世間が新生活に沸き立ち、フレッシュな活力に満ち溢れる春にも、時間の牢獄に閉じ込められてしまったまま先に進むことのできない魂がある。そんな孤独に寄り添い、凍てついた感情をじっくりと温め解きほぐしてくれるような楽曲が届けられた。G overの“はないかだ”という曲だ。G overは2021年初頭に結成・始動した4人組。素顔や経歴を明かさず、音楽表現そのもので勝負するように活動を続け、昨年には“drive”や“スニーカー”といったバイラルヒットを生み出しながら知名度を高めてきた。Nao(Vo)、Yoki(G)、Aoi(B)、そしてIbuki(Dr)のメンバー4人が黒いフーディーに身を包んだまま繰り広げられた昨年11月の初ライブでも、ミステリアスな佇まいとは裏腹に、人々の入り組んだ感情と真っ直ぐに向き合い音楽を奏でるバンドであることが見てとれた。
これまでのG overは、ファンキーなロックやジャンプブルース、フュージョンやアシッドジャズなど、さまざまな音楽背景と4人の高度な演奏技術によって、アップリフティングな楽曲や緊迫感の立ち込めるスリリングな楽曲も数多く届けてきた。リーダー・IbukiとNaoの2人が中心になってそれぞれに楽曲制作を行い、最新曲“はないかだ”はNaoによる作詞・作曲。温かくも切ないピアノブギーの曲調がリッチなストリングスアレンジを纏い、悲しい離別を背景にしたストーリーが伝う。
《言葉を紡げずただ見つめているだけ/弾く雨音が耳に届かない》。あたかも川の流れの中で澱み留まり渦を巻く桜の花びらのように、記憶にとらわれた感情はなかなか前に進むことができない。本来ならば人知れず抱え込まれる孤独が、ありありと鮮やかに共有される。“はないかだ”は、Naoの優れたソングライターとしての資質やスモーキーな美声に焦点を絞るようにしながら、あらためてバンドの底知れない魅力を突きつける楽曲にもなっているのだ。ぜひこれまでの楽曲群にも触れて、“はないかだ”の美しさを余すことなく引き出してみてほしい。
文=小池宏和
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)
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【JAPAN最新号】G over、心の奥底を狙い撃ちする、謎の4人組
2024.05.16 12:00