※2022/07/25 更新
①夏色
言わずと知れたメジャー1stシングルで、北川悠仁の作詞・作曲。アップテンポかつ爽やかな曲調が、ゆず登場の鮮烈なインパクトをもたらす原動力となった。夏を謳歌する自然体の心地よさをなびかせる一方、《ブレーキいっぱい握りしめて ゆっくりゆっくり下ってく》というフレーズには、かけがえのない時間を少しでも引き伸ばしてやろうとする思いと、《君》への優しさが溢れている。季節は流れ、音楽はいつか鳴り止んでしまうからこそ、オーディエンスは「もう1回!」と催促せずにはいられないのである。②境界線
初のフルアルバム『ゆず一家』を締めくくるナンバーで、岩沢厚治が作詞・作曲を手がけた。ここで歌われる「境界線」とは何を指しているのだろう。《そこは誰にも気付かれないこの道の分岐点の向こう》。諍いや確執やしがらみの現実を越えて、新しい世界を夢見ること。つらい現実に疑問を持たない者には、その境界線を見ることすら叶わない。音楽に新しい世界の手がかりを求める、強烈なモチベーションを宿した名曲だ。サイケデリックフォークの音像が、次第に明瞭な視界を獲得してゆくアレンジも素晴らしい。③サヨナラバス
北川作による、5作目のシングル表題曲。別れのバスが到着し、走り去るまでの過程を、この上なくキャッチーなフォークポップの時間芸術に仕立て上げている。曲調はアッケラカンとしたほど明るいのに、歌詞は途方もなく哀しく切ないという、音楽と言葉のせめぎ合いがユニーク。キャッチーなポップソングということは、刹那の感情がいつまでも生き続け、共感を呼び共有され、語り継がれるということだ。張り裂けんばかりの思いが、執念を帯びて「キャッチー」へと昇華されたナンバー。④飛べない鳥
突如襲いくる悲劇と困難を抱え込みながらひたむきに生きようとする歌詞は、主題歌として起用されたTVドラマ『涙をふいて』の物語とシンクロしていた。軽やかに舞い上がるような曲調を誇る一方で、メロディの端々にも重い現実と格闘する痕跡が滲む。《きっと見上げた空は青く/ほらごらんよ僕らなんてちっぽけなもんさ》。決して安直な気休めには終始しない、岩沢節のリアリティが炸裂した楽曲だ。⑤栄光の架橋
2004年にNHK アテネオリンピック放送テーマソングに起用され、体操・冨田洋之選手が鉄棒をフィニッシュする瞬間、アナウンサーが「栄光への架橋だ!!」と叫んだことも語り草になった。松任谷正隆による美しく荘厳なアレンジを帯びたバラードであり、一瞬の出来事の背景から豊かな情緒とドラマ性を導き出す北川流ストーリーテリングが見事に花開いている。《誰にも見せない泪があった 人知れず流した泪があった》。スポーツだけには止まらず、人生の様々な歓喜の場面に寄り添う名曲だ。⑥虹
それまで、寺岡呼人との共同プロデュースを中心に多くの作品を生み出してきたゆずだが、2008年から様々なアレンジャー/プロデューサーとの関わりが増え、彼らの音楽は新しい彩りを獲得していた。弦一徹ストリングスのイントロから始まり、蔦谷好位置によって4つ打ちのリズムやカラフルなアレンジが持ち込まれた“虹”は、高らかに突き抜ける《越えて 越えて 越えて》のコーラスを合言葉とするように、人々を優しく鼓舞するアンセム。北川の歌詞とメロディ、大掛かりなアレンジが一丸となって膨大なエネルギーを生み出している。⑦うたエール
20周年ベストのリリースやドームツアーを経た直後、ゆずはEP群の連続リリースにライブにと、間断なく攻勢を見せ続ける。“うたエール”はアルバム『BIG YELL』に先駆けた配信シングル曲。北川と蔦谷好位置による共同作曲で、ヒップホップのリズムトラックの上にオーディエンスとの掛け合いが予めデザインされたような賑々しい曲調となっている。「歌でエールを贈る」というプロフェッショナルな役割にあらためて自覚的になったゆずだからこそ、コンテンポラリーかつ風通しの良い楽曲を生み出すことができたのだろう。⑧公私混同
個々が優れたソングライターであるゆずにとって、作詞・作曲ともに共作というケースは珍しい。かつてのシングル曲“シシカバブー”がそうであったように、混ぜるな危険レベルの共作は絶大な爆発力を導き出す。“公私混同”は、《ピンチをチャンスに履き違えて今日も行く/これでいいのだ》という闇雲なコーラスが強烈な肯定性をもたらすナンバー。アップリフティングなディスコポップを下地にしながら、唐突に差し込まれるトラップ/ビートミュージックのパートも楽しい。理不尽な出来事が襲いくる日々と取っ組み合い、笑い飛ばしながら突き進む一曲だ。⑨NATSUMONOGATARI
石原さとみをフィーチャーしたアートワークとミュージックビデオが物語るように、“NATSUMONOGATARI”は音楽的にも歌詞においても2004年のシングル曲“桜木町”からの連続性を随所にちりばめた楽曲。恋人たちの別れと思い出を歌った“桜木町”から時を経て、幾分風景の様変わりした横浜を舞台に、今も《君》へと思いを馳せる主人公がここにはいる。《一二三(ヒフミ)数える四五六七夜(ヨイツムナヤ)》とユニークなコーラスが弾ける4分数十秒の再生時間には、ゆずとリスナーが共に歩んできた時間が込められていると言っていいだろう。
⑩君を想う
『PEOPLE』から約3ヶ月というショートスパンでリリースされた通算17作目のアルバム『SEES』から先行公開され、アリーナツアーでもいち早く披露されていた楽曲。《僕》に影響を及ぼしてやまない《君》に深く思いを巡らせ、その存在のかけがえのなさを浮き彫りにする。パンデミックやさまざまな分断に蝕まれた時代に、人と人の間に響き渡るポップミュージックの本質を、そしてゆずとリスナーの存在意義を明確に伝え、また『SEES』というアルバムの根底に横たわるテーマを力強く歌い上げた珠玉のポップチューンだ。
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