体調や喉の調子がよくなくて、そのことをMCで詫びたうえでなんとかライブをやり遂げる、そんなステージを僕はこれまでいろんなアーティストやバンドのライブで見てきた。中断せざるを得なくなるケースや、そこでツアー自体を中止せざるを得なくなるようなシリアスな場面もいくつか見てきた。でも、去年末のCOUNTDOWN JAPAN 23/24でのクリープハイプのステージは、起きたことは同じでも、これまで見たそういうものとは全く違うものだった。つくづく言葉って面白いなって思いました。
言葉を吐いてる瞬間に聞いてるので、一回出したものを自分でも摂取してるっていうか。薬みたいなもので、めちゃくちゃ効きますよね
尾崎は序盤のMCで、どれほどの思いでこの日のステージに向かってきたか、その日に声が出なくなったことで自分が今どんな気持ちでいるか、そしてそんな自分が今からどんな気持ちで歌うのかを、訥々と語った。その言葉に込められた物語と感情は、まるで歌詞のようだった。そこからすでに、今まで見たことのないクリープハイプのライブは始まっていた。声が出ないことの言い訳ではなく、「声が出ない今日の尾崎世界観が率いる今日のクリープハイプの特別なライブ」のプロローグだった。そして、そこからのライブはすごかった。かすれた声も、震える声も、その時の表情も、尾崎を援護射撃する楽器隊のテンションも、すべてが特別だった。尾崎は言葉の力によって、ハンディキャップを超えて表現の次元を上げたのだ。すごいバンドになったと思った。
新しい曲はドラマ『滅相も無い』のタイアップ曲で、タイトルは“喉仏”。軽快な曲で“イト”を思わせるポップソングなんだけど、歌詞のテーマは言葉(言葉が出ないこと)なので、今回はそこを掘り下げて話を聞いた。
インタビュー=山崎洋一郎 撮影=Yuji Watanabe(Perle management)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年5月号より抜粋)
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