1980年12月に2枚組LPとしてリリースされた本作は、人気絶頂期だったフリートウッド・マックの〝熱狂〞を克明に記録した、珠玉のライブ・アルバムだ。収録された全18曲は1ヶ所のライブではなく、あちこちの会場の中から「ベスト」な音源を厳選したもの。その贅沢な作りからして、いかにも当時のマックらしいなぁと思う。メンバーの回想によれば(本作の主音源である)79〜80年ツアーの楽屋ではアルコール&コカインが天文学的ペースで消費され、普通のバンドならアルバム1枚の制作費に当たる大金がわずか「ひと晩分」のドンペリ代として散財されていたという――70年代ロック・バブル、ここに極まれり!的な逸話である。
しかし、舞台裏にどんな問題があったにしろ、ここでの5人の演奏はすべてが“熱い”。森の魔女に取り憑かれたかのように、歌の世界へ深く降り立っていくスティーヴィー・ニックス。その静寂を一瞬でかき消し、ギターの爆音で巨大な会場を狂騒シアターへと変貌させるリンジー・バッキンガム。かつては恋人でありながら、当時はすでに犬猿の仲だったはずのふたりだけど、いざステージに立てば、このペアの存在感はお化け級である。音だけで「絵になる」バンドって、こういうことだよ。
今回のデラックス・エディションはオリジナル盤のリマスターに加え、1時間以上にも及ぶ未発表音源を新たに収録。特に注目なのは、当時は「実験的すぎる」と酷評されながら、近年になり「ポスト・パンクの早すぎた名盤」と再評価が高まっている79年の『牙(タスク)』に収録されていた、マイナーな楽曲群の貴重なライブ・バージョンが多数追加されたこと! コロナ禍の今こそじっくり“深掘り”したい、伝説のライブ名盤のリイシューだ。(内瀬戸久司)
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