ポップミュージックは時代とともに新たな表現をアップデートしていく。2001年3月19日生まれ、福井県出身のシンガーソングライター、荒巻勇仁(あらまきゆうじん)による時代と写し鏡のようなリアリティーある活躍に着目したい。
憂いと澄んだ歌声が同居する、蒼き世界観の構築。個性的なファッションセンスへのこだわり。SNSでの人気が先行する中、シンガーソングライターとしての才能を世間が見逃すはずはなかった。
そんな荒巻にターニングポイントが訪れた。8月9日(金)公開、ポップカルチャーシーンを揺るがす話題作となった映画『ブルーピリオド』劇中歌として、Yaffle名義で配信リリースされた“憧憬画 feat. 荒巻勇仁”(2024年8月7日リリース)へのフックアップである。
その前に、今はまだ無冠の才能=荒巻のこれまでを振り返ろう。
幼少期から地元福井で音楽活動を開始。YouTubeでは文化祭での歌唱シーンがバズり、歌うま高校生として名を馳せ、アマチュアながら地元の1000人を超えるホールでライブを行えるほどの人気を誇った。
シンプルに等身大だった当時の音楽活動。
だがしかし、米津玄師好きだったという気のおけない友人から「お前の(ストレートで等身大の)音楽、ダサくない?」というアドバイスにハッとさせられ、より自己と向き合った本格的な創作活動へ打ち込むことになる。
こうして完成した2022年4月1日にリリースした自主制作アルバム『Re:paint』。本作によって、荒巻勇仁は生まれ変わった。個の世界観の表明へとこだわったオリジナルな歌唱表現、そしてオルタナティブなセンスで紡ぐ令和ポップ以降のジャンルレスな音世界を模索しはじめたのである。
その後、着火ポイントとなったのは、TikTokを通じて新しいリスナーへと届いた“天才になれなかったので”(2022年11月5日リリース)だ。自らを見つめ直したことで誕生した赤裸々なる自己表現のポップアンセム。多くのUGC(ユーザー生成コンテンツ)で活用され総再生回数が1億回を超えた本作が話題を呼び、Spotifyによる新しい才能の登竜門『RADAR:Early Noise』へリストインするなど評価を得た。
そして、上京。
都内、渋谷を中心にゼロの状況からライブ活動を繰り広げていく。表現へ向かわせる孤独や負の感情がポジティブなエネルギーとなり、名曲“未成人”(2023年8月30日リリース)、“群像劇” (2023年10月25日リリース)、“東京症” (2024年4月17日リリース)といった3部作が誕生した。悲しみと憂いを感じる皮肉めいた表情の裏に透ける本音と優しさ。それは、コロナ禍を生きのびた若い世代へと向けられた、疲弊し傷ついた時代への鎮魂歌のようにも聴こえた。
こうして、「君の為に出来ることは、この想いを伝えることだけだ」と歌い切った、今夏を彩る疾走感に溢れた最新曲“青春を”(2024年7月24日リリース)へたどり着いた荒巻。
初々しい恋愛感情。最新曲“青春を”は、初恋の高鳴りと純粋で真っすぐな想いを描いた宝物のような恋愛ソングへと仕上がった。虚無に背を向け混沌の世を生きるティーンへ向けたポップソングの完成だ。恋に落ちた瞬間の胸の高鳴りや未来への希望、恋心を通じて成長し合える関係性へと踏み込んだ8ビートを基調とした本作は、疾走感と爽やかさを兼ね備えながらもノスタルジーを匂わせる音像で、青春のワンシーンを蒼く表現。ここにきて、これまで封印してきた直接的な表現かつストレートなポップソングを解放したのだ。
「《君の為に僕ができること》さえ見つけられたら、自分のことを恋愛対象として見てもらえるんじゃないかという淡い期待を軸に、純粋でまっすぐで盲目的な初恋を描いたこの楽曲は自分にとって挑戦的な一曲となりました。これまでの楽曲ではあえて直接的な表現を避けることが多かった自分にとって、初恋をテーマとして扱うというのは少し勇気のいることだったのですが、『青春』の力を借りることで、純度の高い好意を表現できた、これまでにない質感の作品に仕上がったと思います。 ライブに組み込むだけで一気に風が吹くような、疾走感のある楽曲になりました。」(荒巻)
さらに、ニュースは続く。
『マンガ大賞2020』に輝いた山口つばさによる人気漫画『ブルーピリオド』の実写映画化における劇中歌“憧憬画 feat. 荒巻勇仁”へのフックアップである。空虚な毎日を送っていた男子高校生が情熱だけを武器に美術の世界に本気で挑む姿を描いた青春群像劇と荒巻の世界観の融合。そんな晴れ舞台を気鋭の音楽プロデューサー、Yaffleがプロデュースしたのだ。映画では、眞栄田郷敦が矢口八虎役で主演を務め、同級生のユカちゃんこと鮎川龍二を高橋文哉、八虎のライバルとなる天才高校生・高橋世田介を板垣李光人、美術部の先輩・森まるを桜田ひよりが演じる話題作への表現者としての参加だ。しかも詞曲も自ら手がけている。
こうして、映画と連動した本作のオリジナル・サウンドトラック『ブルーピリオド(Music From The Motion Picture)』(2024年8 月 7 日リリース)に、Skaai、荒谷翔大とともになんと荒巻勇仁が選出されることとなった。本作は、小袋成彬と共にTokyo Recordings(現 TOKA)を設立したメンバーであり、藤井風、iri、SIRUPらへのアレンジや楽曲提供などで知られる小島裕規“Yaffle”が全作品をプロデュース。今夏、ポップカルチャー・シーンで話題騒然の作品への参加へと至ったのだ。
それこそ、アート表現へと立ち向かった『ブルーピリオド』で描かれる青春群像劇は、表現への葛藤と闘い続けた荒巻による音楽活動と通じるものがある。プロデューサー、Yaffleによるドラムンベース調のリズムを掻い潜るようにシャウト気味に歌われる《きっと何者でもなかった/でも憧れてしまった》という言葉の力。合唱のようなコーラスパート《くたばってたまるかと/喰らいついた僕らは/不平等に回る才能/光をのせ描け》というリフレインによって、まっすぐに想いの強さが光の如く昇華されていく。青春の光を音像化した極上のパワーポップの完成だ。Yaffleによる、歌と言葉の魅力を増幅させる魔法めいたアレンジによる後味が清々しい。
「本気で向き合っていれば、どこかで必ず『自分には才能がないんだ』と痛感する瞬間が訪れるもの。それでも諦められずに憧れてしまうこともまた才能だと信じています。自分じゃなきゃいけない理由を探しながらネガティブな感情すらも作品に昇華し続けていく八虎たちの姿に自分を重ねながら“憧憬画 feat. 荒巻勇仁”という曲を制作しました。 映画『ブルーピリオド』とこの曲を通して、いつかの日に押し殺してしまった『好き』という感情に気付くきっかけになれば嬉しいです。」(荒巻)
荒巻勇仁は、創作活動を通じて自らのアイデンティティーを模索し、殻をうち破るために葛藤し続けている。《天才になれなかった》と歌い、不器用にも見えるその素直で真摯な様は、同世代からの信頼を集めることだろう。しかしながら、幼少期より磨き抜かれた宝石のような豊かな感性が持つポップスターとしてのポテンシャルの高さ。さらに上京後、経験値を貯めてきたライブ活動から、少しずつ仲間や味方が増えはじめている状況だ。2024年下半期、追い風に乗った大躍進を期待したい新しい才能である。(ふくりゅう)
荒巻勇仁が映画『ブルーピリオド』劇中歌に込めた思い──重なり合う表現葛藤と、蒼くて深い心の内に迫る
2024.08.09 18:00 [PR]