アクロン/ファミリー@ 渋谷WWW

アクロン/ファミリーと言えば、何と言っても前回来日(2009年) のステージがとんでもなかったのだ。ディアハンターとの対バンだったその来日公演で当初は前座的な扱いに甘んじていた彼らだが、蓋を開けてみればディアハンターに匹敵する、いや、ディアハンターを殆ど食ってしまったほどの大迫力のパフォーマンスを見せつけ、その興奮のステージは目撃者達によって長らく語り継がれたほどだった。

サイケデリック、スピリチュアル、ジャムといった代名詞と共に語られてきたアクロン/ファミリーのライブの魅力は徹底的にフリーフォーム、自由であることだ。それは時に数秒先の展開が読めないスリルの中で太古の生命体の復活劇を見守るような、はたまた未知の生命体の誕生の瞬間に立ち会うような神秘体験であり、時に原初の祭りに参加して我を失うどデカイ快感の渦でもある。怜悧な知性派の巣窟と化しているブルックリン出身バンドの中でも際立ってプリミティブなアクロン/ファミリーは、むしろフィッシュやマイ・モーニング・ジャケットといったバンド達との類似を見いだせる存在でもある。

今回の来日公演は新作『S/T II:コズミック・バース・アンド・ジャーニー・オブ・シンジュ・TNT』を引っ提げての彼らのメイン・ツアーである。びっちり埋まった開演直前の渋谷WWWのフロアに「曲と一体になって踊ったり歌ったり好きにやっちゃってください」なるアナウンスが流れ、ステージに3人が登場する。「ハロー、ウィー・アー・レッド・ホット・チリ・ペッパーズ!」の第一声にずっこける間もなく始まったのは即興の“ギヴ・イット・アウェイ”。そう言えばスタート直前までかかっていたSEもレッチリだったけど、このやりとりのお陰でのっけから一気に会場の空気が緩み温まる。

そして緩んで温まったオーディエンスの隙を縫うようにノイズとリバーブが会場の隅々まで行き渡った次の瞬間、一気に3人のアンサンブルが爆発する。『S/T II:コズミック・バース・アンド・ジャーニー・オブ・シンジュ・TNT』のジャケットに描かれた活火山の噴火さながらのスペクタクル!これがアクロン/ファミリー!どっかんどっかん爆発する火山島のうっそうと茂った森中を思わせる手拍子や鳥のさえずりを模した口笛も随所で効いている。彼らがスピリチュアルと称されるのはこういった部分だろう。

このバンドのライブの気持ち良さや一体感っていわゆる往年のラブ&ピースにも通じるもので、一歩間違えれば危ない宗教だよな……なんて思っていたら、ステージに通訳が登場し、「深呼吸してー目をつぶってー、はい、右手を上に伸ばしてー海辺を連想してー」とオーディエンスに呼びかけ、ますます場内はトランス状態に陥っていく。そこで始まるのが“Island”だ。ビーチの夜明けから日没までの時間をトロトロにサイケデリックなサウンドで描いたようなこの曲は、アクロン/ファミリーのヒッピーライクな側面を最もビビッドに伝える瞬間だったと言える。会場ではグレイトフル・デッドのTシャツを着込んだ壮年の男性もチラホラ見受けられるのも、つまりそういうことなのだろう。しかし、続く“A AAA O A WAY”のブルージーな特大ノイズイントロでもって彼らは直前までのピースなムードを容赦なく断ち切っていく。

そしてこの日、本編で最大の歓喜を生んだのは『S/T II:コズミック・バース・アンド・ジャーニー・オブ・シンジュ・TNT』の収録曲中でも最もエモーショナルな“Another Sky”だ。イントロの一音目からトップギアで天を貫く完璧なアンセムで、コーラスは半永久的にオーディエンス任せ、セスとマイルズは客席に乱入し、ガムテープをオーディエンスの頭上で命綱みたいに伸ばしながら場内を一周する。殆ど意味がわからないが、とにかく熱狂は最高潮である。

そんな“Another Sky”の後半でふとステージに目をやると、そこには灰野敬二がいた。そう、この日のオープニング・アクトを務めたのは灰野率いる不失者だったのだが(90分越えの超絶濃厚アバンギャルド・ステージでした)、むしろ今回のアクロン/ファミリーのライブにおいて彼はオープニング・アクトの枠にととどまらず、「第4のメンバー」と呼ぶべき立ち位置にいたといっていいだろう。

なにしろ、ここから灰野を含む4人で繰り広げられたインプロ合戦が、いろんな意味でとんでもなかったのだ。主導権を握っているのは間違いなく灰野のギター。彼を司祭に据えた儀式のようにひしゃぐノイズ、奇妙な沈黙、そして容赦ない爆音が超ランダムに降り注いでくる。とにかく音がデカい。デカすぎる。数分その爆音を浴びていると比喩でもなんでもなく鼓膜が痛くなり、思わず耳をふさぐ瞬間すらあった。20分、いや、30分は続いただろうか。爆音が鳴りやんだ後には、抜け殻のように立ちすくむ幾多のオーディエンスの姿があった。

この日のアクロン/ファミリーのライブは、そういう意味でもかなり特別だった。灰野とのコラボレーションがショウの3分の1以上を占めたそれはアクロン/ファミリーの新展開と新ポテンシャルを見極める貴重な機会だったとも言えるし、逆に彼らのライブの真骨頂が100%発揮されなかった惜しい一夜だった、とも言えるんじゃないか。個人的にはもう少しアッパーな曲を多く聴きたかったというのが本音。でも本編ラストの“Silly Bears”は最高だった! (粉川しの)
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