人生が続いていくほど、バンドが歴史を紡いでいくほど、そこには「過去」が増えていくものである。栄光も、挫折も、他愛もない日々も、全部「過去」として積み重なっていく。その最前線に「今日」があり、まだ見ぬ「明日」へと繋がっていく。すべての過去が今の私を作ったのだし、今日がどれだけうまくいかなくても、明日の私を作るのだ。令和の時代に対して楽曲や作品を作ってるわけではないけど、
何かシンクロする部分はあるのかもしれない。
僕ら自身がちょっぴり大人になって、時代にやっと混ざれるようになってきた感覚はある
……なんて、言葉にしてみると当たり前すぎるのだけど、その当たり前をちゃんと受け止めて生きていくってなかなか難しい。目を逸らしたいこと、忘れたい傷、誰しもたくさんあるだろう。でも、そういう過去も、なんなら目を逸らしてしまう自分も、全部認めて愛していけたらいいよね──ってことを絶えず伝え続けているのが、フェーズ2のMrs. GREEN APPLEである。その最新型として届いたのが、“ライラック”という青春ソングだった。
2019年、“青と夏”で《主役は誰だ》《僕らの番だ》と歌っていた大森元貴は“ライラック”で、《主人公の候補/くらいに自分を思っていたのに/名前も無い役のような/スピンオフも作れないよな》と呟いた。“ライラック”は確かに青春ソングだが、ここでの青春は自分を作った「過去」のものとして描かれている。キラキラしたことや誇れることばかりじゃなかった日々。それでも、《あの頃の青を/覚えていようぜ》なのである。過去の痛みや傷を抱えて進むことができたとき、人は大人になるのだろう。つまりこれはミセスが歌う、大人(と、これから大人になる人)のための、「青春のその先ソング」なのだ。
抱える過去が増えれば増えるほど、人に優しくできるのがMrs. GREEN APPLEというバンドなのだろう。彼らから新しい曲が生まれてくるたびにそんなことを思う。この“ライラック”でまた多くの人の手を掴んで、ミセスはさらに大きな「みんなのバンド」になっていく。そんな確信を持って、この表紙巻頭特集をお届けする。
インタビュー=安田季那子 撮影=太田好治
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)
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