恋」を歌い続けてきたSHISHAMOだからこその、とびきり共感性の高い一曲。⑩狙うは君のど真ん中
2022年2月にリリースされた配信シングル。恋をしている、恋に迷うすべての女の子を鼓舞する、まさに「ど真ん中」の恋愛ソングであり、あらためてSHISHAMOの原点を思い起こさせるソリッドなギターロックだ。恋した相手に真っ向から飛び込んでいく覚悟と弱気な自分とのせめぎ合い──この普遍のテーマを強い説得力を持って表現できるSHISHAMOはやはり恋を歌うバンドであり、それはそのまま人生を歌うことにも直結する。だからこそSHISHAMOの恋愛歌は多くの人の心を揺さぶる。個人的にはこの楽曲が持つテーマは、そのまま2023年2月にリリースされた10周年記念のコンセプトアルバム『恋を知っているすべてのあなたへ』のテーマにも続いていると感じられるものだが、もちろん同アルバムにもこの曲は収録されている。そしてこれからもSHISHAMOは恋を歌い続ける。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』4月号にSHISHAMOが登場!
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