①クラーク博士と僕
四星球の曲は、聴くとライブの風景が思い浮かぶものがたくさんあるが、その筆頭とも言うべき存在がこれだ。インディーズ時代から歌い続けている“クラーク博士と僕”が、彼らを語る上で欠かせない代表曲のひとつであるという点に関して、異論のある人はおそらくいないだろう。スーパーヒーローのコスチュームのように気高い輝きを放つ純白のブリーフ、マントみたいに雄々しくなびく法被、激しく情熱的に回転するフラフープなどが、ありありと目に浮かぶ。ガムシャラに全力疾走しているうちに全身から噴き出した汗が、いつの間にか瞳から零れ落ちていた涙と混じり合っていて、高ぶっているのか泣いているのかわからなくなるような感覚――とでも言おうか? この曲の前のめりな展開、生き急ぐかのようなビート、大合唱を誘ってやまない必殺のメロディは、エネルギッシュさに切なさもたっぷりと含ませる四星球の真骨頂だ。重ねていく年齢、過ぎて行く時間に取り残されていく感覚を、「モチモチの木」という印象的なモチーフを軸にして描写している歌詞も素晴らしい。今後もたくさんのリスナー、観客の心を激しく震わせるだろう。
②Mr.Cosmo
これもインディーズ時代から歌っていて、他のバンドのライブでは絶対にあり得ない風景を生み出し続けてきた。まさやん(G)が段ボールで作り上げた小道具を駆使しつつ、メンバー全員で繰り広げる寸劇(茶番)は、ライブに於けるこの曲の欠かせない要素となっている。観客と一緒に「UFO降りてこい!!」と念じる場面に生まれる圧倒的な一体感が、とにかく半端ではない。近い将来、「四星球のライブ会場に、本当にUFOが降臨しました!」というニュース速報が流れたとしても、ファンはさほど驚かないのではないだろうか。“Mr.Cosmo”は、ライブのために用意するネタに対するメンバーたちの情熱に、いつも唸らされる曲でもある。ロックバンドの本業は言うまでもなく「音楽」だが、「笑い」も全力で追求している四星球のコミックバンドとしてのプライドがヒシヒシと伝わってくる。知恵を絞りながら自分たちにしかできないこと、どうしてもやりたいこと、譲れない部分を守り続けた結果、地元の徳島から全国にその名を轟かせる存在となった四星球の心意気が、この曲には濃密且つキャッチーに凝縮されている。
③オモローネバーノウズ
2012年6月にリリースされた3rdシングル『オモローネバーノウズ』。あのシングルはボーナストラック(ライブ収録)含め全11曲入りという規格外のボリュームなのも、このバンドらしいヒネリを感じさせる1枚だった。なにしろ前年にリリースしたミニアルバム『フーテンの花』よりも曲数が多いのだから、今改めて振り返ってもなかなかどうかしている。某有名バンドの曲に似たようなタイトルがあるような気もしなくもないが……それはおそらく気のせいなのだろう。表題曲である“オモローネバーノウズ”をライブで演奏した時に観客が拳を突き上げながら大合唱して、夢中になって踊っている風景は、本当に美しい。パンクロックを基調としつつ、瑞々しいメロディを鳴り響かせることに長けている四星球の魅力が、鮮やかに発揮されているサウンドだ。そして、「大人になっていくことの切なさ」とでも言うべきことが描かれているという点でも、このバンドの本質にあるものを再確認させてくれる。子供の頃に抱いていた素直なときめきが、年齢を重ねていく内に変質していく感覚は、一定の年齢以上の人ならば心当たりがあるのではないだろうか。しかし、彼らの音楽が描いているのは、「大人になることへの否定」ではない。「非情な現実がいくら押し寄せたとしても、面白いこと、面白がれること、面白がり方を見つけていきたい」という決意を、活動姿勢を通しても一貫して示しているのが四星球であり、“オモローネバーノウズ”の核にあるのも、そういうスピリットだ。
④フューちゃん
2013年6月にリリースされた4thシングルの表題曲。自主レーベル「みっちゃん」の記念すべき第1弾作品でもある。前年に結成10周年を迎えた四星球の、さらに広い世界へと飛び出していこうとしていた姿勢も、この曲には込められているのかもしれない――今、改めてじっくりと耳を傾けると、そんなことも思わされる。“フューちゃん”に関して端的に紹介するならば、「涙腺を刺激する四星球の極み」ということになるのだろうか。もちろん他にもグッとくるものはたくさんあるわけだが、瑞々しいメロディ、穏やかなサウンドによって、いわゆる「名曲感」というようなものが醸し出されていて、そもそも紛れもなく名曲であるというのが、“フューちゃん”だ。「未来から来た男からメッセージを受け取る」という設定の歌詞が、斬新であると同時に温かい。「自分はこれからどうなるのだろうか?」という不安は、生きている限り誰もが抱き続けなければいけない。とはいえ、この先、何が起こるのかを現在の世界で暮らしている人物に具体的に教えてしまうと未来が変わってしまう――というジレンマを抱えた未来人から滲み出る優しさが、実に胸に沁みる。《不安て10回言ってごらん/不安 不安 不安 不安………fun/ほらfunに変わったろ》というフレーズに支えられたことがあるファンは、たくさんいるはずだ。
⑤コミックバンド
「日本一泣けるコミックバンド」である四星球にとって、“コミックバンド”は永遠のテーマソングと言っても過言ではないだろう。「笑い」というものへの彼らの姿勢を、この曲はとてもストレートに表明している。直接本人たちにその点に関してそこまで具体的に訊いたことはないのだが、彼らにとって「笑い」とは、限りなく「生きる」という意味に近い言葉なのではないだろうか。どんなに絶望的な状況に陥ったとしても、それを少しでも面白さに変えて笑えたら、心の全てを悲しみ、悔しさ、やりきれなさといったネガティブな感情に支配されてしまうことに対する抵抗ができる。なぜなら、追い詰められても笑うことができるというのは、「生きる」をまだ諦めてはいないということのささやかな証明となるからだ。緊迫した状況の時に頭上から降ってくるタライと、その派手な「ガッシャーン!」という音の描写が印象的でもあるこの曲の歌詞は、そういうことを強く感じさせてくれる。ポエトリーリーディング的な要素も交えながら感情を溢れかえらせる歌、起伏に富んだドラマチックな展開を遂げる演奏も、“コミックバンド”の魅力だ。膨大な量のライブを重ね続けている四星球が手にした豊かな表現力も、この曲は存分に示している。
⑥HEY!HEY!HEY!に出たかった
2013年8月にリリースされたアルバム『COMICBAND~アホの最先端~』に収録されていた“HEY!HEY!HEY!に出たかった”。この曲が世に出た前年に惜しまれつつ放送が終了したフジテレビの音楽番組『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』への想いが込められている。北島康雄(シンガー)は、子供の頃からダウンタウンに夢中になっていた。憧れの存在が司会を務めている音楽番組に、いつか出演するというのは、バンド活動をする中で抱いていた大きな夢であったというのは、この曲に耳を傾ければ本当によくわかる。《叶わなかったな 夢は叶わなかったな 叶わなかった夢は 名前を変えて/思い出だとか 青春だとか 笑い話だとかって 名前を変えて/これからはずっと側にいる》というフレーズは、強い実感の塊だ。リリースされた後、この曲に新たな意味を添える素敵な出来事が起こったというのは、知っている人も多いのでは? 『HEY!HEY!HEY!』は、2015年に注目のアーティストを取り上げるスピンオフ番組『HEY!HEY!NEO!』として復活し、ついに2018年4月、四星球が出演した回が放送されたのだ。ダウンタウンがいるスタジオで鳴り響いた“HEY!HEY!HEY!に出たかった”は、本当に感動的だった。本来、この曲で歌われていた「叶わなかった夢のホロ苦さ」が「諦めた夢が叶った瞬間の無上の喜び」という意味を帯びてきらめいた瞬間は、猛烈にポジティブなメッセージを視聴者に向かって放っていた。
⑦妖怪泣き笑い
たくさん泣いて、笑って、気持ちを開放しながら、少しでも気持ちを前向きなものへと変えていくことを優しく後押ししてくれる。四星球の曲に込められているメッセージは、とても明快で、とことん真っ直ぐに迫ってくるが、シンプルでありつつも粋な切り口や手法が満載されているのが、かけがえのない特徴だ。“妖怪泣き笑い”は、まさしくそういう面が発揮されている曲の代表格だと言えるだろう。古今東西の有名な妖怪やモンスターをたっぷりと登場させたりもしつつ、顔の原型をとどめないくらいに泣いた先に、もしかしたら見えてくるのかもしれない光を期待させてくれるこの歌詞は、たくさんのリスナーの心を慰めてきたに違いない。ライブの現場では《許してくだしぇー 人間しゃみゃー》と歌うのを合図に、フロアの観客が一斉にジャンプするのが恒例となっている。夢中になって何度も飛び跳ねる毎に身も心も軽くなっていくようなあの感覚は、ぜひたくさんの人に味わってもらいたい。⑧チャーミング
四星球の曲は、初めてライブで聴いてもすぐに周囲のファンと一緒に大合唱できてしまうポイントがたくさん用意されている。“チャーミング”も、まさにそういう魅力の塊だ。世界一の照れ屋さんも、無意識の内に《チャーミング チャーミング》と明るく大合唱してしまいそうな猛烈に広くて親しみやすい門戸が、この曲には待ち構えている。そして、これは、もしかしたら男性リスナーが、特に感情移入して聴く曲でもあるのかもしれない。「女子あるある」がたくさん散りばめられている歌詞は、あらゆる男子の心の中にあるはずの女子に関する思い出を掘り起こしてくれる。学年が上がるにしたがって変化していく女子のペンケースの執拗な描写は少々変態チックでもあり、思わず笑ってしまうのだが、このような過剰な観察眼は決して他人事ではない。子供の頃から女子は男子にとって大きな関心の対象であり、それは年齢を重ねても本質的な部分では何も変わらない。なぜなら、自分には決して手にすることができない何かへの憧れを掻き立ててくれる永遠の存在が、男子にとっての女子だからだ。《本当にかわいいものが好きなのは男子の方かもな》というフレーズは、かなり真理をついていると思う。⑨言うてますけども
話の流れを素早く変えて、テンポ良くネタを展開させる際に用いられる上方漫才のフレーズ「言うてますけど」。このかなり特殊な言葉にスポットを当てて、胸に沁みるメッセージを放つこの曲は、北島の書く歌詞の鋭い切れ味を実感させてくれる。一所懸命に生きているなかで頼んでもいないのに、やたらと熱心に押しかけてくる非常に迷惑な存在が悲しみ、悔しさ、やりきれなさだが、「言うてますけど」という心持ちで向き合い、気持ちも切り替えつつどうにかこうにか乗り越えて行くことはできる。しかし……数えきれないくらい「言うてますけど」と言って前に進み続けた果てには、本当に少しでも報われる瞬間は待っているのだろうか? おそらく大半の人が抱えているそういう不安に優しく寄り添ってくれるのが、“言うてますけども”だ。最後を締め括る《神様 悪いが 僕には “もうええわ”は聞こえない》という一節が残す余韻は、なかなか切ない。ビターテイストの四星球を感じさせてくれる曲だ。⑩SWEAT 17 BLUES
今年2月にリリースされた最新アルバム『SWEAT 17 BLUES』。17年目を迎えた四星球による17曲が収録された、通算第17作目――という「17」に徹底的にこだわったこの作品は、「17」という数字から連想される青春のイメージが一貫して脈打っている。そのような全体像が、短い尺の中に凝縮されているのが、表題曲“SWEAT 17 BLUES”だ。時間経過と呼応して肉体が老いていくのは、地上のどのような生物も逃れられない宿命だが、精神の瑞々しさは本人の意思次第でいつまでも保つことができる。驚くほど保守的で凝り固まった考え方をする若者も少なくないし、いつまでも好奇心を捨て去らずに瞳をキラキラさせている老人だってたくさんいるというのは、誰もが心当たりのあるところだろう。17歳の少年少女が流す汗のような心のきらめきは、いくつになっても放っていいはずのものなのだ。思春期の少年少女のような言動を「青くさい」と笑って素通りするのは容易い。しかし「青くさい」は「間違っている」ということの裏付けにはならず、その少々気恥ずかしい香りには、捨ててはならない何かに気づける手掛かりがあるのではないか? “SWEAT 17 BLUES”は、そんなことを我々に問いかけてくれる。