有終の美を飾った、チープ・トリックの日本武道館公演を見てきました。
2022年の延期→中止を経て、遂に実現した今回のフェアウェル来日ツアー。いよいよ本当に(しかも武道館で!)見ることができる喜びと、これが最後になってしまう寂しさの両方を胸に会場へと向かった。
『rockin'on』2022年12月号に掲載したインタビューにて、リックは「武道館がチープ・トリックを有名にしてくれチープ・トリックも日本の武道館を世界中に知らしめたっていう言わば盟友同士の関係なんでね! 愛してるぜ!」と語っていたが、
実際、この日の武道館は、日本のファンのチープ・トリックへの愛と、チープ・トリックの日本への愛がぶつかり合う、たまらなく熱い一夜であった。
オンタイムで開演し、大歓声の中登場。“ハロー・ゼア”、“カモン・カモン”という鉄板のオープニングで幕を開け、以降も惜しげもなく名曲を続々と披露。しんみりとした別れのムードは一切なく、この場を楽しみ尽くそうとするポジティブな空気の中、爆音で最高のロックショーが繰り広げられる。衰えしらずの流麗な歌唱でグッドメロディを高らかに歌い上げるロビン。キレッキレのプレイを次々と炸裂し、コミカルなMCで笑いをかっさらうリック。トレードマークの多弦ベースで煌びやかにボトムスをリードし続けるトム。バーニーに代わってドラムスを担うダックスもフレッシュな推進力となっていた。これぞチープ・トリックな抜群のパフォーマンスに、最上部までびっしり詰まった満員の武道館は沸き立ち続けていた。
そんな姿を見ていると、現実を理解しつつも心のどこかで思ってしまうのが、「本当にこれで最後なの……?」ということ。その演奏は変わらず本当にパワフルなものだし、11月14日には新作のリリースも予定している(この日は新曲も披露された)。またいつか再び日本にやってきて最高のロックを鳴らしてくれるはず、と期待してしまう自分がいる。
けれども、度々ステージを端から端まで歩き回り、すみずみまで客席を見つめる3人は、ある意味ではチープ・トリック伝説の始まりの地といえる武道館と、そこに集ったファンたちを目に焼きつけているようにも映った。
そんな姿を見ていると、爽快なロックチューンの連続に高揚が止まらない一方で、これが最後の来日なんだという実感も強くなっていく。
先述の22年12月号のインタビューにて、リックは、「どの作品も一貫して時代を超えて聴くことのできる鉄板の曲ばかりを揃えてきてるつもり」とも語っていた。今回でチープ・トリックの日本公演は見納めになっても、チープ・トリックの数々の名曲は絶対に鳴り止まない。明るく痛快なパワーポップは、これからも私たちの胸を打ち続ける。別れと感謝を告げるとともに、そんな思いを新たにしました。(平澤碧)