①スーパーオリジナル
日本のラップ/ヒップホップミュージックによるメインストリーム侵攻元年と呼ぶべき2001年(ここからカルチャー全体の盛り上がりとして一気にメインストリーム化が進んだ)、KICK THE CAN CREWはシングル『スーパーオリジナル』でメジャーデビューを果たした。風貌もラップ表現も三者三様のまま、ソリッドかつコミカルなトラックに乗せて《その歩き方 その喋り方 その創り方 その壊し方/自分だけのやり方で盛り上がれ!!/スーパーオリジナルにのしあがれ!!!》と声を揃える。異物感もすべて個性としてありのままに肯定し、認知させる力強さが、そこにはあった。②イツナロウバ
キャッチーにして流麗なエレクトロディスコの推進力は、《Oh! Ah! イツナロウバ!(It’s not over)》と魔法の呪文のように唱える願いとは裏腹に、むしろ止まることなく流れる時間の残酷さを表しているのかもしれない。移ろいゆく季節と青春の儚さを織り込んだ響きこそが普遍性をもたらし、刹那への焦がれるような思いがKICK THE CAN CREWの享楽性を裏付ける名チューン“イツナロウバ”。ある世代にとっては、若い日々の記憶に染み付いた懐ラップとして、リリース当時とはまた違った煌めきをもたらしているはずだ。③カンケリ01
“カンケリ”は3人が初めてレコーディングした楽曲。タイトルはグループ名の由来となった。“カンケリ01”はトラックもリリックも“カンケリ”とは異なるシングル曲だが、シーン最前線を突き進むKICK THE CAN CREWのファイティングテーマのように鳴り響いた。3人のラップは甲乙つけがたくタイトで、《カンから目そらすな/オレがへっこますまでけっとばす》というフックに傾れ込んでゆく。遊び心にこそムキになる精神性が、熱い血潮と化してドクドクと脈打つようだ。アルバム『VITALIZER』には、リミックスバージョン“カンケリ02”が収録された。④クリスマス・イブRap
山下達郎による不朽の名曲“クリスマス・イブ”を大胆にサンプリングし、KREVAはオートチューンを駆使しながら朗々とコーラスを歌い上げる。大ネタを使ったラップヒットとして、今日もいのいちばんに挙げられるナンバーだろう。ヒップホップミュージックのしなやかでしたたかな生命力が、日本の音楽文化に広く浸透する瞬間であった。もちろん、大ネタを用いたからといって必ずしも優れたラップ曲が生まれるわけではない。あの手この手で情景と心模様を伝えるリリックや、エモーショナルなフローの構築ぶりにも注目すべき楽曲。⑤マルシェ
怒涛のシングル攻勢で2001年を駆け抜けたKICK THE CAN CREWが、2002年初頭に投下した決定的な一撃。《上がってんの? 下がってんの? 皆はっきり言っとけ!(上がってる!)》という最高にインタラクティブなフックが仕掛けられたパーティチューン“マルシェ”は、華々しいラテン風ブレイクビーツにおいても頭ひとつ抜けたキャッチーさと破壊力を誇っていた。「B-BOY PARK 2002」出演時の彼らはもはやスター性全開で、年末には『NHK紅白歌合戦』に出場、この曲で見事お茶の間を沸かせることになった。⑥sayonara sayonara
セルフボーストや、世相を切り取るといったラップの基本姿勢ばかりではなく、深い内省をヒット曲に織り込む表現スタイルも、KICK THE CAN CREWが残してきた大きな功績のひとつだろう。現実を前に苦闘し、自己嫌悪に陥りそうな心と正面から向き合う。そんな、誰しもが経験する人生のテーマで届けられた“sayonara sayonara”の中で、3人は《さよなら さよなら 俺の嫌いなところだけ/いいとこ残し 今、過去からNEWDAY》とラップした。ポピュラーなヒット曲としての強靭なテーマが、ここには横たわっている。⑦アンバランス
自由であり続けることは、不安定であり続けることだ。光と闇はいつでもセットになっている。現実を前にした青春のモラトリアムを、正直に、情緒豊かに歌い上げた“アンバランス”もまた、日本語ラップによる青春の名曲である。《マイアンサー No.1/快感の ワンダーランド/階段を上がんなら そう/今じゃない 今はアンバランス》。音楽はいつだって、リスナー一人ひとりが抱えた問題を解決してくれるわけではないけれど、この曲がどれだけ多くの悩める若き魂を救ったかは計り知れない。⑧脳内VACATION
ハイペースに作品をヒットチャートへと送り込んできたKICK THE CAN CREWだったが、2003年8月の『性コンティニュー』を皮切りに、5ヶ月連続シングル+ベストアルバム+ニューアルバム『GOOD MUSIC』リリースというマゾヒスティックな所業に出る。“脳内VACATION”では、そんなワーカホリックな日々を半ば皮肉気味に、ほっこり楽しげにラップした。またこの時期の作品は、顔PASSブラザーズ(KREVA+DJ TATSUTA)によるプロデュースワークを含め、マルチトラック録音が容易になった時代を逆手に取るような少ない音数の作風が刺激的だったものの、KICK THE CAN CREWは2004年6月のライブをもって活動休止期間に入る。⑨千%
しばしばライブイベントにおける3人の共演や、UL(MCU+LITTLE)のアルバムをKREVAがプロデュースするといった動きもあったが、活動休止から実に13年の歳月を経た2017年6月、KICK THE CAN CREW名義の新曲MV “千%”が公開される。ドラマティックで力強い曲調と、とりわけ往年の楽曲からリリックを次々に引用して新たな物語を紡ぐMCUのヴァース、そして《今 言える 言えてる/あの日もあの日も俺の本気は嘘じゃない/経て からの ここ》というフックが、リスナーを驚喜させた。たった1曲で、完璧にKICK THE CAN CREWの復活を知らしめたのである。その後はメンバー個々の活動と並行して、KICK THE CAN CREWとしての活動が継続されることになった。⑩THE CAN(KICK THE CAN)
デジタルシングル『Boots』を経て届けられたニューアルバム『THE CAN』のリリース日に、オープニングトラック“THE CAN(KICK THE CAN)”のMVが公開された。『THE CAN』に通底するテーマを汲みつつ、“カンケリ”シリーズの最新バージョンと呼ぶべき情熱を込めた、アップリフティングな1曲である。MV映像そのままに、3人がラップスキル全開で1ラウンド3分弱の真剣スパーリングを繰り広げている。鋭さと円熟味を兼ね備えた、『VITALIZER』から20年後のKICK THE CAN CREWがここにはいる。個人的にはキャリア最高傑作アルバムだと思っている『THE CAN』だが、あなたはどうだろうか。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』5月号にKICK THE CAN CREWが登場!
●主なラインナップ
・Saucy Dog
・Mr.Children
・BUMP OF CHICKEN
・マカロニえんぴつ
・宮本浩次
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