20歳で音楽を始めてから約3年、その軌跡のすべてを注ぎ込んだ1stアルバムに、imaseは『凡才』というタイトルをつけた。ネット上で次々とバズを起こし、ワンマンツアーを成功させ、国内外の数々のアワードで受賞を果たし……という現在の状況を前にしてこれほど彼に似合わない言葉もないと思うのだが、そうやって「自分は凡才である」という認識のもとにポップスを作り続けることこそ、imaseというアーティストの本質なのだとも思う。ずっと刺激というか、新しいものを求めているみたいなところはある。
出て行きたい、大きなところに行きたいっていう欲望は、どこかにずっとあった気がします
アルバムの1曲目、タイトルトラックである“BONSAI”で彼はおそらく初めて、自分自身と音楽の関係をまっすぐに言葉にしている。《⾒つかんねぇ 何者? 探してる/そうやって 5畳半の部屋に/うっかりと ⾳符が転がる/⼿にとって》。プロサッカー選手になることを諦めて以来、それに代わる「趣味」を探し続けて音楽に辿り着いた彼だが、本当に彼が探していたのは単なる趣味ではなく、自分が《何者》かを証明するための何かだったのかもしれない。そのためには自分だけが楽しめる音楽ではなく、さまざまな人の心に届くポップミュージックが必要だったのかもしれない。
このアルバム『凡才』は、そんなimaseの根っこを明らかにする。最近の楽曲はポップスとしての強度をより高めながら、同時に彼自身の人間性や考えもより色濃く滲ませるようになってきている。まさにその変化のドキュメントとして完成した『凡才』は、imaseのネクストフェーズへの第一歩だ。
インタビュー=小川智宏 撮影=KIZEN
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)
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