【知りたい】ブランデー戦記はこの5曲を聴いてハマれ!

【知りたい】ブランデー戦記はこの5曲を聴いてハマれ!
2022年8月に蓮月(G・Vo)、みのり(B・Cho)、ボリ(Dr)によって結成された大阪出身の3ピースバンド、ブランデー戦記。同年12月にメンバー自ら製作したオリジナル曲“Musica”のミュージックビデオが公開されるや否や、日本のロックシーンの新たな希望として大きな注目を集めた。本稿では、そんなブランデー戦記の世界の入門編として、まず真っ先に聴いてほしい5曲をピックアップして紹介する。(天野史彬)


①Musica

この曲を聴くと、ひとりの少女の姿が思い浮かぶ。鎧にも、制服にもドレスにも、理論にも正義にも守られることのない、ひとりの少女の姿が。彼女の寄る辺ない心が、この曲を聴いている間はまるで自分の側にあるかのように感じる。少女の表情や見た目は思い浮かばないが、バンドの演奏が、その寄る辺ない心に輪郭を与える。世界に慣れてはいないが、世界に存在している。その存在を、なかったことにされることを拒んでいる──そうした点で、騒々しく、荒々しく、それでいて人懐っこく艶やかなバンドの演奏と、少女の心は合致している。歌詞に綴られるのは、音楽への恋慕にも信仰にも似た想いだろう。何せタイトルが“Musica”=「音楽」だ。この曲に都合のいいフィルターをかけて、感傷を売りにする凡百のラブソングと同じように受け取るのは愚行である。何故なら、音楽に代わりなどありはしないのだから。少女が見つめるのは他の何でもなく、音楽である。

②Kids

《もう外して 膨らんだ腹を締め付ける/許して 身動き一つ出来ない》──そう歌い出すこの曲だけでなく、“ストックホルムの箱”などにおいてもそうだが、「拘束された子ども」というイメージはブランデー戦記の楽曲に時折表れる。きっとそれは「窮屈だ」と叫んでいるだけではない。「この世は監獄のようなものだ」と言いたい……という部分はあるのかもしれないが、きっとそれだけでもない。ブランデー戦記は常に一定の距離を保ちながら、何かに囚われて軋む存在や肉体を見つめている。そして、それは「囚われているのは誰か? 囚えているのは誰か?」という問いを私たちにもたらす。人と人。子どもと大人。個人とシステム。人間と死。人間と愛。人間と神……様々な関係性が頭をよぎる。スリリングに疾走するバンドのアンサンブルが、まるで一瞬を永遠のように、永遠を一瞬のように描き出す。

③Coming-of-age Story

ブランデー戦記の1stフルアルバム『BRANDY SENKI』のジャケットは、1990年代を代表するロックバンドであるスマッシング・パンプキンズのアルバム『ギッシュ』のオマージュと思われる。この“Coming-of-age Story”を初めて聴いた時に私が思い出したのはスマッシング・パンプキンズの“1979”という曲だった。どちらの曲も、始まりはどこか淡々として、透明感があり、しかし、その狭間から焦燥や痛みが零れ落ちる。曲から血が流れている。「coming-of-age」とは「成人」という意味である。「子ども」と呼ばれる時代と「大人」と呼ばれる時代の狭間で、まるで生の断崖絶壁に立ち尽くすようにして佇むひとりの少年の姿が、この曲からは見える。形など持たなくても生きることができた頃の美しい記憶を抱きながら、この先に広がるであろう、奪い奪われる乱暴で愚かな世界に彼は震えている。彼は弱いのかもしれない。しかし、弱かろうと彼は自分の人生を生きている。選択する権利は彼の手の中にある。その事実が私の胸を震わせる。この曲がセピア色の過去になることはないだろう。血はずっと赤い。曲を再生すれば何度でも、私はギリギリの場所で自分の人生を握りしめるこの少年に出会える。

④ラストライブ

タイトルとは裏腹に、どこか日常的で素朴な質感が漂う楽曲である。「エンドロールの先にも続く日常」とでも言おうか。思えば「終わり」はあらゆる場所に転がり、漂っているものなのだ。私やあなたの中にも。ゆったりとしたフォークロックサウンドに乗せて、諦念や苛立ちをぽつねんと呟いていくような曲の前半。しかし途中からリズムは跳躍を始め、曲の速度がガレージパンクのように速くなり、《時に 時に 君はどうだい》とまるで聴き手に語りかけるように歌い出す。その瞬間にドキリとする。急に話しかけられた時みたいに。急に顔を覗き込まれて、目と目が合った時みたいに。そうして、この曲は「君と僕」の歌になる。アウトロでは高揚感のあるギターと、甘く華やかなコーラスハーモニーが不思議な多幸感のある場所に私たちを導く。ぐるぐると翻弄されるようだが、手はしっかりと握り締められている──そんな温かさがある1曲だ。

⑤Fix

シェルターのような温かさと、悲痛な美しさを運んでくる1曲である。最果てのような場所にいる人間たち。昏い部屋のような静けさと、荒れる波のようなバンドの音。この曲を聴いていると、「愛とはなんだろう?」と考える。慈しみ、畏れ、責任……。きれいなものばかりではなく、痛みも醜悪さも弱さも病みも含まれてこそ、愛はそこに在り得るのだろう。だとしたら、愛が人を救うかどうか、その答えをハッキリと結論付けることなんて私にはできない。時に愛は人を壊すものなのかもしれない。それでも、愛がなければ人は生きられないのだと、この曲を聴いていると感じる。冒頭は《待ってね、》と歌い出される。《待ってね、/今考えてるから怒らないでね/言う通りにするから》と。《待ってね、》──そう言って生み出される時間。ここにある決然とした孤独に私は言葉を失くす。跪くのはどちらか、勝つのはどちらか。そんな不毛な争いを無化するように、「それでも、自分の生を生きなければいけない」と決意するための時間。あまりに大きな1曲である。


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