【解説】シーンを揺るがす今年最大の事件! 謎の覆面メタル集団:スリープ・トークンとは一体何者なのか。彼らが巻き起こす壮大な物語を見逃すな!

【解説】シーンを揺るがす今年最大の事件! 謎の覆面メタル集団:スリープ・トークンとは一体何者なのか。彼らが巻き起こす壮大な物語を見逃すな!

今世界中で話題をさらう、覆面メタルコレクティブ:スリープ・トークンが最新アルバムをリリース! 2025年の音楽シーンにおいて、最大の事件となった彼らの活動や原点について徹底解説します。(rockin’on 2025年8月号掲載) 



【解説】シーンを揺るがす今年最大の事件! 謎の覆面メタル集団:スリープ・トークンとは一体何者なのか。彼らが巻き起こす壮大な物語を見逃すな!

(文=粉川しの)

スリープ・トークン(以下ST)か、それ以外か——25年のロック状況は、この覆面メタルコレクティブのもたらしたインパクトによって、まさに激震の様相を呈している。メタルの異端児か、ロックの救世主か、はたまたジャンルのトリックスターか、彼らの評価はリスナーの立ち位置によって様々だろうが、ひとつ確かなのは今、STほど濃く狭いコアファンと、薄く広いマスファンの両方から、絶大な支持を集めるロックバンドは他に存在しないということだ。 

そのインパクトは数々の記録が証明している。5月にリリースされた最新アルバム『イーヴン・イン・アーケイディア』は、ビルボードチャートで1位を獲得。今やロックアルバムがアメリカで1位になること自体が異例だが、1週間で12万7000ユニットを売った同作は、過去1年で最も売れたロックアルバムとなった。特筆すべきは同作のセールス比率で、フィジカルの売り上げとストリーミングの売り上げがほぼ半々というバランスは、フィジカルに極端に寄ったロックバンドの平均から大きく外れたものだ。

本作はハードロックアルバムとして史上最多の週間ストリーミング数を叩き出し、同時に91年以降のヴァイナル売り上げでも新記録を樹立したのだから、つくづく死角がない。アルバムから10曲もビルボード100にチャートインした(最高位は“キャラメル”の34位)のも、ロックバンドとしては前代未聞だろう。濃く狭いコアファン(ヴァイナル購買層)と、薄く広いマスファン(ストリーミング&シングル層)の合体によって、STは、今年最大のロックの事件になろうとしている。


『イーヴン・イン〜』については後で詳しく触れるが、同作はメタル+他(多)ジャンル+ポップボーカルという、STの特性を最大化させた一作であり、その結果、前述のように過去最大の成功を収める一方で、伝統的メタルファンやロックリスナーからのバックラッシュも、未だかつてなく目立ち始めている。彼らを取り巻く状況はシンパとアンチで二極化しており、リリース以降、その二極間に生まれる軋轢をバズとしてさらに盛り上がるという、バイラル時代特有のサイクルが続いている。かくなる激震の震源地、STとは一体何者なのか、改めてその原点から辿ってみることにしよう。

STは16年にロンドンで結成された。中心人物はシンガー兼メインソングライターのヴェッセルで、他のメンバーはⅡ、Ⅲ、Ⅳ、Esperaと数字やトリオ名で呼ばれており、楽曲のクレジットはヴェッセルとⅡのみだ。覆面姿と匿名性は、デビュー時から徹底されていて、顔出しNGはもちろん、メディア取材も基本NG。インタビューは、キャリア初期の数誌の取材に限られている。そのうちのひとつが英メタル・ハマーのインタビュー(17年)で、同記事の中で彼らは現在まで不変のバンド基本理念を、既にいくつか説明している。

例えば、STとは古代神「スリープ」に仕える者たちである、というコンセプトがそうだ。「我々がここに辿り着いた経緯は、我々が何者であるかと同様に無関係だ。重要なのは音楽とメッセージであり、我々はスリープに仕え、彼のメッセージを伝えるためにここにいる」と彼らは語っている。ヴェッセルが夢の中でスリープと出会って啓示を受け、彼の書く歌詞はスリープの言葉の代弁であるという設定からも、STが意図的に宗教として構築されたグループであることが窺える。なお、初期のマスクの紋様は、ゲルマンの古い文字体系であるルーン文字で書かれた、「ST」の頭文字だという。

同インタビューで解読不能なSTのサウンドの説明を求められた際、彼らは「人生は暗く明るく、醜く美しい。ジャンルに迷い込んではいけない。音楽は皆のためにあるのだから」と語った。そんな彼らのごった煮を極めた音楽は、プログレッシブメタルとインディポップを魔合体した“Calcutta”や、R&Bやアンビエントが色濃く、『Take Me Back to Eden』(23年)を先取りしたような“Jaws”といった初期の代表曲からも明らかで、その多様性は『Sundowning』(19年)、『This Place Will Become Your Tomb』(21年)でさらに拡大。


ただし、彼らのメタルだけでは語りきれないメタルバンドとしての有り様は、メタルサウンドが一種のトレンドとなり、ヒップホップやエレクトロニックミュージック、さらにはインディロックにも積極的に借用されていった、20年前後の時代性を逆側から体現したものだったとも言える。

また、バンドの代名詞であり、静寂と騒音、天上と奈落のコントラストを生み出す激烈なブレイクダウンは、デフトーンズやKORNのダイナミクスからの継承を感じる。STは脈絡なく突然現れた変異体ではなく、むしろジャンルの溶解が不可逆かつ急速に進む、2020年代を象徴するバンドとして捉えるべきだろう。
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