WANIMAには、豊かな物語性によってリスナーの情緒に揺さぶりをかける歌詞もあれば、ささくれ立った感情を全力で撒き散らす歌詞もある。エロスと一緒くたになったパーティソングだって、重要な一面だろう。そのすべては、彼らの誠実さの表れに他ならない。だから、WANIMAの歌は信じられるし、瞬く間にハッピーにさせられたり、気づいた頃には胸を抉られていたりするのである。刺激的なサウンドと共に耳に飛び込んでくる、数々の名曲の名歌詞。ここではその一部を選び、あらためて向き合ってみたい。(小池宏和)
①雨あがり
《あぁ 都合のいい奴が 増える擦り傷 小馬鹿にするでしょう/あぁ 声にならない痛み 明日を眩しく照らせ…》
PIZZA OF DEATH RECORDSからのデビュー盤『Can Not Behaved!!』に収録された“雨あがり”には、タフな反骨精神をポジティブなエネルギーに転化する、WANIMAの精神性をバシッと提示した歌詞が綴られている。KO-SHIN(G・Cho)の小気味よいギターイントロからファストなパンクへ、そして終盤の熱いコーラスワークを運ぶFUJI(Dr・Cho)爆走のシャッフルグルーヴまで、楽曲のめくるめく展開をキャッチーなメロディが繋ぎ合わせ、リスナーの心を解き放つメッセージの高揚感を裏打ちしている。
②1106
《ねぇ想うように歌えばいいと 思い通りにならない日を/そう教えてくれたね、教えてくれた…ねぇ?》
WANIMA登場の衝撃を、感涙のストーリーと共に印象づけた1曲と言えるだろう。漁師だった祖父がこの世から旅立ち、残された言葉と在りし日の姿を噛み締める歌詞が、手紙のように大切にしたためられている。遠く離れてしまった人の記憶、注がれた愛情に意味を見出す作風は、その後のWANIMA作品にも幾度となく表れることになる。《碇をおろした場所からも 見えるように手を振る…》。大切な人の大きな存在感は、いつまでも失われずすぐそばにあり続けるものなのだ。
③Japanese Pride
《Reggae PunkにHip Hop/R&B演歌にRockも含めて 時代を超え俺たちのルーツ 次第に口遊む また必ず》
この世で聴こえている音楽はすべて、あなたの財産になり武器になる。使い方はあなた次第だ。初めてのフルアルバム
『Are You Coming?』の中で、WANIMAは底無しの貪欲さと探究心をもってポップミュージックの大原則を教えてくれた。文化や世代のギャップを越えるツールにもなり得る音楽。ライブハウス文化をリスペクトしながら野外に出掛けたっていいし、海外に思いを馳せたっていい。ありとあらゆる音楽を自らの糧にしてしまうWANIMAは、どこまでも自由だ。
④THANX
《ありがとうを込めて歌った この気持ちに嘘は無いと/さよならが教えてくれた 離れるのは距離だけと》
ビッグメロディに乗せて、のっけから思い切りよく溢れ出す感謝の念。何よりも優先すべき思いを投げかけるために、WANIMAはこんな曲を書き、歌い続けてきた。気取ってみたり、思わせぶりだったり、我々は対話の中でいろんな駆け引きをしてしまうけれど、最も効果的に思いを響かせる方法をWANIMAは知っている。ファンとの強く大きな絆を支えているのは、考え抜かれた先に見つけた率直さである。だからこそ、オーディエンスが一斉にバウンス&シンガロングする大サビの光景が生まれるのだ。
⑤シグナル
《不確かなまま はじまる今日は/変わらない いつも通り/顔を洗って 鏡の前 また苦笑い》
最新テクノロジーと莫大な予算を注ぎ込んだ天気予報でさえ、外れることはある。物知り顔で未来を語ることができるのは、超常の力を持つ預言者か嘘吐きだけだ。WANIMAは、若い魂に宿る不安定さや不器用さを全力で肯定する。そこにこそ無限の可能性がひらけていることを、未来ではなく歩んだ道のりの中で学んできたからだ。
2017年末のNHK特番『WANIMA 18 祭(フェス) -1000 人のシグナル-』のために書き下ろされたこの曲には、“1106”で描かれた祖父から貰い受けたという《好きにやって 駄目なら戻って来い》の言葉が織り込まれている。
⑥GONG
《生まれてきたこと 恨んでいた時も/あったけれど/例えば世界を敵に回してもかまわない/守り抜くんだよ》
WANIMA初のアニメ作品タイアップにして、劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』主題歌。WANIMAが『ONE PIECE』のテーマ曲を手掛けているのか、主人公モンキー・D・ルフィがWANIMAの歌詞を書いているのかわからないほどの、ものすごいシンクロぶりを見せた。ここにいるのは、『ONE PIECE』の物語に自らの人生を投影していたKENTA(Vo・B)少年である。物語に感動するには、作品の力だけではなく受け手の感受性が必要不可欠だ。そうして『ONE PIECE』はWANIMAのメッセージの一部となり、“GONG”は無数の人生の主題歌になった。
⑦宝物
《カタチは無いけど掴むまで 伸ばした手/輝きは増すけど続きが気になる 遠くまで/かつてないほど晴れた空 この瞬間が全て》
幸福な時間とはかけがえのないもので、もう人生に悔いはないと思った瞬間さえある。でもそれには形がなくて、手を伸ばせば確実に手が入るものでもない。現実には、憂鬱で空回りする時間は広がる一方だ。WANIMAの歌う“宝物”とは何だろう。それは他の誰かに教えることも押し付けることも、誰かから奪うこともできないものだ。WANIMAは宝物の片鱗を、ダイナミックに展開する力強いメロディとキラキラしたコーラスで魔法のように共有させてくれるが、やはり答えは自分自身で見つけるしかない。
⑧りんどう
《底知れない深い谷で/ぼんやり光ってる/祈りを削り刻んで/一つだけ… あともう少しだけ/弱いままで強くなれ》
2018年の「Everybody!! Tour」途中からライブ披露されるようになり、アルバム『COMINATCHA!!』に先駆け、ストリングスアレンジを纏って配信された、ミディアムテンポの美曲。強者とは、信念や道理すら捻じ曲げて多数派に媚び、太いものに巻かれる者のことだろうか。ライブMCなどで語られていたところによれば、WANIMAの故郷・熊本県の県花でもあるりんどうは、群生することなく個々に花を咲かせる植物なのだそうだ。彼らのルーツと気高いスピリットが育んだ、珠玉のWANIMA流ソウルミュージックである。
⑨春を待って
《咲き乱れ 舞って散って枯れた時も/ずっと変わらず側にいたから/どんな時も悪くないと思えたんだよ》
「COMINATCHA!! TOUR」のアリーナ編に入ってから各地で披露されたが、新型コロナウイルスの蔓延によりツアーは中断。その後、配信シングルとして緊急リリースされた楽曲。長く暗い苦しみの中でKENTAが紡ぎ上げた歌詞は、偶然にもコロナ禍に苦しむ我々に寄り添ってくれた。春の訪れを告げることが救いなのではない。心の雪解けを待ち、手探りで生きる時間が描かれているからこそ、この歌は単なる気休めではなく確かな熱量を伴って我々と共に日々を送るナンバーになった。
⑩Cheddar Flavor
《心奪って/突き刺した言葉抜けずに宿ってる/生きる場所にこだわってる/己に聴き質す》
ZOZOマリンスタジアムからの生配信ライブとなった「COMINATCHA!! TOUR FINAL」のステージ上で、翌日にミニアルバム『Cheddar Flavor』をサプライズリリースすることを発表。同時にこのタイトルチューンを披露したのだが、「自分に歌え」という思いで制作されたというミニアルバム全編を象徴するかのように、恐ろしくリアルな生命力の迸りを感じさせる楽曲。ファストなパンクの中、己を鼓舞する歌詞は少ない言葉数で研ぎ澄まされ、リスナーを巻き込んでゆく。誠実な言葉とサウンドを合致させる、WANIMAの真骨頂と呼ぶべき強烈な一撃だ。
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』12月号にWANIMAのロングインタビュー掲載