①ノールス
ロックバンド的衝動をむき出しにして突っ走る“グッドバイ”や“daybreak”を発表したのち、シンガーズハイの名をよりシーンに轟かせたのが2022年6月に配信リリースした“ノールス”。ソングライティングを手掛ける内山ショート(G・Vo)がダンスミュージックや当時のトレンドをリファレンスしたということもあり、ノリのいいビート感やオクターブのコーラス、サビで強度を増すサウンド感も絶妙だった。歌詞では《あなたに何かが物足りないのか/足りないオツムで考えて》という強い言葉もあり、相手を振り回すような主人公像も浮かぶが、裏を返せば極めてまっすぐな愛とも言っていい。バンドとしてもそれまでなかった手応えがあり、それ以降のハードルを上げた楽曲にもなっている。②Kid
ビートにフォーカスした楽曲であり、先に紹介した“ノールス”の系譜ではあるのだが、《ハイハイ来ましたいつものお馴染み/愛とか恋とか歌っちゃって》《まぁだいたい皆さんそんなもんですし/期待なんて別にしちゃいないね》といった音楽シーンに対するアンチテーゼを込めた辛辣なメッセージでまた違った存在感を放ち、賛否両論を巻き起こしたのが“Kid”。妖しいムードの漂うサウンド感もあり、悪口を連呼していると感じるかもしれないが、決してそうではない。好きであればあるほど妄信的になり、他者を攻撃する傾向に対しての異論であり、サビではすべてをひっくり返すように、もっとシンプルに楽しもうということを呼びかけている。とは言え、反骨精神を感じる部分も多く、彼らのオルタナティブロック的思考がそこから読み取れるのは間違いない。③サーセン
2023年11月に発表した1stフルアルバム『SINGER'S HIGH』に収録されたのが“サーセン”だ。パワーコードのギターリフを作ろうというスタート地点だったそうだが、グランジとヒップホップをかけ合わせたようなアプローチで完全に音ノリへフォーカスしており、心地よい揺れを味わえるだろう。そんな中で炸裂しているギターソロもいい。また、いわゆるサビにあたる部分に歌詞らしい歌詞はなく、人を食ったように《らーらったらーら》と声を合わせて叫ぶだけになっている。EDMで言うところのドロップ的立ち位置であるのだが、肝となるパートにパンチラインやフックとなるモノが存在しなければいけないと誰が決めたわけでもない。そんな固定観念をぶっ飛ばしてくれる気持ち良さもある。④ニタリ
怪奇な都市伝説をテーマにして描くTVアニメ『闇芝居』のエンディングテーマとして提供したのが“ニタリ”。『闇芝居』の世界観を投影するようにイントロからおどろおどろしさ満載。《仮面》や《闇》といった言葉もピックアップされており、タイアップ用としてスイッチを切り替えたとも思えるが、彼らがもともと持っている一面がクローズアップされた印象も強い。不穏な空気は“Kid”にも漂わせているし、ステージに立つ彼らからは簡単には触れちゃいけないようなスリリングさも感じられるわけで、そのマッチングの妙を味わえるのだ。また、すべてを受け止めて抱きしめることを歌う歌詞の中に《あなたはもう私だけのものだから》という一節があるが、連れ去ってほしいと願いを乞う“情けな”の歌詞、《私はもうあなただけのものだから》とリンクしているようにも聴こえる。聴き比べることで浮かび上がる愛の物語を想像するのもいい。⑤STRAIGHT FLUSH
彼らはかなりの雑食性を誇り、型にはまらないところがまた魅力的だったりするのだが、2024年7月に発表した3rdミニアルバム『Serotonin』の冒頭を飾る“STRAIGHT FLUSH”は、清濁併せ呑み込んでひとつの塊にしたようなロックナンバーだ。ドラマティックに絡み合うリフとリズム、ハイトーンに頼りすぎない歌声のしなやかさ、シームレスにポップパートへ移行しながらスリリングな終盤戦へ突入する流れも見事。自らの尖った部分を丸くすることなく、バンドとしてより大きく深くなったことを突きつけられる1曲。1stフルアルバム『SINGER'S HIGH』に収録された“climax”は結成当初に描いたロックバンドとしてのロマンを突き詰めた楽曲だそうだが、そこから一歩も二歩も進み、ネクストステージに足を踏み入れたことがありありと伝わってくる。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』9月号にシンガーズハイが登場!
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