オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガは、著作『ホモ・ルーデンス』の中で、文化は遊びから生まれたと論じた。遊びとは、誰かに命じられるものでも、役に立つからするものでもない。ただただ、したいから自発的にするもの。その意味で、「好き」という感情もまた、文化や創造の最も根源にある衝動なのかもしれない。ドラマ主題歌で、タイトルは“好き”。何も前情報を知らなければ、誰もが王道のラブソングを想像するだろう。しかし、この音楽家はかつて“恋”というタイトルで《一人を超えてゆけ》と歌い、恋愛ソングという枠組みを飛び越え、人と人との関係性そのものを描いてみせたのだった。今回もまた、ドラマ『君の好きは無敵』で描かれるキャラクタービジネスの世界とゆるやかに呼応しながらも、「好き」という誰もが知る言葉を通して、人間の根源にある哲学を立ち上げていく。冒頭から鳴り響くのは、あたたかく軽快で、どこかコミカルなダンスグルーヴ。その心地よいサウンドに乗せて歌われるのは、《不意に胸に咲いた/この心が跳ねて仕方ないな/誰の許可もいらないもの/幼い日にあったもの》という歌詞だ。ここでの「好き」は、頭で考えて生まれる感情ではない。《咲いた》《跳ねて》という身体的な動詞で描かれるように、それはまずフィジカルに起こる出来事として綴られている。自然と身体を揺らしてしまう曲のリズムと響き合いながら、この音楽家は「好き」という言葉を説明するのではなく、「好きになってしまう身体」を音楽として鳴らしているのだ。生理的に伝わってくるこの心地よさは、これまで以上に優しげな声と、そっと心を撫でるような歌唱法によるところも大きい。聴いているとなんとなく幸せな気持ちになるとしか言いようのない、本能に訴えかけてくる歓びがある。 (以下、本誌記事に続く)文=つやちゃん
(『ROCKIN'ON JAPAN』2026年9月号より抜粋)
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