2019年、文字通り彗星のごとくシーンに現れたシンガー、
Vaundy。ストリーミング配信とSNSを中心に次々と楽曲を投下し、ネット上で「いったい何者?」と話題をかっさらってきた彼の楽曲から5曲をピックアップした。こういう場合だいたいは「この5曲を聴けばアーティストの全体像がわかる」という観点で選ぶのだが、ことVaundyの場合それは無理。むしろ、この5曲を聴くとますます「Vaundyっていったい何者?」と興味をそそられることになるだろう。1曲ごとにカメレオンのようにスタイルを変えていく彼の変幻自在ぶりに驚き、それでもなお貫かれる「歌」への強い信頼を感じてほしい。(小川智宏)
①soramimi
ハードなシンセリフと4つ打ちのキックがひたすらに高揚感を煽るダンスチューン。《今日も/愉快だね/でも/何もかもが不快だね》とこの世界に対する嫌悪感を皮肉交じりにぶちまける歌詞も含め、いわゆるボカロ界隈のネットミュージックをリファレンスしていると思しき曲だが、Vaundyの場合単にサウンドのスタイルを借りるだけではなく、歌うテーマ、歌い方、MVのクリエイティブに至るまでをきっちりトレースしてみせ、しかもクオリティ高く仕上げてみせるところがおもしろい。曲調、メロディ、歌詞、彼がどこから曲を作っていくのかは知らないが、最終的には完璧にバランスが取れた曲になる。Vaundyの総合力の高さを思い知る楽曲だ。
②東京フラッシュ
2019年9月に突如InstagramやTikTokの動画広告で流れ始めたこの曲のミュージックビデオが、Vaundyというアーティストの存在と才能を世の中に知らしめた。かぎりなくスムース&メロウなトラックメイキングが彼の最大の魅力である歌声を引き立てる、文字通り名刺代わりの1曲。まったく正体不明のまま、SNS上で曲と歌(と、あと彼のキャッチーなルックスもあると思うけど)の力のみで特大のバズが起きたという事象はいかにも今っぽいが、楽曲そのものはどちらかといえばオーセンティック。そこがVaundyのいいところだ。ある意味で間口は狭く設定しながら、中に入ればめちゃくちゃ普遍的な歌の世界が広がっている。
③不可幸力
“東京フラッシュ”の衝撃冷めやらぬなかドロップされたこの曲。“東京フラッシュ”がはじめましての挨拶だとしたら、早くもぐっとディープなところに踏み込んだのがこの“不可幸力”。感情をおさえたシリアスなラップと、一気に感情が爆発するようなサビのメロディ。ボトムを太くして重みを増したサウンドも相まって、心の奥に突き刺さるような強さを持った曲に仕上がっている。そして何より注目すべきはその歌詞だ。「愛」というテーマを真ん中に据えながら、その「愛」の肩越しに今の時代を射抜くような研ぎ澄まされた言葉は、改めてこの男がタダモノではないことを強烈に印象づけている。
④僕は今日も
今年2月にリリースされた“僕は今日も”。通算で6曲目となるこの楽曲に驚いた人も多かったはずだ。それまでの楽曲とは違うパーソナルな匂い、それまでのジャンル感強めの曲調とは違う王道感。楽曲ごとにころころとスタイルやカラーを変える(でも常に歌がど真ん中にある)というのがVaundyの特徴だが、この曲の圧倒的なスケールの大きさとエモーショナルさは、他のどの曲と比べても抜きん出ている。《もしも僕らがいなくなって/いても そこに僕の歌があれば/それでいいさ》という、ともすれば紋切り型になりかねないフレーズがこれほど説得力をもつのが、彼の歌の力だ。
⑤life hack
3月23日にミュージックビデオが公開された、Vaundyの最新曲がこれだ。ぱっと聴いた感じは、いろいろなスタイルをこなしてきた結果一周して原点に戻ってきたような“東京フラッシュ”にも通じるシンプルでポップなR&Bソングだが、よくよく聴けばこれまた聴いたことのないVaundyだ。ローファイな音色とループするギターのアルペジオがリラクシンな空気を演出する中、デュエットによって色彩と軽やかさをプラスする女性ボーカルが耳を引く。《そしたらどんどん好きになってく/自分のことを》というサビの最後のラインに宿るメッセージ性も、どこか確信に満ちているようだ。