①pink
世界を遮断するために装着された無音のイヤフォン。零れ落ちるのは《もうどうでもいい》、《期待はしていない》──そんな諦念交じりの想い。喧噪の片隅でひっそりと吐き出されるため息のように繊細なアンサンブルに乗せて描かれるのは、疲れ果て、人生の路傍に立ち尽くす人間の姿。バンドは、その立ち尽くす人間の心の動きを精緻に観察するようにして、曲を進めていく。いつしか立ち尽くす人の心は決壊し、エゴイスティックなほどの想いが溢れ出す。音楽すら響かなくなった場所で、それでも人は、「生」に、「他者」に、手を伸ばし、何かを願ってしまう。どんな絶望の中にいても、空は息を呑むほど美しい景色を私たちに見せてしまう。②ランデヴー
バンドの名を一躍知らしめた1曲。《神様なんていないと思った》という歌い出しに表れているように、この曲でもシャイトープは、なすすべもなく立ち尽くす場所から音楽を立ち上げていく。失い、諦め、もう疲れ果てた。そんな地点から始まる物語に小さな革命が起こる瞬間を見逃さないように。この“ランデヴー”は、別れがもたらした寂しさを毛布のように纏い、甘い「たられば」を舌先で転がしながら生きる孤独な男の歌だろうか。男は《ねえ 巻き戻していいかい》なんて小さく呟きながら生きている。しかし革命は予告も説明もなく唐突にやってくる。《馴れ初めをふと思い出した》。一瞬、時が止まったようになる演奏。そして物語は再び動き出す。天使のひそひそ話のようなコーラスに導かれ、演奏はダイナミズムを生み出していく。《即席の感情で書いてる/この詩はいつか時を超えて/限られた未来で生きる/君に流れるか》──滲む祈りは、この孤独な男のものか、それとも歌詞を書いた佐々木想のものか。③tengoku
この曲については言葉を重ね、解釈を書き連ねるより、《天国》というひと言に宿る高揚感にいっそ身を預けてしまいたくなる。そのくらいの歓喜のカタルシスを持つ1曲。「今この瞬間」にこそ天国は存在するのだということ。悲しみではなく、愛情によって流れる涙がこの世界にはあるのだということ。生きることに対して素朴でありたい。あなたに対して素直でありたい──そんな切なる願い。沸々と湧き上がる喜びの感情を滲ませる歌声と、静かに始まり徐々に巨大なうねりを生み出していくバンドアンサンブル。その実直に「生きること」を肯定しようとする姿と、「明日が見たい」という想いを歌に託す姿は、“ランデヴー”の大ヒットによって注目を集めたシャイトープが、この時代において特別なバンドであることを改めてその音楽を通して実感させた。④Burn!!
もし、“ランデヴー”や“pink”に見られる繊細に揺らぐアンサンブルや物語性の高い歌詞こそがシャイトープなのだと思っている人がいるとしたら、この“Burn!!”のヘヴィで一直線なロックサウンドと、バンドの胸の内が明け透けに吐露されているようにも見える生々しい歌詞には「え、これがシャイトープ?」と面食らうかもしれない。しかし、この無骨な姿こそがシャイトープの一面。彼らは常に「リアルであること」を求める生粋のロックバンドであり、それゆえに、その表現はひとつの方向性に縛られない自由と多面性を持っているのだ。《まあまあ 落ち着けよ 表現者》、《立ち止まって深呼吸が/必要な時じゃない?》──そう歌うこの曲には、“ランデヴー”のヒット以降加速していく状況の中で生まれた戸惑いや迷いが綴られているように感じられる。そのうえで彼らは《俺は俺でしかないんだ》、《やりたいように/ただ進め》と歌う。自分でしかいられない人生を受け入れることを高らかに宣言する。そう、シャイトープこそが新時代のロックスターなのだ。⑤ヒカリアウ
「炸裂」という言葉が似合うくらいに力強く、それでいて、しなやかに一打一打を打ちつけていくドラム。時に歌うように、時に咆哮するように、重く響きながら突き進むベース。イントロから「光を見せる」という意志を明瞭に感じさせるギター。シャイトープがメジャーデビュー曲に選んだのは、3ピースのバンドアンサンブルがアグレッシブに爆発するロックソングだった。疾走するサウンドに乗せて、《若者はいつだって⾶び降りる夢を⾒ては/⾜踏みをして抱きしめてくれる⼈を待っている》と、根源的かつ普遍的な人間の不安と悲しみに向けて真っ直ぐに発せられる言葉たち。ギリギリな心を抱えた人生の迷子たちに向けて、佐々木想は《君はまた⽣まれ変わっていける》、《若者よいつだってまだ⾒ぬ光があるから/⽣きて ⽣きて ⽣きてみようぜ》と語りかけるように歌う。新たなステージに立ったシャイトープが真っ先に掲げたのは、「俺も光るから、君も光れ」──そんなメッセージソングだった。『ROCKIN'ON JAPAN』8月号にシャイトープの最新曲『ヒカリアウ』のインタビューを掲載中!
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