【10リスト】私たちの心を揺らしたRADWIMPSの名歌詞10

昨年紅白歌合戦に初出場し、今年2月には3年振りの単独ツアーを敢行。さらに6月からはアジアツアーを開催するなど、結成してからの16年間止まることなく活動範囲や動員を増やし続けている国民的ロックバンド・RADWIMPS。絶えず「変化」をし続けているそんな彼らがデビューしてから今まで「不変」を貫いていること、それは「独創的な世界の構築」だ。例えば〈マニフェスト〉〈携帯電話〉〈番地〉――世の中にごまんとある単語から生まれる、唯一無二の世界。「作詞家」ではなく「世界の創造主」と言っても過言ではない野田洋次郎の想像ないしは創造力は研ぎ澄まされ続けているし、いつだって私たちを驚かせ、空想と現実の入り混じった別次元へ誘ってくれる。当記事では、そんな抜群の発想力と誘引力を誇る彼らの楽曲の中からその魅力を象徴する10フレーズを挙げていきたいと思う。(峯岸利恵)


①もしも(限定シングル/2003年)
《もしも…本当にもしも…君も僕の事を思ってくれてたら/なんて考えてる僕をどうか叱ってやってくれないか》
インディーズ時代に限定リリースされたシングル、そして1stアルバム『RADWIMPS』にはアルバムバージョン(「みんな一緒に」バージョン)で収録されている同曲。空想の世界で幸せの絶頂を味わえるが、相手との距離感に応じて現実との落差が生じる禁じ手かつ魅惑の言葉、「もしも」。男らしさ皆無で情けなさ全開の懇願だが、彼が相手のことをどれだけ好いているのか、そしてふたりはどんな関係にあるのかがこの一行だけで分かるという、説明力も携えた抜群のフレーズだ。浮かれた自分の「もしも」を打ち砕く人がいるのなら、どうしても君であってほしい。辛い現実は受け止めるが幸せな夢は見たい、そんな恋愛渦中の欲求を見事に表現しているなんとも愛おしい歌詞だ。


②25コ目の染色体(シングル/2005年)
《いつか生まれる二人の命 その時がきたら/どうか君にそっくりなベイビーであって欲しい 無理承知で100%君の遺伝子 伝わりますように/俺にはこれっぽっちも似ていませんように/寝る前に毎晩 手を合わせるんだ》

RADWIMPSの(特に初期の楽曲の)恋愛的歌詞は、「彼女のことが死ぬほど好き! 死ぬまで好き! 死んでも好き!」という純粋かつ狂気的な愛が溢れているのだが、“25コ目の染色体”はその代表的な一曲だ。両親が我が子に引き継げる「23本」の染色体の全てを君のものにして、自分は君に出会えたこのハッピー運とラッキー運だけそっと残せればいい――そこには、自分のことが嫌いだから自分の遺伝子は要らないというよりは、自分を救ってくれた愛おしくて仕方がない君とそっくりの人間が次世代を生きてくれなくては僕が救われないという使命感が伝わってくる。人類の絶対的希望である「君」という輪廻がこの先も永遠に途切れないように――RADWIMPSの楽曲にとって欠かせないテーマである「生命の循環」を歌った始まりの曲でもある。


③最大公約数(アルバム『RADWIMPS 3 ~無人島に持っていき忘れた一枚~』/2006年)
《君が8なら僕は2になる 僕が10なら君は5になる/君+僕はなんだろう 僕‐君は何だろう》
「最大公約数」とは簡単に言えば「整数で割った時に共通する最大の数字」のこと。愛し合うふたりの気持ちの一番大きな共通項を一緒に探していこうという内容だが、そうなると抜粋した歌詞が少々おかしいことに気付く。何故なら8の最大公約数は4だからだ。10の最大公約数は5で正しいのに、どうしてだろう? 推測するに「君は僕の全てを知っているけれど、僕はまだ君のことを全て分かりきっていないから」なのではないかと思う。最大に辿り着く一歩前の「2」、君のことをまだ知りたい、君のことをもっと分かりたい。そんな心境を「2」という数字で表しているのではないだろうか? もしそうだとしたら、なんて素敵な言い回しなのだろう! まだ発展途上である君との関係を、数字ひとつで表してしまうそのセンスに胸がくすぐったくなる。こういった「想像の余地」を聴き手に与えてくれるのがRADWIMPSの特徴であり、大きな魅力だ。これだ!と答えひとつを押し付けるのではなく、聴く人が入り込める余白をきちんと用意してくれる。そんな彼らの懐の深さには、いつだって感嘆してしまうのだ。


④有心論(シングル/2006年)
《この心臓に君がいるんだよ 全身に向け脈を打つんだよ/今日も生きて 今日も生きて そして今のままでいてと/白血球、赤血球、その他諸々の愛を僕に送る》

②の中で先述したが、RADWIMPSの「純粋かつ狂気的な愛情表現」の代表曲の片翼を担うのがこの“有心論”だろう。神の存在を問う「有神論」をもじったタイトルだが、この曲で野田は愛する人を「神」と称え、さらに自分を生かす「心(=心臓)」だと歌った。野田は「君がいなくては生きていけない」という〈例え〉を、この曲で〈事実〉として仕立て上げてしまったのだ。そんな突拍子のない発想でも「その感じ分かるなぁ」というリアリティを、嫌らしさや言い過ぎ感を抱かせないまま組み込むその絶妙なバランスに驚かされる。自分の中の好きなところと嫌いなところ、数えたら後者の方が圧倒的に多い自分自身の中に愛する「君」を取り込むことで、生きる意味を直接自分に宿すという斬新かつ画期的なフレーズ。驚きを超えて感動する、究極的な表現だ。


⑤いいんですか?(アルバム『RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~』/2006年)
《あなたといる意味を探したら 明日を生きる答えになったよ/明日を生きる意味を探したら あなたといる答えになったよ》

こんな風に相手を想える恋をしてみたいと憧れる、恋愛における全ての不安や悩みを吹き飛ばす絶対的肯定力を宿した曲、“いいんですか?”。周りが言う「あんな人やめといた方がいいよ」や「あの人、性格悪いって噂だよ?」などの外因を、「いいんですよ! 大丈夫! 君がいいと思ったのならそれはもう全部大正解!」と言ってくれる、笑っちゃうほどポジティブなこの曲に救われた恋心がこの世に幾つあるだろう。あなたといる意味が先でも明日を生きる意味が先でも、卵が先でも鶏が先でも、もはやそんなのどちらでもいい。君という人間が、君を好きだという気持ちが「存在する」という紛れもないその事実がありさえすれば、それだけで「いいんですよ」。


⑥オーダーメイド(シングル/2008年)
《「望み通り全てが/叶えられているでしょう?/だから涙に暮れる/その顔をちゃんと見せてよ/さぁ 誇らしげに見せてよ」》

「誰かさん」とのやり取りを通じて、自分の意見要望のままに「自分自身」を創り上げていく物語的楽曲だが、この曲も聞く度に純粋な気持ちで心の底から感動する。口がひとつなのはひとりで喧嘩をしないためで、心臓が片胸にしかないのは大切な人と抱き合った時に初めて完全になるため――空想的だとか妄想的だとか、そういった言葉ひとつで片付けてはいけない考え方だと思うし、間違いなくこの曲に「自分が在る意味」を託してもらった。「自分以外の誰か」が居てくれて初めて「自分」が完成すること、自分がこの姿で生まれてきたことにはきちんと理由があって、それによって他人との優劣に悩まなくていいんだと諭してくれるこの歌詞には、溢れんばかりの感謝と敬意が込み上げてくる。


⑦君と羊と青(アルバム『絶体絶命』/2011年)
《リアルと夢と永遠と今と幻想が 束になって僕を胴上げしてんだ/あの日僕らを染め上げた群青が 今もこの皮膚の下を覆ってんだ》

「君+羊+青=群青」というなんともRADWIMPSらしい捻りのあるタイトルか付けられたこの曲は、2011年NHKサッカー放送のテーマソングに起用されたことでも話題になった。若かりしあの頃のがむしゃらさや行動力、「なんか分からないけどなんでもできる気がする!」という理由のない無敵感。「これこそが青春だ!」と理解しながらも青いまま生きていたあの頃の自分は、時を経て失ったのではなく実は自分の中にまだいるのだと気付かせてくれる。今この瞬間しか生きられないというのは今も昔も変わらない――そんなみなぎる若気と活気を「胸の奥にある」や「記憶の中の」という表現ではなく≪皮膚の下を覆う≫という言葉にすることで、全身を脈打つかの如くリアルに感じさせる巧みな表現。素晴らしいとしか言いようのない、秀逸なフレーズだ。


⑧五月の蝿(シングル/2013年)
《僕は君を許さないよ 何があっても許さないよ/通り魔に刺され 腑は溢れ 血反吐吐く君が助け求めたとて/ヘッドフォンで大好きな音楽聴きながら 溢れた腑で縄跳びをするんだ》

RADWIMPS史上最高に最強で最狂なラブソングが、この“五月の蝿”だ。目を伏せ耳を塞ぎたくなる程生々しくおぞましい歌詞は、聴く者の想像力を駆り立てる彼らの音楽性が作用して、この上ないほど鮮明に脳内で映像化されてしまう。愛するものを崇め、敬い、愛で尽くしていたこれまでの楽曲からは一切想像できなかった歌詞に唖然としてしまうが、逆に「自分の人格が狂うほど誰かを愛する」という経験なり気持ちが無ければ、人間はここまで強烈な感情を抱くことはできないだろう。とはいえ≪溢れた腑で縄跳び≫なんて、愛を真裏から歌うとしても、普通ならこんなフレーズは到底出てきやしない。「凄い」を通り越してもはや「怖い」とさえ思ってしまう、野田の底知れぬ発想力。「愛と憎しみは紙一重」という言葉があるが、まさにその二面性を強烈なまでに表現した究極の愛の賛歌だ。


⑨前前前世(アルバム『人間開花』/2016年)
《君が全然全部なくなって チリヂリになったって/もう迷わない また1から探しはじめるさ/むしろ0から また宇宙をはじめてみようか》

世界的大ヒットを記録した映画『君の名は。』の主題歌として大ブレイクした“前前前世”。映画のストーリーとリンクする「時間軸を超えた愛」を歌う同曲には、普通なら「前世どころか前前前世で会った君を探し出してもう一度出会うなんて、そんなバカな」と思える夢物語を「それこそが運命だ!」と思わせてしまうRADWIMPSらしい魔法がかけられている。それはRADWIMPSがこれまで培ってきた「ラッドらしさ」がなければ成り立たないし、そういう意味ではこの曲もまた16年という時間を経てやっと「今」に辿り着いた曲なのかもしれない。例え世界がなくなっても、前世今世、そして来世でも、輪廻を何周しようが君を必ず見つけ出す――そんな「君」に対する絶対的な自信が溢れている、今の RADWIMPSにしか歌えない説得力と奇跡が詰まった曲だ。


⑩棒人間(アルバム『人間開花』/2016年)
《僕は人間じゃないんです ほんとにごめんなさい/そっくりにできてるもんで バッタもんのわりにですが/何度も諦めたつもりでも 人間でありたいのです》
怪物が人間に恋をしたことをきっかけに築いていく関係性や自身の成長を描いたドラマ『フランケンシュタインの恋』の主題歌にもなった“棒人間”は、その歌詞とストーリーがぴったりだと話題になった。しかし、これは決して書き下ろしなのではなく、あくまでも「人間が、人間になりたくて歌った曲」だ。どれだけ慎重に日々を過ごしていたとしても「私はなんで上手く生きていけないのだろう」「こんなはずじゃなかったのに」と、自分が思い描く〈ちゃんとした人間〉とはどんどん離れていったりする。周りの人とは異なる自分に苛立ち、絶望してしまうこともあるだろう。それでも、しつこく≪人間でありたい≫と願う。棒人間でも、某人間でもなく、「自分」という人間だと胸を張れるように。ちゃんとした人間なんてきっとこの世には存在しないけれど、それでも自分が誇れる理想の自分になるために今日も今日とて生きていこうと励ましてくれる。「人ではない何か」に自分の想いを託して、間接的に優しく諭す。「比喩表現」における絶対的な才能を持つ野田の豊かな想像力があるからこそ、強く響き活きてくる歌詞だ。

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