Official髭男dism、「わかりやすさ」からも「普遍性」からも解き放たれた「自由」で「リアル」な大傑作『Editorial』はいかにして生まれたのか? メンバー4人が語る

Official髭男dism、「わかりやすさ」からも「普遍性」からも解き放たれた「自由」で「リアル」な大傑作『Editorial』はいかにして生まれたのか? メンバー4人が語る

こうやったらいい音楽ってできるんだっていうのが、マニュアル化してしまうとつまらなくなってしまう。悩む時間すら人生として価値のあるもの(藤原)

――このアルバムは、より不完全なものとか、より日常のもの、取るに足らないようなこともテーマにされていて。ここからは、なぜそういうことを表現しようと思ったのかを聞きたいんだけど。“Editorial”で始まるじゃないですか。

藤原 はい。

――この歌詞ってまさに、このアルバムはそういうアルバムなんだっていう宣言に聴こえるんだけど。

藤原 この曲、デモ音源自体はみんなで合宿やってる期間に生まれてきたんですけど、歌詞は最後に書き上げて。今回、振り返った時に、みんなが悩んでる部分もすごく見てきていて。たぶん自分も含めて誰ひとりとして一筋縄でいってないなって。でも、それが音楽を作るということの喜びでもあるんじゃないかなという。こうやったらいい音楽ってできるんだっていうのが、マニュアル化してしまうとすごくつまらなくなってしまうし、飽きてしまうし、という部分を言葉にしたと思っていて。あと、こういうことって歌っちゃいけないんだろうかということも、その悩む時間すら自分たちにとっては人生として価値のあるものだね、っていうことをまずは歌いたくて。

――で、その次に出てくるのが“アポトーシス”ですよ。この不安な時代に歳を重ねて暮らしていくこと、その中で何が見えてくるのかみたいなことを、相当突き詰めて書いてる歌詞だなという気がした。

藤原 まあ、僕が今、抱きうる感情の中で最も怖れていることの歌になります。

――それで始めるんだ。

藤原 そういう時期でしたね。メロディの断片が生まれたのはもっと前だったけど、29歳の誕生日にこの曲のワンコーラスのピースがパチパチパチッとはまって、1個の楽曲として形になって。あと1年したら、僕の20代は永遠に帰ってこないという、すごくあたりまえなのにすごく残酷なことを目の当たりにして。あとどのぐらい元気でいられんのか、とか、どのぐらい高い声出せるのか、とか(笑)。あとは、家族がいつまで元気でいてくれるか、とか。言ってしまえばバンドっていうものも永遠ではないから、いつまで元気でみんなで続けられんのかな、とか。そういうことをすごく思うタイミングだったので。そういう曲を作りたい――っていうよりも、もうほんと自然と出てきたって感じで。はじめはもっと、聴き終わったあとに前向きになれるようなものであればいいなと思ってたんです。自分自身も救えるような言葉はないかなって考えてたんですけど。結局なかったっていう歌になっているのは、すごく自分の中では──複雑だけど、だんだん、そりゃそうだよなと思ってきちゃったっていうのが大きくて。どんな言葉とか、どんな幸せな体験を浴びさせられても、大事な人を失った悲しみなんか癒せるわけない。だからせめて、与えられた、許された、残された時間を大切にしていくことしかできないっていう曲になっていきました。

幸いなことにバンドがみんなに聴いてもらえるようになって。想像もつかない遠くまでエネルギーを届けることができるかもなって(小笹)

――あと、このアルバムで表現されていることとして、わかりやすい例で言うと“みどりの雨避け”とか、超個人的な、超日常的な光景から自分の頭に浮かんだこと。“Bedroom Talk”も、自分と、もうひとりの自分の会話、誰もがベッドルームでしているような超個人的な光景が描かれている。これを今表現しようと思ったのは、何かあったの?

楢﨑  “みどりの雨避け”は、個人的なことを歌いたいなっていうのは、欲望的にあったんです。でも個人的な思いを歌詞にしてたら嫌んなっちゃって。

――なんで?

楢﨑 なんか嫌んなっちゃったんですよ(笑)。結局んところ、雨降ってる中で知らない奴らと一緒に酒のんで、自分の人生について、楽しくしたい、今日をよくしたい、明日はどうだ、誰がむかつく、とか言い合いまくってる。その感じが曲の中に出ればそれだけでいいなと思って。

――小笹くんの “Bedroom Talk”は?

小笹 これは……自分が助けたりとかできる人って、ほんと手の届く数人ぐらいじゃないですか。それは自分の寝室に招ける、家族とか、ごく親しい友人とか。実際はそれすらも難しくて、自分のことで精一杯だと思うんです。でも、性善説じゃないですけど、ほんとにみんなにやさしくありたいし、みんなに幸せになってほしい、穏やかでいてほしい。けど、どうすればいいかわかんない。ただ、幸いなことにバンドがみんなに聴いてもらえるようになって、自分が好きな音楽っていうフォーマットを借りたら、もっと想像もつかない遠くまでそういうエネルギーを届けることができるかもなって。そういう希望を作ってる時に感じたっていうか。

――あと“フィラメント”。ちゃんまつと藤原くんの共作曲なんだけど。

松浦 自分の中にある、自分に対するわだかまりみたいなものを書きたいなと思ってて。でもそれを言葉にするのが難しくて、さとっちゃんにカウンセリングしてもらったんです(笑)。

――《その光はもう見えてきただろう 笑えばいい》ってさ、藤原くんからは逆に出てこないし、自分の言葉として歌いづらいよね。

松浦 ははは。

藤原 《来た道にまた戻るより 進むがいい》って、いいっすよね(笑)。

松浦 そこの言葉は絶対残したほうがいいよって言われて。

藤原 そう、ちょっと恥ずかしい気持ちわかるけど俺は好きだよって。自分を鼓舞するのが自分自身な時に、そのうちのひとりが「おい匡希! 進めっ!」って言ってるとこはあるんだろうなって。

――こんな感じで、それぞれの個の、しかもわりと生々しい、それぞれが生きていることとすごく密接に絡むような曲が入っていて。そういうことも実現しているし、クオリティも実現しているし、相当いいアルバムですね。

藤原 ありがとうございます。素敵なバンドになれてるんじゃないかなって。

――ほんとそう思いますね。

藤原 僕がリスナーだったらそう思うなっていう歳の重ね方を、今できてることは非常に幸せだし。このスタンスは維持したいと、すごく思います。

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