【10リスト】キタニタツヤ、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!

【10リスト】キタニタツヤ、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!
“青のすみか”のヒットをきっかけにその名前を一気に広げ、一躍J-POPの注目アーティストとなったキタニタツヤ。さまざまな表現形態を使い分けながらシンガーソングライターとして台頭してきた活動初期から現在に至るまで、ニュアンスこそ変わりながらも彼の歌うことの根幹は変わっていない。さまざまな音楽のスタイルと独特の言語感覚を駆使しながら形作られてきた彼のディスコグラフィは、常に圧倒的に理不尽で不条理な世界の中で必死に生きる人々の姿を掬い上げ、そこに光を当ててきた。そんなキタニタツヤの表現者としての核の部分がよくわかる10曲をピックアップ。過去の作品もチェックして彼がどんな道筋を辿って今の場所へと辿り着いたのかを知ると、最近の楽曲の響き方もきっと変わるはずだ。(小川智宏)


①芥の部屋は錆色に沈む

大学在学中の2014年5月、キタニタツヤは当時組んでいたバンドと並行しながらボーカロイドP・こんにちは谷田さんとしての活動をスタートさせた。そんなボカロPとしての最大のヒット曲となったのが、2016年に発表された“芥の部屋は錆色に沈む”だった。ニコニコ動画で公開された楽曲は自身初となる10万再生を記録し殿堂入り。その記念に、と彼がアップしたアコースティックバージョンのセルフカバーが、シンガーソングライター「キタニタツヤ」の始まりとなった。その後自身のファーストアルバム『I DO (NOT) LOVE YOU.』にも収録され、今もライブの定番曲として演奏され続けている。それはとりも直さず、ここに描かれている、たとえば《斜陽さす小さな窓、206号室で途方に暮れている》というフレーズのような情景が、いわば表現者キタニの原風景としていまだ彼の中に息づいているという証でもあるように思える。

②悪魔の踊り方

“芥の部屋は錆色に沈む”同様、この“悪魔の踊り方”もオリジナルはこんにちは谷田さん名義のボカロ曲。そのオリジナルバージョンもいいのだが、個人的にこの曲はキタニタツヤという「人間」によって歌われることによって一気にパワーをもった楽曲だという感じがしている。というのも、特に初期にあっては内向的で内省的、ともすれば自閉的な世界観の中で書かれることの多かったキタニの歌詞だが、この曲は間違いなく外に向けて放たれたメッセージソング、というよりもアジテートソングになっているからだ。《「誰もお前のことなど見ちゃいないさ」/躊躇っている数秒の無益さを知れ》《真善美に背いた踊り方を教えてやるから/いっせーので狂っちまえ、惨めな姿で》という「悪魔の囁き」が、機械ではなくキタニ自身の声で吐き捨てるように歌われることで、ここに刻まれたネガティブワードたちが人々を巻き込み鼓舞する言葉に変わるのである。

③ハイドアンドシーク

メジャーデビュー作となったサードアルバム『DEMAGOG』のオープニングトラックとなったこの“ハイドアンドシーク”。つまりメジャー進出の「第一声」となったこの曲には、キタニタツヤの根本的な思想が滲んでいると思う。イカロス(《あの太陽へと近づいて、羽根の溶ける音を聴く》やバベルの塔(《どうして天の賜った言葉の導くままに進めないのか?/為す術なく塔は落ちる》といった神話的モチーフを駆使しながら、この曲が歌うのはいつも《天井から見ている》人智を超えた存在のことだ(それは彼がボカロPとしてリリースしたアルバムの『彼は天井から見ている』というタイトルそのものだ)。地を震わすような低音が響くサウンドのデザインも、そこから逃れられず地上に縛りつけられた人間のメタファーのように聴こえてくる。その逃げられない「目」からいかに隠れ、生きていくのか。息苦しい世界にどう抗うのか。いわゆる王道ではない道筋を辿ってメジャーのフィールドに辿り着いた彼の、これは所信表明だったのかもしれない。

④人間みたいね

洒脱なファンクサウンドは一聴すればとてもおしゃれだ。刻まれるギターのカッティングとダンスビート、重なる女声コーラスはとてもアーバンな雰囲気を醸し出している。しかし歌詞ではそのイメージとは裏腹な情景が展開していく。そんなとてもキタニらしい違和感がこの“人間みたいね”という楽曲の魅力だ。女性の視点から彼女のことを冷たくあしらう恋人のことを歌ったこの曲。そんな彼に向けて彼女は《あなたまるで人間みたいね/けだもののくせにさ》と言い放つ。「人間らしい」という言葉のもつ一般的な意味合いやイメージをひっくり返しながら歌われる、歪で狂気じみたロマンス。しかし本当に恐ろしいのは、《人間みたいね》と言っている彼女のほうに正義があるとも限らないというところ。ミュージックビデオを観ると果たして狂っているのはどっちなのか、と背筋がゾクゾクする。キタニタツヤの視点とストーリーテリングの凄みが詰まった名曲だ。

⑤聖者の行進

メジャーデビュー後初めてリリースされたCDシングルであり、TVアニメ『平穏世代の韋駄天達』のオープニングテーマとして、キタニタツヤ初のタイアップ曲としてリリースされたのがこの“聖者の行進”である。どっしりとしたギターリフからミニマルなビートが走るダンスチューンへと展開し、それがBメロでのブレイクを経てハードなスタジアムロックへと変貌する、ダイナミックなアレンジと構成がとても強烈だが、これはキタニがアニメのオープニング尺を意識しながら作り上げたものだという。問答無用で進み続ける《聖者の行進》と、憂いや苦しみを抱きながらそこに連なっていく人々という歌詞のイメージは、キタニがずっと歌い続けてきたテーマとも呼応しながら、アニメの世界観にある角度から光を当てている。どこにも救いはないが、救いなどないという前提に立ってそれでも進んでいく、というこの曲の光景は、新たなフェーズに立ったキタニの決意を映しているようにも思える。

⑥プラネテス

キタニにとって大転換作となった4作目のアルバム『BIPOLAR』にあって、“聖者の行進”と並んで彼のニューモードを象徴する楽曲となったのが“プラネテス”だ。Naoki Itaiがアレンジャーとして参加し、サウンドは劇的に変化。一言でいえば、歌を真ん中に据え、まっすぐにJ-POPを作り上げたのがこの曲である。そこにはライブを重ね、オーディエンスと向き合い続けてきたことで訪れた彼自身の心境の変化があったわけだが、確かにこの曲を初めて聴いたときにはとても驚いた。何せ、歌詞において常に「救い」や「希望」といった概念に懐疑的な視線を向け、他者と寄り添うことに躊躇し続けてきたキタニタツヤが、《あなたとふたりで息をしていたい/あなたとふたりで泳いでゆきたい》と歌っていたのである。後半にやってくる合唱のような《あのムーンリバーを渡って》というコーラスも、この曲が「誰か」の存在を希求しながら書かれたことを物語っている。

⑦スカー

キタニタツヤといえばベーシストというイメージが強いかもしれないが、音楽的原体験であるASIAN KUNG-FU GENERATIONとの出会いから、かき鳴らされるギターの音は彼の根っこであり続けてきた。そこにTVアニメ『BLEACH 千年血戦篇』のオープニングテーマという舞台が交わって生まれたのが、イントロからギターが疾走するロックチューン“スカー”だった。この曲がリリースされたとき、彼が「ウケるかどうかわからない」としきりに言っていたのを思い出すが、それぐらい、これは他の曲たちとは違う場所から出てきたものだったのだろう。《青天井はどうしようもなく澄み渡っている》という歌詞の1行目には、常に天井からの視線を感じ続けてきたキタニとは違う開放感や無邪気さがある。この「開放」は、その後の“青のすみか”やアルバム『ROUNDABOUT』につながっていく重要なターニングポイントだった。

⑧青のすみか

TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」のオープニングテーマとして書き下ろされたこの曲は、キタニタツヤ史上最大のヒット曲どころか2023年のJ-POPを代表する楽曲のひとつとなり、彼を年末の『紅白歌合戦』の舞台へと連れて行った。その人気はアニメとの相乗効果で海外にも波及し、インターナショナルのチャートでも上位にランクイン。押しも押されもせぬ代表曲となった“青のすみか”だが、このヒットはなるべくしてなったものだと今改めて思う。“スカー”で挑戦したギターロックの疾走感とEDM的なアッパーさ、常に展開し続けるドラマティックなメロディ。ボカロ的なスピード感もあるし、さりげなく存在を主張するベースのサウンドにもキタニの顔が見える。つまりこの曲は総体的に「キタニタツヤ」を注ぎ込んだ集大成でもあり、同時にそれを大衆に向けて解き放つものでもあったからだ。抜けの良さと同時に拭いきれない憂いを描く歌詞もまさにそう。本人はそう言わないかもしれないが、これが、これこそがキタニタツヤだと思う。

⑨私が明日死ぬなら

最新アルバム『ROUNDABOUT』のオープニングトラックであり、同じくアルバムのラストトラックとなった“大人になっても”とともに、このアルバムを決定づけた楽曲。“私が明日死ぬなら”という曲名(であり、楽曲の歌い出しでもある)はショッキングだが、この曲が歌うのは死ではなく生きることだ。どんなに呼吸がしづらくても、どんなに苦しみに苛まれていても、どんなに救いがなくても、キタニの歌は常に「それでも生きる」主人公を描いてきたが、この曲ではそれがより強く、確信に満ちたメッセージに昇華されている。聴き手を優しく抱きしめるようなピアノ、バイタルサインのようなドラム、ごくシンプルなサウンドの中で畳み掛けられるように歌われるキタニの歌にはいつだって心を揺さぶられる。《今日という日のつまらなさも、音楽にして救われましょう》《こんな歌でも傘にしてどうにかやり過ごすんだよ》――自身が歌う意味にもきわめて自覚的に作られた、キタニによる人生讃歌だ。

⑩次回予告

キタニ自身が巨大な怪人に扮した昭和特撮風ミュージックビデオもなかなかに衝撃的な、アニメ『戦隊大失格』のオープニングテーマ。曲調はテクノ、意表をつく子どもの声、シニカルで世界を斜めから見た歌詞。紅白にも出てJ-POPアーティストとしての市民権を得た次の瞬間にこういう、ちゃぶ台をひっくり返すような楽曲を出してくるところにキタニタツヤという人がよく表れている気がするが、そうは言いながらもこの曲は全部が全部シニカルというわけではない。世界の不条理(《理由もなくこの世界は在るし/理由もなく僕らを嘲るし》)や代わり映えのしないまま続いていく日常(《また同じオープニングテーマが鳴る》)をさも当たり前のように暴き立てながら、その中で《結末の見えた物語を/少しは愛せるように》生きていく人に怪人、もといキタニの眼差しは注がれている。ちなみに、この曲を朝のアラームにすると意外と爽快に目覚められることを、実体験として記しておく。


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