音楽好きな人ならば、長岡亮介という名前を一度は目にしたことがあるはずだ。長岡亮介がサポートミュージシャン、ゲストミュージシャン、またプロデューサーや作家として携わった作品やライブは数多く、様々なアーティストが彼とのタッグを熱望している。長岡亮介という男が、ミュージシャンズ・ミュージシャンとして、名うてのアーティストたちに愛される理由はどこにあるのだろう。もちろん、アーティストサイドの求めるものを確実に表現するというのもサポートミュージシャンの「仕事」としては重要なことであるが、長岡の場合はそれ以上に、思いがけずアーティスト自身が、そのクリエイティブに大きく影響を受けるような存在として、彼のギタープレイを求めているように思う。もちろんリスナーとしても、楽曲やツアーメンバーのクレジットに「長岡亮介」という名前を見つけると、それだけで期待値が上がってしまうという人も多いのではないだろうか。
おそらく、長岡の名が多くの人に知られるきっかけとなったのは、東京事変のギタリスト・浮雲としての活躍だろう。サポートというよりもバンドメンバーとして中核を担う存在でもあった(長岡は、東京事変以前から椎名林檎名義の作品にもギター等で参加している)。わかりやすい例をあげれば、東京事変の4thシングル曲“OSCA”は作詞・作曲が浮雲、つまり長岡の手による楽曲であり、東京事変の楽曲の中でもかなりアッパーで変則的な展開がクセになる作品だ。ロックサウンドのグルーヴが根底にありながら、メロディはどこかクールで、アレンジは前衛的。知ったような解釈や正解を突き放すようなぶっ飛び具合に、当時も驚いたのを覚えている。椎名林檎のボーカルはいつになくワイルドで、きっと彼女自身が書いた曲であったなら、ここまで振り切れることはなかっただろう。彼女が浮雲の曲を望んだのも、こうした新たなインスピレーションを得るためだったのではないか。それが見事な楽曲となって、今なお東京事変の中でも人気の高い楽曲のひとつである。
さらに、2009年リリースの“能動的三分間”での浮雲のプレイも記憶に残っている人は多いはず。CMタイアップ曲でもあり、作詞・作曲は椎名林檎自身によるものだったが、ここで彼はソウルやファンクのグルーヴを全面に出したギターサウンドで、トゥーマッチすれすれのギラつく音作りをしながらも、極めて洗練されたポップミュージックとして成立させるという素晴らしい仕事をしている。長岡のギターサウンドがなければ、この楽曲はもっとさらりとした印象になっていたような気もする。つまり長岡亮介というミュージシャンは、サポートするアーティストの個性を最大限に活かし、同時に自身の個性も明確に出しながら、楽曲に豊かな色付けをしていくことができる希有な存在だと思うのだ。
椎名林檎だけではない。大橋トリオや、野田洋次郎のソロプロジェクト、illionでのツアーサポートとしても重用され、同じ頃、星野源の5作目のシングル曲となる“ギャグ”のレコーディングにもギタリストとして参加している。この曲で聴かせた、(いい意味で)なんだか変で、捻くれていながら温かさを感じさせるギターフレーズは、楽曲のテンポ感を牽引するようでもあり、魅力的なフックとしてすごく「効いて」いた。この“ギャグ”のギターサウンドが、実は星野源のその後の制作やライブにも大きく影響を与えているのではないかと思ったりもする。事実、それ以降の星野のシングル作品には最新作の“Family Song”に至るまで参加し続けているし(もちろんアルバム『YELLOW DANCER』にも参加)、“恋”が国民的ヒットとなったのは、曲や歌詞の素晴らしさが前提にあるのはもちろんだが、長岡の、あの軽快で独創的なギターサウンドが後押ししている部分も少なからずある。もしかしたら、長岡のギターの音が頭に描けていたからこそ、星野はあそこまでキャッチーでテンポの速い楽曲で攻めることができたんじゃないか──なんて、思ってしまったりするくらい。ツアーメンバーとしても、今や星野源のライブにはなくてはならない存在である。
他にもORIGINAL LOVEやLOVE PSYCHEDELICOのツアーにサポートギタリストとして帯同するなど、錚々たるアーティストたちから愛されるギタリスト、長岡亮介。そんな彼自身が結成し、2005年から活動を続けている3ピースバンド、ペトロールズにも注目してみてほしい。様々に多忙な活動がある中で、決して精力的に音源をリリースしているわけではないのだが、今こそ、ペトロールズというバンドの素晴らしさを再認識すべき時だと思う。今年3月には、『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ?』というトリビュートアルバムもリリースされていて、Suchmos、SOIL&“PIMP”SESSIONS、Yogee New Waves、ROY(THE BAWDIES)、never young beach等、参加アーティストの名前を見るだけでも、長岡がいかに多くのミュージシャンに愛されているのかを知ることができる。ORIGINAL LOVEによる“Fuel”などは、田島貴男の深く沁み入る声が、楽曲の良さを改めて実感させてくれる出色のカバーだ。
そしてペトロールズの最新のオリジナル作品は、2015年、結成10年目にしてようやく作られた1stアルバム『Renaissance(ルネサンス)』。ギター、ベース、ドラム、そして歌というシンプルな3ピースで織り成すサウンドは至福と言うよりほかない。ファンクやソウルの心地好さに長岡の独創的なギターフレーズが煌めくようなポップネスや叙情を生み、時に官能的とさえ言いたくなる歌メロと声にも耳を奪われる──。とにかく一度聴いてほしい。長岡亮介というミュージシャンが、なぜこれほど多くのアーティストに愛され、作品やライブに彼のギターを必要とするのか、その理由も少なからず理解できるかもしれないから。シンプルで普遍性を持つ楽曲の中にも、ギターフレーズひとつで楽曲の温度を上げることのできる男、長岡亮介。その魅力にもっともっと触れたいと思う。(杉浦美恵)
【知りたい】長岡亮介という人は、なぜこんなにも必要とされ、愛されるのか?
2017.10.10 18:10