初めて『ROCKIN'ON JAPAN』の誌面でインタビューをさせてもらったのが2023年の夏頃で、その時の僕のトンボコープへの印象は「なんて野心的な4人組だろう」というものだった。「でっかいバンドになりたい」という野心、「名曲を生み出したい」という野心……そして実際、結成からわずか1年ながら“Now is the best!!!”で旋風を巻き起こしていた彼らの楽曲からは才気がほとばしっていた。エネルギッシュなバンドサウンドと精緻なアレンジの奥には、4人の情熱とロマンが蠢いていた。あれから約2年、トンボコープは新たなアンセム“HEART BEAT”のリリースと共にメジャーデビューを発表した。“HEART BEAT”はでっかいバンドを目指す4人に相応しい、でっかい曲だ。そして同時に、小さいものの尊さや美しさを守り抜こうとする曲でもある。“HEART BEAT”は散らばった孤独を星々のように繋ぎ、夜空に壮大で美しい音楽の星座を描き出す。作詞作曲を手掛けた雪村りん（G・Vo）は言う。この曲は、トンボコープを聴いてる人たちと自分たちが繋がっている証なんだと。

このインタビューはメジャーデビューの発表直前に行ったもので、雪村りん、そらサンダー（G）、でかそ（B）、林龍之介（Dr）の4人に改めてメジャーデビューに至るまでのバンドのヒストリーを振り返ってもらいながら、トンボコープの歩みと進化を振り返った。決して華やかできれいなお話だけでは語れない物語だ。だからバンドって最高なのだ。

インタビュー＝天野史彬

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音楽に留まらず、人生において、「偉大な人間になりたい」っていう野望が4人全員にあるバンドなんです（雪村）

──新曲“HEART BEAT”はメジャーデビュー発表のタイミングで世に出るに相応しいスケールの大きな名曲ですね。アンセムになるような曲を生み出すことは意識していたんですか？

雪村　最近書いている曲は全部そうですね。どの曲がメジャーデビューのタイミングに選ばれても遜色ないような曲ばかりできていると思います。今も毎日のようにデモが上がっているような状態で。

──毎日！

林　アルバムはすごくボリューム感のあるものになりそうで。そこに入る曲も、そこから溢れる曲も、全部がめちゃくちゃいい曲って感じです。

──曲の方向性としては、どんなものが出てきていると感じますか？

でかそ　ちょっと前に、龍之介が「恋愛みたいな身近なことだけじゃなくて、そこから1歩踏み込んだスケールの大きなテーマを曲にしたい」と言っていたんですけど、今出てきている楽曲はまさに、どんどんスケールがでかくなっている感じがしていて。

そら　うん。壮大になっている感じがする。


──“HEART BEAT”もそういう曲ですよね。「孤独」とか「ひとり」とか、そういう小さなものの尊さを守ったまま、大きなものに接続していくような曲だと思うし、トンボコープの楽曲はどんどんその要素が強まっている気がします。

林　歳をちょっと重ねたのもあると思うし、自分たちが憧れてきたRADWIMPSやBUMP OF CHICKENのようなバンドになりたいっていう気持ちが、改めて強くなっているのかもしれないです。そう思うと、恋愛を歌うことも大切だけど、「なぜ生きるのか？」みたいな哲学的な問いも曲の中に入り込んでくるというか。「より幅広い層に届く曲を作りたい」という思いが、曲を作るふたり（雪村と林）の中で強まっていて、それが楽曲のスケールに繋がっているんだと思います。

──雪村さんもそういうことは感じますか？

雪村　そうですね。音楽に留まらず、人生において、「偉大な人間になりたい」っていう男くさい野望が4人全員にあるバンドなので。それが合体して音楽になっているんだと思います。

でかそ　トンボコープを始める時、「やるなら日本一」って言って集まっているからね。

本来の自分たちよりも上のステージに立つことは、わかりやすく成長のきっかけになった。あの時「身の丈に合っていない」と思ったステージも、今立つと「もっと質の高いステージにしたい」と思う（でかそ）

──そもそもトンボコープは、結成から1年後の2023年にシングル“Now is the best!!!”で大きなバズを生み出して、すごい勢いでスタートダッシュを切ったバンドというイメージもあるんです。そんな“Now is the best!!!”を収録した1stミニアルバム『羽化』と、翌2024年に出た2ndミニアルバム『ファースト・クライ・ベイビー』は、加速するバンドの勢いも、その反動も、パッケージされた初期衝動的な作品たちだと思います。この頃の自分たちの状況を改めて振り返ると、どんなことを感じますか？

雪村　“Now is the best!!!”の時期は、すごいスピードで曲が聴かれていったんですけど、そのぶん、見落とすものがどんどん増えていく感覚もあったなと思います。もちろん、あの広がりのおかげで出会えた人や音楽もたくさんあるし、この経験を経て「本当に自分が伝えたいことは何か？」ということを整理してから曲を書くようにはなったので、あの時期はあの時期で、自分たちにとっては大事なものだったなと思うんですけど。

──葛藤もあったんですね。

雪村　自分の芯には「いろんな人に自分の音楽を届けたい」という思いが強くあるのは確かなんだけど、それに惑わされすぎて、「こういう曲を書いたら人に届くだろう」みたいな気持ちがどんどん膨らんできて。それによって自分の本当に伝えたいことが見えなくなっていく感覚はありました。


林　僕もあの時期は台風の目の中にいるっていう感覚で、あまり実感が湧かないまま物事が大きくなっていった感じはしていましたね。“Now is the best!!!”のあと、『ファースト・クライ・ベイビー』では新しいトンボコープを模索しようとして、その結果、曲で世の中に不平不満を言ってみたり、多少攻撃的な要素も出てきて。それもあの時期の自分たちだなとは思うんですけど、最近は、自分たちが作っているのは「誰かのための音楽」なんだっていう感覚が強くなっているなと思います。「誰かの光でありたい」という気持ちのほうが、今は強まっているかな。

──『ファースト・クライ・ベイビー』に収録されている“PARADIGM”や“明日の一面”のような社会に対しての批評性を持った楽曲たちは、“Now is the best!!!”の盛り上がりの中で見落してしまいそうな部分を力ずくで取り戻そうとする部分もあったのかなと聴き手としては感じます。

林　バズってやっぱり目まぐるしくて、「何をもって僕たちを求めてくれているのかな？」と人に思ったりもした時期だったし、ムカつくことももちろんあったし（笑）。楽しい中にも「これで本当にいいんだろうか？」みたいに思った時期でもあったので、それが出た部分はあったと思います。

雪村　今“明日の一面”を聴くと、「自分の伝えたいことを伝えなきゃ」っていう葛藤は感じますね。「流されちゃいけない」っていう気持ちはあったと思う。


──でかそさんとそらさんは、この辺りの時期を振り返るとどうですか？

でかそ　身の丈に合っていないステージも多かったなと思っていて。ただ、本来の自分たちよりも上のステージに立つことは、わかりやすく成長のきっかけにはなったのかなと思います。あの時「まだ身の丈に合っていない」と思ったステージも、今立つと「もっと質の高いステージにしたい」と思うようになったので。

そら　僕はあの頃ライブで後悔ばかりしていましたね。人が多いところにも慣れていないし、めちゃくちゃ緊張しちゃっていて。自分の力の6割くらいしか出せてないと感じるライブも多かったし、ライブ後にひとりでめちゃくちゃ反省して。それもあって、「もう後悔したくない」って、もっと練習するようになりました。

雪村　僕も自分たちの出番が終わったあとにライブハウスを抜け出して、近くの駐車場でうなだれたりしましたね。そのくらい、ライブがうまくいかない日も多かったです。