【10リスト】椎名林檎の抗えない強烈な毒が炸裂した名曲10

【10リスト】椎名林檎の抗えない強烈な毒が炸裂した名曲10
5月27日(月)にアルバム『三毒史』をリリースする椎名林檎。三毒とは人間の最も根本的な3つの煩悩、すなわち「貪(むさぼり)、瞋(にくしみ)、痴(おろかさ)」を指しているという。これを機に、椎名林檎がこれまでにも数多く生み出してきた強烈な毒を持つ名曲たちを紹介したい。その刺激的なサウンドと言葉はリスナーにどんな衝撃を与えてきたのか、そして、その「毒」が持つ本質とは何なのかを探ってみたい。(上野三樹)


①積木遊び/1stアルバム『無罪モラトリアム』(1999年)収録
《嗚呼 しくじった しくじった》のフレーズでお馴染み、1stアルバム『無罪モラトリアム』(1999年)に収録のこの曲。妙に軽快でキャッチーなメロディラインながら、高度な言葉遊びを用いた歌詞とノイジーなギターサウンドの中に様々な要素がコラージュされていくような曲展開が独特。デビュー当時の椎名林檎が多くのリスナーを次々と翻弄させ、中毒にさせた入り口のような1曲。

②警告/1stアルバム『無罪モラトリアム』収録
こちらも1stアルバム『無罪モラトリアム』収録でありながら、《あなたの部屋の留守番電話》や、《伸ばした髪》といったモチーフが生々しく、虚しい恋の終わりに咽び泣くようなエモーショナルなナンバー。毒々しさと同時に、聴いたり歌ったりしていると不思議とスッキリとした気持ちになってしまうところに椎名林檎のJ-POP職人としての巧みな技も感じさせる。特に終盤の盛り上がりからラストへの《「機械の様に余り馬鹿にしないで」って云いたい…》に向かう最高潮の熱気がたまらない。

③罪と罰/2ndアルバム『勝訴ストリップ』(2000年)収録
2ndアルバム『勝訴ストリップ』(2000年)の先行シングルとしてリリースされたこの曲。ミュージックビデオではギョッとするようなメイクで、車を真っ二つにぶった切るという強烈なインパクトを残したことは今でも忘れられないし、巻き舌や掠れた声で絶唱するように歌われているのも特徴的。しかしながら、《あたしの名前をちゃんと呼んで》という想いの切実さが真っ直ぐに届く、何とも美しくメランコリックなミディアムバラードでもある。

④虚言症/2ndアルバム『勝訴ストリップ』収録
2ndアルバム『勝訴ストリップ』の1曲目を飾るこの曲は、高校生の時に書かれたもの。当時の新聞で読んだ、自殺した女の子のことをモチーフに《線路上に寝転んでみたりしないで大丈夫》、《いま君の為に歌うことだって出来る》と、メッセージ性の強い歌詞がストレートに放たれているものの、その曲のタイトルが最終的に“虚言症”となってリリースされたところが何とも椎名林檎らしい。嘘でも皮肉でもいいから「大丈夫」と歌う彼女のヒリヒリとした声こそが真実なのだ、という説得力に満ちている。

⑤宗教/3rdアルバム『加爾基 精液 栗ノ花』(2003年)収録
活動休止を経て3年ぶりにリリースされた3rdアルバム『加爾基 精液 栗ノ花』(2003年)の1曲目。民族楽器などを用いた実験的アプローチにシフトした今作の幕開けとして、不穏かつミステリアスな空気を撒き散らす。《誰か僕に巧いお菓子を/毒で本望 嘘で元々さ》と歌われる冒頭から、どこか淡々とした虚しさが漂っており、これはこの作品全体にも通じていく。これ以前の2枚のアルバムに顕著だった絶唱スタイルは鳴りを潜め、どこか囁くような歌唱アプローチが目立つが、サウンドの浮遊感と相まって、これもまた心地好い中毒性をもたらしている。

⑥尖った手口/4thアルバム『三文ゴシップ』(2009年)収録
4thアルバム『三文ゴシップ』(2009年)収録で、Mummy-Dが参加しているこの曲はイントロからバッキバキにディストーションがかかったギターが鳴り響くが、そのサウンドも声もデジタル処理されたようなアプローチが斬新。《死刑判決》、《生存者は誰だ》といった鋭い言葉と共に、脳裏に焼き付くような毒々しさがある。

⑦静かなる逆襲/5thアルバム『日出処』(2014年)収録
5thアルバム『日出処』(2014年)収録のこの曲は18歳の時に書いたメロディに、当時30代の椎名林檎が歌詞を新たに付けたもの。イントロからファンキーな華やかさとゾクゾクするような毒っ気が入り交じる。東京という舞台をあらためて描き直しているような歌詞もポイントで、TSUTAYAやSTARBUCKSといった親しみのあるモチーフを散りばめながら、真実や愛を求めて声を荒げる椎名林檎に痺れる。

⑧神様、仏様/6thアルバム『三毒史』(2019年)収録
15thシングル『長く短い祭/神様、仏様』(2015年)としてリリースされたこの曲は、ZAZEN BOYSの向井秀徳がラップで参加。同郷の二人によるコラボは、ホーンセクションやタブラも絡んで凄まじい熱気に。人間の欲望を歌う時の椎名林檎の妖艶さ、この見事な方程式にハマる1曲。

⑨おとなの掟/セルフカバーアルバム『逆輸入 〜航空局〜』(2017年)収録
ドラマ『カルテット』の主題歌として制作され、出演者の4人(松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平)がDoughnuts Hole名義で歌唱を担当。椎名のセルフカバーバージョン、松崎ナオとのデュエットバージョンもあるこの曲は、大人だからこその不自由も自由も、残酷なほど明確な言葉で描き出している。子供の頃に正しいと思い込んでいたことも、知識も言葉も、全てが無力に感じてしまったとき、何を選択して何を信じたらいいのだろうか、そんな問いかけを聴き手に突きつける。それ以上に、これから何色にでも染まることだってできそうな鮮やかなメロディ展開が希望を与えている。

⑩鶏と蛇と豚/6thアルバム『三毒史』収録
最新アルバム『三毒史』の1曲目を飾るこの曲は、管楽器や弦楽器も含む大編成を自らアレンジしたものであり、まさに椎名林檎の「毒を持つ名曲たち」の最新バージョンである。和訳に《はじめは確かに好ましく感ぜられたこの蜜がまさか毒なのではあるまいか。》という一節があるが、彼女の音楽にある蜜でもあり毒でもある、そのアンビバレンツな魅力にきっとこれからも私たちは抗うことができない。
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