ハインズ @ 新代田FEVER

ハインズ @ 新代田FEVER - All pics by MITCH IKEDAAll pics by MITCH IKEDA
ハインズ @ 新代田FEVER
ハインズ @ 新代田FEVER
ハインズ @ 新代田FEVER

ハインズ。スペインはマドリードからやってきた女子4人組である。最近ようやくファースト・アルバムが出たばかりの若いバンドだ。初来日となる今回のライヴ会場に選んだのが、なんと東京・新代田FEVERである。あまり繁華でない私鉄沿線の何の変哲もないライヴ・ハウス。駅からすぐ近く、入りやすく、見やすく、音も悪くない。かって受付では人懐っこい名物犬が出迎えてくれた。私自身ここでお気に入りの日本のバンドのライヴを何度も見て、大好きなハコなのだが、はっきりいって渋谷や恵比寿あたりの外タレが出るようなおシャレな店では全然ない。しかし、このハコこそがハインズに似つかわしい、と私には思えた。つまり彼女たちは大衆と遊離した特権的な存在ではない。日常と密着した出来事や感情を、等身大の女子の本音として歌う。そんなハインズにとって、決してオシャレでもなく小ぎれいでもないが、しかしオーディエンスとの接点を身近に感じ取れるこの地元密着のライヴ・ハウスが、日本での出発点にふさわしい。

その観客との接点で言えば、最初は戸惑いを隠せない様子で、母国スペインに比べ大人しく、曲間になるとシーンとしてしまう観客の反応にちょっとやりにくそう。このあたりは1970年代初頭の外タレ来日黎明期からずっと言われていることで、大人しく人見知りで最初は様子見しがちな日本人の国民性としか言いようがないが、それでもライヴが進むにつれ目に見えて観客の反応は良くなり、アンコールではびっくりするほどの盛り上がりだったのは、予想外に、といっては失礼だが意外なぐらい演奏がしっかりしていたことが大きい。リバティーンズやストロークスの前座、グラストンベリー・フェス、SXSWへの出演など世界中を旅して大きな舞台を経験してきた強みだ。音楽性は極端にローファイなガレージ・ロック。ノスタルジックな甘酸っぱい60年代バブルガム・ポップ風のメロディと、シンプルで人懐っこくて可愛い演奏、娘たちの日常会話の延長のような歌だが、ちゃんと聴かせどころを考えているし、楽曲の良さを伝えるだけのスキルがあるから、稚拙さと紙一重のシンプルさが音楽的な良さとして生きてくる。ソニック・ユースなどが好きなのかな、と思わせる硬派な部分も垣間見せたり。

ハインズ @ 新代田FEVER
ハインズ @ 新代田FEVER

演奏中はずっとニコニコしている。最初はちょっと緊張している様子だったが、次第にほぐれてきて、じゃれあうようにプレイしている。さながら映画『リンダリンダリンダ』の、文化祭を目指して部室で練習する女子高生のような趣だ。それを見る我々も、同級生、もしくは父兄のような気分である。観客に話しかける様子も、いい意味でプロのバンドのMCっぽくない。大人しい観客相手にたどたどしい日本語で「踊ろうよ~踊ろうよ~」と煽りを入れるあたりが可愛い。そういえば観客のスマホ撮影率の高さも最近ではダントツだった。

ハインズ @ 新代田FEVER
ハインズ @ 新代田FEVER

ふと、この楽しげな時間がいつまで続くのかと思う。彼女たちの最終的な目標、バンドとしての理想の完成形とはなんだろうか。今の彼女たちにまさかビヨンセやマドンナのような野心があるとは思えないし、ビョークやFKAツイッグスのようなアート指向だとも思えない。いい曲を書き、みんなと共有して、今この時を楽しく過ごせたら、それをいつまでも続けられたらと、それだけを願う。U2になれなくても、レディオヘッドになれなくても、それでいいではないか。女子だけのバンドがなかなか長続きしない現状は確かにある。親しい仲間と過ごす楽しい時間がいつまでも永遠に続く、映画『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』的状況は、いつか現実に引き戻されるかもしれない。だが、できれば引き戻されたくない。文化祭を終わりにしたくない。そう願いながら家路についた。(小野島大)
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