【ライブレポート】ついに完結――チープ・トリックが日本武道館で圧巻のフィナーレを飾った。フェアウェルツアーの締めくくりにふさわしい聖地:日本武道館公演を完全レポート!

【ライブレポート】ついに完結――チープ・トリックが日本武道館で圧巻のフィナーレを飾った。フェアウェルツアーの締めくくりにふさわしい聖地:日本武道館公演を完全レポート!
これが最後なのか? 日本で数々の伝説ライブを刻み続けた:チープ・トリック。フェアウェルと銘打たれた圧巻のフィナーレ公演を徹底的にレポートします!
(rockin'on 12月号掲載) 



【ライブレポート】ついに完結――チープ・トリックが日本武道館で圧巻のフィナーレを飾った。フェアウェルツアーの締めくくりにふさわしい聖地:日本武道館公演を完全レポート!

文=高見展

コロナ禍や突然の来日中止などを挟んで7年ぶりに実現したチープ・トリックの来日ツアー。ツアーのタイトルとして「フェアウェル・ツアー」と、つまり「さよならツアー」となっているのだが、一体どこがさよならなのかよくわからなかった。というのは、さよならというからにはもう身体的にきついとか、そういうことがあったのかもしれないと思ったし、実際、トム・ピーターソンなどは21年に大きな手術を受けていたからだ。そろそろ潮時かとバンドも判断したのかと勝手に想像してしまっていた。しかし、公演が開始した瞬間からバリバリに元気なパフォーマンスが披露され「なんでさよならなの?」と嬉しい疑問に首を傾げ続けるしかなかった。

もちろん、リック・ニールセンは昔のように飛んだり跳ねたりはしないし、しっかり歩いて演奏するだけだけど、ギターの音はギンギンにタイトだ。確かにリックの背中は曲がって見えるかもしれないけど、最初の武道館の頃から彼はもともと猫背なのだ。ちなみにぼくはこの最初の武道館公演は観ていないけど、映像作品をずっとなぞっていけば、リックは昔から猫背だとよくわかるはずだ。さすがに舞台装置に飛び乗ってそこからまた飛び降りるようなことはもうしないけれども、実はパフォーマンスのテンションは全然変わっていない。もちろんリックの息子ダックスのドラムはパワー全開で、ロビンのボーカルは相変わらず声量もテクも抜群で煽情的だし、トムのベースとコーラスも素晴らしい。はっきりいって非の打ちどころのないパワーポップロックをたたきつけてくる演奏となっているのだ。

というわけでこの日観たのは日本武道館公演で、チープ・トリックを世界的に有名にした78年のライブアルバムの傑作中の傑作『チープ・トリックat武道館』の音源の舞台となった会場だ。オープナーは『蒼ざめたハイウェイ』からの〝ハロー・ゼア〟、そして同じアルバムからの〝カモン・カモン〟が続く。これはもう78年の武道館公演のセットを可能な限りなぞっていくのかなという展開。〝ハロー・ゼア〟はチープ・トリックのギターロックとしてのバンドのエッジをぶちかます曲で、本当にオープナーとしてよく出来てるなあと聴くたびに感激してしまう。続く〝カモン・カモン〟はポップロックとしてのバンドの資質をつまびらかにする名曲。つまり、このふたつの要素が揃っているところがこのバンドの類稀な魅力なのだ。

続く〝ルックアウト〟はさらにパンキッシュで攻撃的なアタックとあまりにキャッチーなメロディとコーラスを聴かせる名曲。ただ、この曲は最初期からほとんど取り上げられることなくアルバムにも未収録で、ボーナストラックとしてその後収録されるまでは『チープ・トリックat武道館』のライブ音源でしか聴けなかったが、近年では取り上げられることが多い。さらに『蒼ざめたハイウェイ』からのメタルのリフっぽいフレーズとコーラスがユーモラスな〝ビッグ・アイズ〟に続き、〝ニード・ユア・ラヴ〟。これも初期にはアルバム未収録だったが、ライブでは定番曲となっていた曲でその後79年の『ドリーム・ポリス』に収録された。つまり、これもまた『ドリーム・ポリス』まで『チープ・トリックat武道館』でしか聴けなかったが、実にライブを盛り上げるためにあつらえたような曲だ。リックがギターのコードを鳴らしながらトムとダックスがそこに厚みを加えていく展開がひとしきり続いた後にロビンがそのアンサンブルにかきむしるようなボーカルを被せ続けていく。

その後コーラスというかブリッジではヘヴィなブルースリフが炸裂してロビンがボーカルをまとめており、T・レックス的なブギとAC/DC的なリフが錯綜しつつ、リックが弾きまくりながらエンディングへとたたみかけていく。もう素晴らしすぎるギターロックである。ここまでなんと『チープ・トリックat武道館』のA面をすべて曲順に演奏してくれたわけで、本当に嬉しすぎる。武道館でチープ・トリックを観ることの盛り上がりをよく汲んでくれてこれ以上にないセットだ。ただし、78年の実際の武道館公演のセットはこの曲順とは違っている。その次は『蒼ざめたハイウェイ』からの〝今夜は帰さない〟で、ここからはもうバンドの自由裁量のセットとなっていくようだ。

それにしても、この曲ほどチープ・トリックのすさまじいポップセンスを体現した曲はないだろう。学校の時報のチャイム音とたたみかけていくロックンロールと性急な思いを叫びあげるボーカルを組み合わせたこの曲はあまりにも凝縮された恋の暴走を吐露する見事な出来となっている。特にこのチャイム音は日本では普通に学校で使われているものなので、甘酸っぱさが余計に凝縮される効果があって、さらに『チープ・トリックat武道館』の音源は最後のアンコールで披露された曲だったのですさまじい興奮とテンションを伝えるものになっていた。けれども、今回の武道館でのこの曲もまたすさまじいテンションに満ちたパフォーマンスになっていた。あるいはぼく自身のテンションが上がりまくっていたのか。確かにスイッチが入ってしまった感じはしたが、会場もこの曲で一斉に沸いたように思う。

と思ったら続いては〝エイント・ザット・ア・シェイム〟。やっぱり〝今夜は帰さない〟と組み合わせてきたかと狂喜乱舞状態に。これはオリジナルロックンローラーのファッツ・ドミノの名曲のカバーなのだが、完全にチープ・トリックのものとして魔改造された名ナンバー。リックのトリッキーなギターソロからポップなハードロック調のアタックへと雪崩れ込むチープ・トリックの名アレンジで、ここまで観ただけでもう帰ってもいいかもと思えるほどの満足感を堪能できる展開だった。

続いては77年の『チープ・トリック』からの〝エロ・キディーズ〟。歌詞はぼかしが多く難解なのだけれども個人的には校内暴力について触れているところが多いと思うし、とても文学性が高くて好きな曲で、どことなくマルコム・マクダウェルの映画『If もしも....』に近い息苦しさをこのサウンドは届けていると思う。これに続くのが78年の『天国の罠』からの〝ハイ・ローラー〟。収録は『天国の罠』だが、最初期の頃からの持ち歌で、わりとシンプルなハードロックをベースにしたポップロックとなっている。初期のうちは日本公演も含めてたまに取り上げられていたが、その後はまったく演奏されなくなった。だが、近年ではかなりの頻度で演奏されている。

続くのは『チープ・トリック』からの〝ザ・バラッド・オブ・TV・ヴァイオレンス〟。これはブルースをベースにしたハードロックで、結成当初はこういうサウンドを模索していたんだろうなという曲。端的にブリティッシュロックっぽいし、UKロックとチープ・トリックとの親和性というのはこういうところにあるのかなと思うし、初期のジョン・レノンのソロ曲を彷彿とさせる。これは78年の武道館では披露されなかった曲だが、アメリカでは思い出したように取り上げられ、特に近年ではよく披露されている。さらに『天国の罠』の〝カリフォルニア・マン〟。これはエレクトリック・ライト・オーケストラの母体となったザ・ムーヴのカバーでもともとはポップなR&Bとして作られたものをチープ・トリックが究極のポップなロックンロールとしてカスタマイズした名曲。全キャリアを通して頻繁に取り上げられるバンドのライブの定番曲でもある。

そして11月リリースのバンドの新作『オール・ウォッシュド・アップ』からの新曲〝TWELVE GATES〟。ミッドテンポのこれがまたロビンのボーカルでどこまでも歌い上げる名曲なのだ。おそらくこの曲もまたザ・ビートルズからの影響を取り沙汰されることになるだろうし、サウンド的にちょっと〝レイン〟のサイケ感を思わせるところがビートルズのファンにも嬉しいと思う。けれども、これは飽くまでもチープ・トリックのポップロックの奥義のひとつで、それもかなり至芸の技だと思う。リックもロビンもトムもダックスも素晴らしいパフォーマンスを披露している。というわけでこの最新ナンバーが披露されるまで、セットリストの全曲が77年から79年までのもので、しかもその殆どが、78年の武道館公演で披露されていたところがすごい。この時期にバンドの勢いが極まっていたのかがよくわかる。決して突然の日本でのブレイクは偶然の出来事ではなかったのだ。

続いてトムがボーカルを取る〝アイ・ノウ・ホワット・アイ・ウォント〟、そして〝オン・トップ・オブ・ザ・ワールド〟と続き、安定したポップなギターロックの〝オー・キャロライン〟。いよいよ締めにかかるかというところで80年代の復活の狼煙となった〝永遠の愛の炎〟。そして本編の締めは誰もが知る代表曲の〝甘い罠〟と〝サレンダー〟で観客も盛り上がりまくることになった。アンコールは〝サヨナラ・グッバイ〟〝ドリーム・ポリス〟〝グッドナイト〟を一気に駆け抜けて終了した。

今回の日本武道館公演は素晴らしいライブだったのだが、それにしてもなぜこれが「フェアウェル」なのか。よくよく調べてみると現在のツアーにはそんな文言はないけど日本公演だけにはついている。日本だけ、あるいは武道館だけ最後ということだろうか。本編の最後にロビンの言った、「チケットにはフェアウェルとあるけどそれはきみたち次第だよ」という言葉を信じたい。


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