恋愛の切なさ、失恋の痛み、消えない追憶を描き続ける3ピースバンド、reGretGirlが、タイトル通り「告白」をコンセプトにした『告白e.p.』をリリース。reGretGirlのEP作品といえば「失恋」というテーマを追求して作り上げた『生活e.p.』を思い浮かべるが、今作もかなりの聴きごたえ。全5曲がそれぞれに様々な「告白」になっていて、短編映画のように物語を描き出す。ソングライターの平部雅洋(Vo・G)の作詞は、その情景をより複雑で繊細な色彩で描き出し、バンドアンサンブルは前作以上にその世界観を音で表現していく。平部のソングライティングがなぜこれほど多様に深く「愛」を表現するようになったのか。メンバーはそれぞれその楽曲たちにどう向き合って作品を完成させたのか。全曲解説という形で、3人にじっくり語ってもらった。
インタビュー=杉浦美恵
僕はずっと実体験というか自分の記憶を巡りながら曲を書いているんですけど、時間が経てば記憶は褪せていくはずなのに、自分の中ではむしろ明度が上がっていく(平部)
――『告白e.p.』、今回のEPもコンセプチュアルな作品で、その名の通り「告白」をテーマにした全5曲、バンドのアップデートを感じる作品となりました。平部「毎回、EP作品はコンセプチュアルなものにしたいというのがあって、前回の『生活e.p.』もそうなんですけど、失恋とか恋愛をずっと歌ってきたバンドなので、今回もコンセプトを持つならそこかなと。まず1曲目の“ページワン”ができて、これは『初恋』の曲なんですけど、そこから着想を得て、そういえば『告白』というものを、僕たちはこれまでフィーチャーしてこなかったなと。“ページワン”はずっと作ろう作ろうと思っていた曲で、それがやっと形にできて。そこからいろんな『告白』を集めたのが今回のEPです」
――恋愛を描き続ける平部さんのソングライティングが、この作品でさらにブラッシュアップされているように思います。
平部「『生活e.p.』のあとにもフルアルバム『tear』を出したりとか、シンプルにこの2年くらいで曲をたくさん書いてきたというのもあると思います。それこそ去年は忙しくリリースしたり、3人とも各々の力が上がってきているし、前のアルバムでは恋愛以外の曲にも取り組めて、それが自分の中でいい刺激になっていました。それでまた恋愛をテーマにする作曲に帰ってきて、ほんとに成長を実感したというか。また違う角度から恋愛の曲を書けるようになってきたなと自分でも思います」
――十九川さんは、平部さんのソングライティングにアップデートを感じたりしていました?
十九川宗裕(B)「そうですね。調子いいんだろうなとは思っていました。曲を書くスピードも上がっているように感じられて、すごく頼もしいなと。今回の5曲もいい曲が並んで、すごくいいですよね」
前田将司(Dr)「前のアルバム制作では曲が多くて大変でしたけど、今回は5曲なんで、1曲ずつゆっくり作れたという感覚もあって、僕も満足感があります」
――バンドサウンドが伸び伸びと躍動していますよね。歌詞の物語性というか、サウンドによる情景描写の解像度が上がったなと感じています。
平部「基本的に僕はずっと実体験というか自分の記憶を巡りながら曲を書いているんですけど、時間が経てば記憶は褪せていくはずなのに、自分の中ではむしろ明度が上がっていく。それが我ながら変だなとは思っているんですけど(笑)。あと、日頃から作詞や作曲をする身としては、本とか映画とかいろんなものから刺激を受けて、それがすごく血肉になっていると感じられるし、どんどん新しい引き出しが増えていっているという感覚もあります」
――意識的にインプットしているというより自然とそうなっている?
平部「意識的に本を読んだり映画を観たりというのもあるんですけど、もともと好きなんですよね。自分が影響を受けているアーティストの歌詞を読んでいても、この曲、もしかしたらこういう作品に影響を受けているのかなと気になって、その作品をさらに追ってみたり。これまでそういう掘り下げ方はそんなにやってこなかったんですけど、自分の中で新しい手法を手に入れたなという感じもあって」
――具体的にはどんなふうに?
平部「直接気になる人に『好きな作品はなんですか?』って訊いたりもしました。僕はMy Hair is Badが大好きなんですけど、自分が影響を受けているアーティストがどんな本を読んでいるのかとか、訊ける機会なんてあまりないじゃないですか。でも最近、幸運なことに仲よくなるきっかけがあって。これは訊かなきゃ損だと思って(笑)。それで教えてもらったりしましたね」
それこそずっと恋愛を歌ってきているバンドなので、その始まりがあるわけですよ。やっぱりその始まりを知ってもらいたい(平部)
――5曲それぞれに恋の痛みや切なさを描く、まるで5つの映画を観るようなEPです。まず“ページワン”。これはやはり平部さん自身のほんとの初恋が描かれている?平部「これはほんとの初恋です。僕が中学1年、13歳のとき、人生で初めて好きな人に思いを告げたんですけど、それが明確な初恋。これをいつか曲にしようと思っていたんです。中学生の平部が歌っているというよりも、今の僕が歌っている曲ですね。実際にその初恋の相手とは今も友達で、別に今更どうにかなりたいわけじゃないけど、どこか僕の心のページに、その栞がはさまっているんだよっていうことを歌いたくて。これまでとはまた違う視点での『未練』でもあると思いますけどね」
――初恋をいつか描きたかったというのは、どんな思いから?
平部「それこそずっと恋愛を歌ってきているバンドなので、その始まりがあるわけですよ。やっぱりその始まりを知ってもらいたいというか、そこを歌いたいというのはずっとあったんですよね。これをあたためておいてよかった。これがたとえばデビュー前とかに書いていたらもっと違う内容になったと思うし。ここまであたためてあたためて噛みしがんで、大人になってからの自分で初恋をしっかり歌えたので、僕はこの曲、すごく満足度が高いです」
――前田さんと十九川さんはこの曲、レコーディングしてみてどうでした?
前田「僕はこれくらいのテンポの曲がいちばん好きなので、楽しく録れました」
十九川「この曲、なんだかすごくいい歌詞で。っていうか、平部はいい学生生活だったんやなあって思った(笑)。こんなん自分には絶対ないよなっていう。自分にはドラマひとつもなかったなあって思いながら聴いてました(笑)」
平部「そう言われたらそうかもしれんな(笑)」
十九川「そうだよ。俺はそんなドラマチックな学生時代じゃなかったから。だからこういう曲が書けてすごいなって思いますね。というのもあってベースは曲に呼ばれるまま、気持ちいいのを弾いただけっていう感じでした。手癖じゃないけど、自分の頭の中にリファレンスがいっぱいあって『あの曲っぽく弾きたい』みたいな思いが結構明確に出てますね」
――ちなみにどういうリファレンスが?
十九川「1コーラス目なんかは、syrup16gの“scene through”っていう曲をイメージしていました。syrup16g大好きなんですけど、聴いていただいたら『なるほど』と思ってもらえると思います。っていうと、僕がほんとにこの歌詞世界とは違う人間だと、どんどんわかってもらえるんじゃないかと思いますが、ほんまに歌詞世界は平部に任せたいと思ってます(笑)」
――前田さんはどうですか?
前田「歌詞については……僕は今日初めて読みました」
平部「それは話盛りすぎや(笑)。ちゃんと誤字がないか確認してくれたやんか」
前田「いつも歌詞に間違いが多いんで。そのチェックに必死で、ちゃんと読み込んでないから。でもほんとに甘酸っぱいですね」
平部「僕以外のふたりはほんと、恋愛に対してのがむしゃらさがないので(笑)」
――(笑)。reGretGirlの歌詞世界は完全に平部さんのものですもんね。次が“バブルス”。歌詞が見事に韻を踏んでいて冒頭から気持ちいいです。
平部「子どもの頃から『カートゥーン ネットワーク』が好きで、“バブルス”って『パワーパフ ガールズ』に出てくるキャラクターなんです。そういう自分が影響を受けてきたものも作品に出していきたいと思っていて、それを詰め込んだのがこの曲です」
――恋の切なさというより、ハッピー感が前面に出た曲ですよね。
平部「そうですね。かっこ悪さみたいなものも出ていて、それもこの曲の良さかなと。かっこ悪いけどそれも嫌じゃないみたいな」
前田「これは、泡をイメージした感じの音とか、ドラムの細かな音色なんかもスタジオでスタッフも含めて話し合って決めたので、それもいい経験でした。サビ前のフィルとか、別の角度からの意見ももらって、ああなるほどなあって。そういうのが、これまであまりなかったので」
平部「今までにないパターンのドラムが出てきて面白かったよね。ラップとかもあって、これはめちゃ楽しかったです」
十九川「ラップはびっくりした。デモの段階でおおっ!と思って。ベースもそこがいちばんめちゃくちゃにやってみたところだったり。左手パーのままでギャーッと弾いてみたりとか。もはや演奏でもなんでもない音ですよね。ただどついてるだけみたいな(笑)」
――バンドサウンドとしてはヘビーめなロックサウンドだけど、めちゃくちゃキャッチーで。reGretGirlの新機軸であり真骨頂でもある曲。歌詞はやはり時間をかけた?
平部「いや、この歌詞はいちばん時間がかかっていなくて。書いていて楽しかったですね。遊びながら思いついた言葉をパンパンっと並べていくみたいな。いつもは『ここはこの言葉のほうが刺さるんじゃないか』とか、いろいろ考えて作詞するんですけど、“バブルス”は一旦それは無視しようと。ノリで書き進めていきました」