純粋であることは、若さ故の特権だろうか。
メンバー全員が10代の3ピースバンドFish and Lips、通称:フィシュリは、とてもストレートに、等身大のリアルな言葉で恋愛や青春を歌うバンドだ。「ストレート」「リアル」な歌詞というのは月並みな表現かもしれない。ただ、フィシュリが描く「リアル」というのは、ただ日々の生活をありのまま描き、思い浮かんだことをそのまま垂れ流すという類のリアリティではない。好きな人に好きだと伝えることに理由なんているのかと言わんばかりの、純粋で飾り気のない本心を曝け出しているという意味での「リアル」だ。相手のことを好きであればあるほど、素直に想いを伝えるのは難しく、傷つくのが怖くて肝心なことをうやむやにしたり、あとに引けるように逃げ道を残しておきたくなるもの。でも、フィシュリのラブソングには逃げがない。何か根拠があるわけではないけれど、君を幸せにできるのは僕だけだと信じて疑わない。自信を持って好きだと伝えること、それの何が悪いんだ。そんな一途さでキラキラと輝いている。歌詞がピュアなのは単に若いから、とは私は思っていない。SNSによって、若いうちから自分が相対化される瞬間が増えていて、自分に自信を持つことがどんどん難しくなっている世の中で、健全な自己肯定感を持って素直に想いを表現できることこそ、フィシュリの何よりの強さだと思う。
1st EP『青春、歌い続ける』の最後に収録された“青春ロックを歌って”にはこんな歌詞がある。《何もかも中止になっていく世界で/青春なんてできないで終わってくのかな》──コロナ禍の影響で、毎日仲間と顔を合わせて苦楽を共にしたり、好きな時間に好きなだけ友達や恋人と会ったり、という青春を過ごすことはできなかった。それ故に、大切な人に自分の言葉で想いを伝えることの尊さを誰よりもわかっているから、この先フィシュリが年を重ねても、まっすぐな言葉とメロディが濁ることはないだろうなと確信が持てる。だから私のような大人ですら、その揺るがない純粋さに勇気をもらえるのだ。
文=有本早季
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年11月号より抜粋)
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【JAPAN最新号】Fish and Lips、その純粋さと無敵感に救われる
2024.10.07 18:00