≪僕の側には/心臓と音とギターだけ≫(“スライムライフ”)――そんな言葉がここまでリアルに響くアーティストには、本当に久しぶりに出会えた気がする。
秋山黄色は間違いなく、音楽で生きていく星の下に生まれ、ロックに選ばれてしまった人間だ。憂鬱や暗闇を力業で切り裂いていく楽曲、そしてその切れ目から差し込む強い光のような歌声……類まれな才能は音源でも充分に伝わってくるけれど、ライブの爆発力も半端じゃない。これから紹介する5曲を聴いてビビっときたら、是非ライブにも足を運んでみてほしい。絶対、もっと好きになる。(渡邉満理奈)
①やさぐれカイドー
1stフルアルバム『From DROPOUT』の1曲目を飾るこの曲は、とにかくギターリフが抜群にカッコいい。メロディもリズムも歌詞の乗せ方も突き抜けてキャッチーで、一度聴いたら耳に残ってしまう中毒性がある。秋山黄色にとって始まりの作品でありながら、恐るべきポテンシャルの高さを感じさせる一曲だ。ちなみに本人いわく、タイトルの由来は「当時やってたバイトの帰り道に俺がやさぐれていたこと」から付けられた。
②猿上がりシティーポップ
ストレート且つパワフルで、疾走感が気持ち良い人気ナンバー。歌詞には人間の弱さや適合できない切なさが描かれているが、最終的には前に進んでいく勇気を授けてくれる。力強くシャウトする≪look for city pop≫に込められた意味は、「自分の好きな街を探しに行こう」。宅録部屋を飛び出してオーバーグラウンドで勝負する今の秋山黄色が歌うからこそ、このフレーズには誰かの背中を押す説得力が宿っている。
③とうこうのはて
タイトルを漢字に直すと「登校の果て」、つまり学生生活を送る人たちに向けて書かれている曲だ。学校は楽しいことだけではないし、時に憂鬱がつきまとったり、人によっては登校という言葉自体に絶望を感じていたりする。そんな10代ならではの鬱屈に対し、秋山黄色は「俺もこんなんだから大丈夫」と言わんばかりに自分を曝け出す。歌詞から漂う生活の切迫感や焦りはキャラでもなんでもなく、秋山黄色のリアルな姿が反映されている。
④夕暮れに映して
「忘れられない過去」は忘れなくても良い。そんなメッセージが込められたこの曲は、ピアノやストリングスの音がメロディを彩るポップナンバー。秋山黄色にとって全く新しいアプローチだったが、今までのイメージがなくなってしまったわけではなく、間奏ではしっかり歪んだギターの音が前に出てくる。このロックとポップを両立させる大胆なアレンジは、後に発表された“モノローグ”にも繋がっていった。
⑤モノローグ
TVドラマ『10の秘密』の主題歌であり、初めての書き下ろし曲。今までの曲は秋山黄色の感情で書かれているものが多かったように思うが、今回はドラマの脚本ありきということもあって、ストーリー性を感じる歌詞だ。しかし最後のワンフレーズ≪二人でつけ合った傷の数が/あなたの日々に変わりますように≫に、暗闇を光に変えてきた秋山黄色らしさが詰め込まれている。静かなピアノからいきなりエッジの効いたギターリフが炸裂するサウンドもかなり特徴的。この全く違う人格が共存しているかのような二面性も、秋山黄色というアーティストの強い個性と言える。