「いつか有名になって自分をフッた彼女を後悔させてやる」という意味をバンド名につけた大阪発のスリーピースバンド
reGretGirl。彼らが歌う等身大の失恋ソングが共感を呼んでいる。現時点で発表されている彼らの楽曲は、ほぼ全てひとりの女性に寄せた想いが原点だ。その魅力は、過去に「
reGretGirlの一途に紡がれるラブソングに私たちが心奪われる理由」という記事でも書いたが、以下のテキストでは、まだreGretGirlに出会えていない人のために、まずは聴いてほしい5曲をピックアップした。いずれもソングライターである平部雅洋(Vo・G)の実体験に基づいた切実なノンフィクションでありながら、自分自身の体験とも重ねずにはいられない曲たちだ。(秦理絵)
①ホワイトアウト
2017年にMVが公開され、バンドの存在が広く知られるきっかけになったナンバー。初の全国流通盤ミニアルバム『my』の収録曲。《いつだって/なかなか既読にならない/未読のままのライン》というスマホ時代の恋愛のかたちを象徴するリアルなフレーズで、恋人に別れを告げられた瞬間の目の前が真っ白になってしまうような絶望が生々しい言葉で綴られている。疾走感あふれるシンプルなスリーピースサウンドにのせて、多くの言葉を詰め込みながら駆け抜けてゆくメロディは、戸惑い、後悔、悲しみや怒りという様々な感情が次々に押し寄せる混乱を表すかのよう。
②Shunari
セカンドミニアルバム『take』収録曲。時系列で言うと、“ホワイトアウト”から数ヶ月後といったあたりだろうか。色違いの携帯電話ケース、一緒に食べたプリンの味など、ふたりで重ねてきた思い出を振り返ってしまう女々しさを未練たっぷりに歌っている。最後の《「また僕を好きになりますように」と願っているだけ》というフレーズが、この曲の全てだ。平部が書く歌詞がリアルなのは、あえて歌詞らしくきれいに整えすぎないところ。《いちいち頭の中を駆け巡る君が鬱陶しくて》と、記憶のなかの彼女に毒づくような言い回しをさらっと入れてくるところあたりがとても人間臭いと思う。歌っている内容はどこまでも切ないが、裏打ちでスネアを刻んだ軽やかでポップなサウンドがやたらに悲しい。
③ピアス
同じく、『take』からのナンバー。reGretGirlの楽曲は、歌と歌詞に重きを置いていることから、イントロがなく、いきなりサビから歌い出すことも多いが、この曲はエモーショナルなバンドサウンドから幕を開ける。彼女が部屋から出て行ったあと、唯一手元に残った《君》との繋がりであるピアス。それをモチーフに、あの日、たしかに存在したふたりの思い出を忘れまいと自分に言い聞かせるように歌う。歌詞に出てくる《「お前のだけやけに光って見える」》とは、おそらく
RADWIMPSの“ふたりごと”のオマージュ。ロックバンドが身を切るように歌う失恋ソングは、いつの時代も私たちの胸を打つ。
④おわりではじまり
これまでreGretGirlがリリースしてきた3枚のミニアルバム『take』、『my』、『soon』は、同じ元カノへの想いを歌い続けた3部作になっている。“おわりではじまり”は、その最終章『soon』のラストを飾る切ないバラード。同窓会で元カノと再会したエピソードをもとに書かれたものだ。《また今日から新しいふたりで/始まったりしないかな》と淡い期待を込めたその締めくくりは、本気とも、冗談とも受け取れることができ、“ホワイトアウト”の失恋から数年を経て、少しずつ立ち直りつつある心境の変化を表しているように聴こえるのが印象的だ。単にひとりの女性への想いを一途に歌い続けるだけでなく、その楽曲の節々に時系列を想像できるキーワードを散りばめたことで、ここに、恋の終わりを描いた大きな物語を完結させた。この曲に辿り着いたとき、平部のソングライティングの巧みさに舌を巻く。
⑤スプリング
4月15日(水)にリリースされるバンド初のシングル。タイトルのとおり、春らしい朗らかなバンドサウンドに乗せて、《僕》の手を離れ、過去の人になっていく《君》への切ない想いを歌っている。新しい出会いや旅立ちに心踊る「春」という季節に、過去への断ち切れない想いを綴ったreGretGirlの曲と言えば、“ブロッサム”(『soon』に収録されているバンドの初期曲)もあるが、より表情豊かに色づいた厚みにあるバンドサウンドや、1番と2番を対比させた歌詞の構成など、あらゆる面でバンドの進化を感じることができる。ぐっとくるのは、1番で《春は憂いだ》と歌われるフレーズが、最後に《春は綺麗だ》に変わるところ。そのワンフレーズだけで、互いに別々の道を選ぶことになった《君》への溢れんばかりの愛しさを封じ込めた表現は、「生々しい失恋ソング」の先にある、reGretGirlの新境地だ。