ライブを超えた衝撃の一夜「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」の続編──amazarashi初の横浜アリーナ公演「電脳演奏監視空間 ゴースト」で何が起きたのか?

ライブを超えた衝撃の一夜「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」の続編──amazarashi初の横浜アリーナ公演「電脳演奏監視空間 ゴースト」で何が起きたのか? - All photo by Victor NomotoAll photo by Victor Nomoto
amazarashiの自身初となる横浜アリーナ公演「電脳演奏監視空間 ゴースト」が行われた。本公演は2018年に日本武道館で開催されたライブ「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」の続編と位置づけられている。「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」は「言葉」をテーマに、ステージと客席の間に巨大な4面半透過LEDスクリーンが紗幕として設置された状態で行われたライブだ。このライブのためのアプリをオーディエンスが起動するとライブと連動してバックライトが点灯するという参加型のライブであり、そのライブを超えた画期性から多くの賞を受賞した。そこから7年弱。「電脳演奏監視空間 ゴースト」のために制作されたアルバム『ゴースト』を携え、amazarashiはどんな進化形を見せるのだろうか?

ライブを超えた衝撃の一夜「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」の続編──amazarashi初の横浜アリーナ公演「電脳演奏監視空間 ゴースト」で何が起きたのか?
横浜アリーナに足を踏み入れると、アリーナエリアの中央には透過性の高い円柱の紗幕に覆われたステージが設置されている。まるで紗幕柱だ。紗幕には本公演専用のアプリのダウンロードのやり方や「ゴースト」の物語にとって重要な「領導者」の説明、元CIA職員のエドワード・スノーデンの言葉などが映ったうえで回転している。「amazarashi『電脳演奏監視空間 ゴースト』に来た同志に感謝します」というアナウンスが流れた。見たことのないようなステージセットを前に、「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」を超える体験に向けて期待に胸が膨らむ。

アプリの操作の指示が始まり、スマホの画面に「群衆演算・起動」という文字が映り、「言葉ゾンビ」のロゴが掲示された。「言葉ゾンビ」とはあえてテンプレート逸脱活動を行う者たちへの新言語秩序(テンプレート逸脱を取り締まる自警団)がつけた蔑称および自称だ。インターネット上の書き込み、路上の落書き、ゲリラライブ、地下出版、リクルート集会などをゲリラ的に行っており、本公演のオーディエンスである我々も言葉ゾンビの一員とみなされる。スマホに「完全接続端末10%」と表示された後、場内に「計算開始」というアナウンスが響くと、オーディエンスのスマホのライトが客席を一周するように光り始め、どよめきが起こった。「告発を開始します」というアナウンスに続き、ボーカル&ギター秋田ひろむの「人は過ちを犯す生き物だ。だからずっと規範を守り働いてきたのに」という言葉から始まる朗読がスタート。「ひまわり」「イーア」といった人物がオーバーマインド号に乗船するストーリーが展開され、4月29日19時に「新世界道徳」の施行がこの船から国中のメディアに発信されることが告げられ、「この世界は変わる。反吐が出るくらい正しい世界に」という宣言がなされた。

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そのままアルバム『ゴースト』1曲目の“君のベストライフ”に突入。ステージ上、お馴染みのハットをかぶった秋田ひろむを中心としたバンドのシルエットが目に入る。紗幕には“君のベストライフ”のリリックや「不法集会を特定」といった煽情的なワードが目まぐるしいスピードで映し出される。バンドを防犯カメラから撮ったような映像もあり、あらゆるところから監視をされているような感覚に陥る今の社会を想起させた。《誰も信じない 神様もいない 夢もクソもない/君のベストライフ》《ならば何を信じたい 何を愛したい 常々足りない》《だから何か手にしたい 賛美はいらない 僕らだけの価値》。アブストラクトなサウンドに乗せて、絶望から必死で希望に手を伸ばし生きようとする思いを秋田が気迫のこもった歌で放つ。紗幕柱の中から世界を変革するための咆哮が放たれているかのようだ。

「電脳演奏監視空間 ゴースト、横浜アリーナ! 青森から来ました! amazarashiです!」という宣誓から、『ゴースト』の曲順と同じく“ナイトメア”へ。躍動感溢れるアンサンブルと歌。《ジョナサン、動機をくれ 君にとっての羽/例えば僕に 夢だとか欲望とか》《全部壊して 抉り出す暗影》。先ほどの朗読に登場した「ジョナサン」というワードも歌詞に出てくる。リチャード・バックの『かもめのジョナサン』からインスパイアされているのだろう。amazarashiがなし得ようとしている変革を全オーディエンスがじっと見守った。

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アルバムの曲順通りの3曲目。一気に光に身を投げ出したようなアンサンブルと歌声が胸を打つ“黎明期”が演奏される中、紗幕には「言葉ゾンビ」のXのアカウントが映る。《ここだよ ここだよ 必死になって叫んで/正気に戻った そうかここは心だ》と歌う秋田。紗幕に「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」とも関係の深い楽曲“独白”の一節《言葉を取り戻せ》というワードも映った。amazarashiは、心から生まれる本質的な言葉を取り戻すための活動を行っているとも言える。

しばしの静寂を経てスマホが振動したと思ったら、スマホのライトが光り始め、最初は青森で500枚限定で販売された1stミニアルバム『光、再考』の1曲目に収録され、amazarashiの原点ともいえる“光、再考”へ移行。秋田の《上手くいかない時は誰にでもあるよ/そんな光》という歌と呼応するように、客席にスマホライトの波が生まれていった。

ライブは2章、3章、4章と進行していった。ライブと連動したアプリによって物語への没入感がどんどん高まっていく中、「イーア」の正体は「ひまわり」自身が生み出したゴーストなのだと明かされた。4章の展開と呼応するような“おんなじ髑髏”がしっとりと演奏された後、“僕が死のうと思ったのは”へ。そして、秋田の「夜の向こうに答えはあるのか⁉」という叫びに近い問いかけから、アグレッシブなバンドの演奏と矢継ぎ早に言葉が吐き出されるボーカリゼーション。前進する力が爆発する“スターライト”へ。場内に大量の光が巡った。スマホライトの洪水の中での“アンアライブ”。《生きると死ぬの間 減り続けるタイマー/こんなはずじゃないんだ 悔やんでるよ毎晩》と歌う切迫した秋田の歌が、物語が終幕に向かっていることを予感させる。

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アプリに「響撃」「機関停止」という文字が映る。「告発を再開します」というアナウンス。5章の朗読へ。「ひまわり」が「私はずっと、私を生きたかったんだ。」とエンターキーを叩いた。“ゴースト”の演奏がスタート。横浜アリーナがスマホライトに包まれる中、紗幕にはエンドロールクレジットが映り、アルバム『ゴースト』と同じくこの曲が「電脳演奏監視空間 ゴースト」を締め括ることをオーディエンスは知る。秋田が勢いよくギターを振り下ろし、曲は最後のパートへ。《正しくなんてなくていい 優しくなんてなくていい/自分勝手が丁度いい 今日が僕のバースデイ》。不寛容な社会において、自分らしく生きられることが正解なのではないか。そんな思いを抱かせる中、バンドは最後の力を振り絞らんばかりに、全身を激しく使って楽器を鳴らした。秋田が「ゴースト! 横浜アリーナ! ありがとうございました!」と口にした。

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スマホを見ると「本告発は成功 すべての同志に感謝を捧ぐ」というメッセージと共に、「プロテストライブ ドキュメントアップロード中 各自、抵抗運動として拡散せよ」という指示が掲示されていた。

秋田は本公演に向けて、「『ゴースト』は閉鎖的な空間での監視社会を舞台に主人公が右往左往するというのが大枠のストーリー。キャンセルカルチャーをはじめ、最近は感情を原動力にした外罰意識が目立つ。道徳ルールが過度に壊れた世界で僕だったらどう生きるか? どういう選択をするのか?というのが発想の出発点だった」とコメントしていた。5章にわたって展開された物語には、監視社会やSNSでの言葉狩り、キャンセルカルチャーといった現代が抱える様々な問題がちりばめられており、オーディエンス自身が「今この世界でどう生きるか?」「どう生きたいか?」という問いと向き合うことをあと押ししていた。自らの心と意志を持って生き、言葉を取り戻すこと。何かが壊れた社会への抵抗運動とも言える圧倒的な没入体験を通して、新たな気づきが得られる唯一無二の2時間強だった。(小松香里)

ライブを超えた衝撃の一夜「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」の続編──amazarashi初の横浜アリーナ公演「電脳演奏監視空間 ゴースト」で何が起きたのか?


●セットリスト
「amazarashi 電脳演奏監視空間 ゴースト」
2025.4.29 横浜アリーナ

1章
01. 君のベストライフ
02. ナイトメア
03. 黎明期
04. 光、再考

2章
05. 小市民イーア
06. ムカデ
07. どうなったって
08. 痛覚

3章
09. 収容室
10. ロストボーイズ
11. アンチノミー
12. 未来になれなかったあの夜に

4章
13. おんなじ髑髏
14. 僕が死のうと思ったのは
15. スターライト
16. アンアライブ

5章
17. ゴースト

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