6月にリリースされたニュー・アルバム『THE E.N.D.』の先行シングル“ブン・ブン・パウ”が全米チャートで12週連続1位を獲得し、その後を引き継ぐように2ndシングル“アイ・ガッタ・フィーリング”が昨日までの時点でこれまた12週連続で1位を獲得しているブラック・アイド・ピーズ。これで現在シングル・チャートのトップに24週連続で居座り続けていることになり、2004年にアッシャーが達成した19週連続という記録を塗り替え、50年の歴史を誇るビルボード・チャートで最長記録を更新し続けている。しかも9月29日には3rdシングル“ミート・ミー・ハーフウェイ”がリリースされるという。
また、去る9月8日にはアメリカの大御所司会者オプラ・ウィンフリーのTV番組のためにシカゴのミシガン・アヴェニューでライブの公開収録を行い、その中で有名なオーストラリア人振付師に振付けを仕込まれた21,000人のファンたちが演奏に合わせて“アイ・ガッタ・フィーリング”を踊ったことは本国で大きな話題になった。彼らはすでに名実ともに2009年のアメリカを代表するアーティストになったと言えるだろう。
そんな彼らのライブでオバマ大統領のラップが飛び出したのはやはり印象的だった。ラップというか、あの「イエス、ウィー・キャン!」が出てくる演説の映像をうまく編集して音楽に乗せたものなのだが、新旧の楽曲が同じステージ上で演奏されていくさなかにそんな映像を目にして、彼らが『THE E.N.D.』で遂げた変化をふと納得できたような気がした。
2005年の前作『モンキー・ビジネス』では、例えば今夜の公演でも披露された“マイ・ハンプス”でかなり純粋な形で出ているように、曲の露骨に物質主義的な装いがどこまで本気でどこからが戯画化なのかはっきりせず、いわゆるアメリカのメインストリームの音楽っぽく聴こえながら同時にその批評にもなっているところに楽しさがあったような気がするのだが、『THE E.N.D.』ではそういう曲はだいぶ少なくなっている。その代わり、シングル“アイ・ガッタ・フィーリング”を始め、“ミート・ミー・ハーフウェイ”、“アライヴ”、“ミッシング・ユー”など、ストレートアヘッドなリズムに乗せられて、なまの感情が率直に表現される曲が増えている。ファーギーの歌声もずっと伸びやかだ。
彼らをそんな気にさせたのは、やはりオバマの「イエス、ウィー・キャン!」なのだろうなという気がする。彼らは思ったよりもずっと深くアメリカという国にコミットしていて、社会に対するシニカルな態度を脱し、生身の人間として生き始めることのできる時が来るのを心から待っていたのだと思う。だからこそ今年になってこれまで以上のブレイクを果たしたのだろう。
未来に向かって顔を上げた新作のそんなイメージに合わせ、衣装やステージや映像はSF風で、曲ごとにどんどん変化していった(各メンバー5回は衣装替えしていたと思う)。メンバーたちはステージから客席に伸びたキャットウォークにどんどん出て来てオーディエンスを盛り上げ、そのたびに広い幕張メッセは文字通り揺れ、ホワイト・ノイズみたいな大歓声に満たされていた。本編最後にはメンバーたちが日本語、英語、タガログ語、ポルトガル語、フランス語で感謝の言葉を述べ、アンコール後には今日が誕生日だったというセキュリティのお兄さんがステージに上げられ、会場全体から“ハッピー・バースデイ”の歌で祝福された。
バイタリティに満ちたブラック・アイド・ピーズのステージだったが、もちろん生身の人間として生きることは、言葉で言うほど楽なことではない。オバマが大統領になった後も、やはりアメリカは苦しみ続けている。物事にはいつも明るい面と暗い面があるのだ。ちょうど、新作のタイトル『THE E.N.D.(終わり)』が同時に「THE ENERGY NEVER DIES(エネルギーは決して死に絶えない)」というメッセージを意味しているように。(高久聡明)
ブラック・アイド・ピーズ @ 幕張メッセ
2009.09.19