①トラベリング
この曲は「抒情的なメロディ」と「ダンサブルさ」の併せ技であるという点で、現在のKEYTALKに繋がるものの原型として位置付けることができるだろう。2010年7月にリリースされた1stミニアルバム『TIMES SQUARE』は、KEYTALKが作風を広げることに意欲的だった姿が窺われる1枚であり、その大きな成果が“トラベリング”だったのだ。しかし、作詞作曲をした首藤義勝(Vo・B)にとっては、どちらかと言えば、ライトなノリで生み出した曲だったらしい。メイド喫茶に初めて行った際、オムライスにケチャップをかけたメイドさんの「おいしくなあれ。もえもえキュン~」という言葉にインスパイアされた……という旨を本人が語っている記事を読んだことがある。彼のジョークである可能性もあるので、話半分で聞いておくことにするが、大きな確信を抱きながら作った曲ではないというのは、おそらく本当なのだろう。いずれにせよ、KEYTALKのインディーズ時代を語る上で重要な曲であることは間違いない。ライブで“トラベリング”のイントロが始まると、熱心なファンの間からウキウキした様子の歓声が上がる。少年性を滲ませる義勝の歌声が、とても心地よい。②MABOROSHI SUMMER
2012年5月にリリースされたシングル『KTEP2』の1曲目。インディーズ時代の曲に関しては、他にも“sympathy”、“夕映えの街、今”、“太陽系リフレイン”など、大人気のものがいろいろあるが、“MABOROSHI SUMMER”は、メジャーデビュー以降もライブで披露されることが多い。爽やかなメロディの疾走が、突然、不思議な展開を遂げる瞬間の、身体がフワリと浮くような感覚は、味わえば味わうほど癖になる。前衛的なことを自然に聴かせてしまえるこのバンドの高いサウンドアレンジ力、演奏力が、ハッキリと表れている曲だ。少し余談にはなるが……2018年9月8日に行われた幕張メッセ公演のMCの中で、八木優樹(Dr・Cho)による即興曲“MAKUHARI SUMMER”が披露された。「マクハリ~ マクハリ~」と元気いっぱいに歌った彼に、この曲と非常に酷似している“MABOROSHI SUMMER”の作詞作曲者である義勝が「法廷で会いましょう!」と言って大爆笑を巻き起こしたことが懐かしく思い出される。替え歌を作りたくなるくらい、この曲の《幻 幻》という部分の口ずさみたくなる魔力は、非常に大きい。
③fiction escape
2013年3月にリリースされたアルバム『ONE SHOT WONDER』の中で存在感を発揮していた“fiction escape”も、インディーズ時代の彼らを語る上で、大きな存在だ。陽気に飛び跳ねながら踊れて、明るく手拍子することもできて、メロディのキラキラした輝きも圧倒的な曲だが、鳴っている音を細かく耳で追ってみると、「キャッチーに聞こえるのはなぜ!?」と頭がクラクラしてくるという点で、KEYTALKの奥深さも再確認させてくれる。アドレナリンの分泌を激しく煽る見事なハイハットさばき、ボサノバみたいなムードを醸し出しているオシャレなギターのコード、歌っている本人の声の瑞々しさと対照的に、骨太さをかなり覗かせているベース――構成しているパーツの一つひとつを取り出してみると、なかなか尖ったことをしているのに、全てが一体となると全く別の印象であり、ポップミュージックとして鳴り響いてしまっている点にびっくり! これこそ合奏の素晴らしさであり、ロックバンドの醍醐味だ。メジャーデビュー前の段階でこんなことを涼しい顔をしてやっていた彼らは、やはり只者ではなかった。④パラレル
KEYTALKは、2013年11月にシングル『コースター』でメジャーデビュー。その翌年の3月にリリースされたシングルのタイトル曲が“パラレル”であった。「KEYTALK=ダンサブルなサウンドが十八番のロックバンド」というイメージを本格的に定着させたのが、この曲だったと記憶している。サビに突入したと同時に、何かに憑りつかれたかのような勢いで八木が刻み始める4つ打ちのリズムは、いびきをかいて熟睡している人間が、いきなり立ち上がって踊り出してもおかしくないくらい、ダンス衝動を徹底的に煽る刺激の塊だ。歌とはまた別の流麗なメロディを奏で続けていて、「第3のボーカリスト」と言っても差し支えのない自己主張をしているのに、巨匠こと寺中友将(Vo・G)と義勝のツインボーカルを邪魔するどころか、的確に引き立てている小野武正(G・Cho)のギターにも唸らされる。「全員がフロントマン」という印象を放つこの曲をリリースした2014年の夏辺りからKEYTALKは各地の音楽フェスで観客を盛り上げまくり、ファン層を急速に拡大していった。⑤MONSTER DANCE
2014年10月にシングルでリリースされて以来、この曲が演奏されなかったことは、出演時間の短いイベントも含めて、ほぼないのではないだろうか。様々なミュージシャンのグッズを身に着けた観客が、“MONSTER DANCE”を聴きながら一斉に盛り上がっている風景は、音楽フェスが生み得る空間の理想形と言って良いだろう。このようなことができてしまうのは、この曲のダンサブルさとキャッチーさが桁外れであるからなのは言うまでもない。しかし、実はかなり奇妙な展開を遂げるアバンギャルドな曲だと感じている人も多いのでは? 《アルバラーバ アルバラーバ/インダスの源流を探して…》と歌い始める直前に突然幕開けるサイケデリックなメロディ、八木がドラムを叩きながら夢中になって吹き鳴らすホイッスルは、何度聴いても非常にどうかしている。そして、この展開でクラクラしたひと時を経て、クライマックスへと雪崩れ込むと、理性を完全にすっ飛ばしたダンスの悦びが、我々リスナーの全身からドバドバと溢れ出る。冷静に分析してみても、やはりかなりクレイジーな曲だ。⑥桜花爛漫
2015年4月にリリースされたシングルのタイトル曲。NHK Eテレで放送された高橋留美子原作のテレビアニメ『境界のRINNE』第1シリーズのオープニングテーマ。土曜日の夕方の番組で流れたことにより、子供たちにもKEYTALKの存在は知れ渡ったのではないだろうか。現世を彷徨っている霊魂を輪廻の輪にのせるために奮闘する主人公たちの姿をコメディタッチで描いた『境界のRINNE』は、登場するアイテムなども含めて、全体的に「和」を感じさせる要素がたくさん散りばめられている。そういう作品のイメージを踏まえながら書き下ろされたことにより、義勝の生み出すメロディがもともと持っていた「和的な情緒」が鮮やかに開花する結果へと至ったのが、“桜花爛漫”の特筆すべき点だ。高鳴るバンドサウンドを感じながら熱く盛り上がれると同時に、メロディに耳を傾けている内に、穏やかな安らぎにも包まれることもできるのは、この曲が漂わせている和の風味が果たしている役割が非常に大きい。⑦MATSURI BAYASHI
義勝と並んで、KEYTALKの曲を数多く手がけてきた巨匠の代表作であるという点に関して、異論のある人はおそらくいないだろう。“祭りやろう”、“祭りこぞう”、“お祭りセンセーション”……インディーズ時代から続いてきた彼の「お祭りシリーズ」の決定版とも言うべき存在が、2016年5月にシングルでリリースされた“MATSURI BAYASHI”だ。地元の商店街が5月から9月にかけて、9が付く日にお祭りをたくさんやっていたのが、「祭り」と聞くと血が騒ぐ気質を育んだ――という旨の話を、巨匠から聞いたことがある。日本の祭囃子を思わせるリズム、旋律、掛け声がたっぷりと盛り込まれているこの曲は、彼同様に日本で生まれ育った人間を本能的に昂揚させる力を確実に帯びている。義勝の曲が漂わせる「少年性」とはまた一味異なる、「大人の男性の力強さ」を想起させる質感があるのも、“MATSURI BAYASHI”の興味深いところだ。そして、巨匠が作ったデモの段階から入っていたのだという鬼のように激しく連打するベースのスラップを人力で見事にプレイしている義勝、恐るべし!⑧Love me
義勝の作る曲の「少年性」に関して、先ほどから何度か触れているが、それはさらに踏み込んで語るならば、「恋に対してあまり器用だとは言えない男の子が、好きな女の子に対して抱くドキドキ」というような風味だ。例えば、ファンの間でとても人気がある“プルオーバー”や“ミルクティーは恋の味”などは、まさしくこれに該当するが、2016年11月にシングルでリリースされた“Love me”も、そういう作風の代表格として挙げられる。冬の足音が聞こえてきて、日増しに肌寒さを増していく中、大好きな女の子への想いを募らせていく様を描写している歌詞は、「胸キュン」という表現がとてもよく似合う。この胸キュン感を豊かに彩っているのが、4人のバンド演奏に対して効果的に添加されているキラキラしたシンセサイザーのサウンドだ。KEYTALKは、多くの音を積み重ねていくタイプのバンドではないが、「ここぞ!」というポイントでシンセサイザーを活用するのが、実はとても上手い。“Love me”は、そういう部分も再確認させてくれる。