①トニカ
2019年12月に配信限定リリースされ、その後、2020年2月にリリースされたミニアルバム『モラトリアム』に収録。ライブでも大切に歌い続けられている、メジャーデビュー前の大名曲である。藤井の鍵盤とハンドクラップのビートに導かれ、歌い出しからグッと楽曲に引き込まれる。歌声のエモーショナルさはサビでさらなる解放感を伴って、間奏でのコーラスと引き続き鳴るハンドクラップの音とがライブでの高揚感を強くイメージさせる。この楽曲でOmoinotakeのブレイクを予感した人も多かったはず。R&Bやソウル、AORなどルーツミュージックのフィールを随所に活かしながら、高らかに誇らしげに響くメロディラインが未来への希望を映し出していく。打ち込みのビートと冨田の生ドラムは「混ざり合う」のではなく、それぞれの個性が際立ったまま「調和する」アレンジで、まさに過去と未来とを音で繋ぐような、Omoinotakeの魅力が存分に詰まった1曲だ。彼らの音楽に初めて触れる人には、個人的にこの曲から勧めたい。②モラトリアム
劇場アニメ『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』の主題歌として書き下ろされた楽曲で、Omoinotakeとしては初めて手がける映画主題歌となった。この胸が苦しくなるほど切実なバラードは、映画や原作の世界にしっかりと寄り添いながら描き切った楽曲として、多くのリスナーの心を掴んだ。藤井の歌声の切なさはここに極まって、悲しく儚い愛を深く表現する。美しいメロディラインはもちろんのこと、福島の作詞にも感嘆する。愛する人との時間がいつまでも続くものではないと知りながら、ラストは《鳥籠の中 微睡の中》と結ぶ。このラインがまさに“モラトリアム”の意味を明白にしていて、その刹那をしっかりと刻み込むような余韻を残す。Omoinotake史上というか、J-POP史上でも聴き続けられるべき名バラードである。ふたりの男性ダンサーがコンテンポラリーダンスで心情をエモーショナルに表現するMVも必見。③EVERBLUE
2021年11月、メジャーデビュー作品としてEP『EVERBLUE』がリリース。その表題曲であるこの楽曲は、TVアニメ『ブルーピリオド』のオープニングテーマ曲に起用された。福島の作詞がここでも冴え渡る。しっかりと作品の世界に寄り添いながら、自身が音楽に向き合うときの希望や迷いや苦悩を歌い上げているかのようでもあり、また様々な境遇にあるリスナーたちの日常にもシンクロするのだ。サウンドのアンサンブルも素晴らしく、4つ打ちのキックとピアノのリズムがめまぐるしく過ぎる青春の時を感じさせ、ときめきと不安とが入り混じるようなベースライン、そして爽やかに突き抜けるブラスアレンジと藤井のハイトーンのボーカルが「今を描け」、「今を生きろ」と力強く語りかけてくるようだ。細部までこだわり抜いた、Omoinotakeならではの応援ソングである。④心音
映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』の主題歌として書き下ろされた楽曲で、2022年4月に配信リリース。メジャー1stアルバム『Ammolite』にも収録されている。まさに「心音」のように密やかに、けれど明確にサウンドの屋台骨を支えるミニマルなベース音が藤井の美しく伸びやかなファルセットを際立たせる。そしてミドルテンポの豊潤なグルーヴの中で、純粋に相手を思う愛が描かれていく。この曲もまた、Omoinotakeならではの映画作品への深い眼差しがあり、物語の世界を巧みにトレースしながら普遍的なラブソングへと昇華させている。ドラマや映画の主題歌として、Omoinotakeが手がける曲は「間違いない」ということを決定づける1曲でもあった。⑤幾億光年
Omoinotakeのバンドとしての評価をまた一段高く押し上げた、ドラマ『Eye Love You』の主題歌として書き下ろされた楽曲で、2024年1月にリリースされた。二階堂ふみとチェ・ジョンヒョプが共演したこのドラマは放送前から大きな話題となり、各話放送後には“幾億光年”が各種音楽チャートを賑わせ、Omoinotakeの名がさらに広く知れ渡るきっかけとなった。バンドの核心を表す「踊れて泣ける」という彼らのコンセプトが明確に音と歌とで表現されている曲でもあり、ポップでしなやかなバンドサウンドとそのグルーヴの裏に隠した切ない思いとが絶妙なバランスで心に染みてくる。とにかくメロディラインが強く耳に残る。ドラマ『Eye Love You』の世界がこの愛しさや切なさを連れてきたのかもしれないが、それを体現する藤井の歌声が素晴らしく心地よいのだ。転調を効果的に入れて日々の移ろいを感じさせながら、最後には《過去形にならない「I Love You」》が残ることを描いたこの“幾億光年”。そのタイトルのように、Omoinotakeが描くラブソングは時が過ぎても色褪せないであろう。『ROCKIN'ON JAPAN』7月号にOmoinotakeの最新曲”蕾”のインタビューを掲載中!
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