今までだったら会えないことを嘆いていただけなのを、「僕らはここで終わるけど、いつか会えると思うよ」って歌えたのはすごく意味がある(平部)
――次の“ワールド”は、もう会えなくなってしまった人に向けての手紙のような曲ですね。平部「『告白』っていうと、『付き合ってください』みたいなもののイメージが強いと思うんですけど、この曲では、終わってしまったふたりが、今まで思っていたことを伝えるっていう。そういうのも『告白』だなと思ったので」
――平部さんの歌声の美しさにあらためて気づく曲でもありました。
平部「自分で言うのもあれですけど、年々歌がうまくなってきて(笑)。曲ごとに歌い方や声色みたいなものを意識して歌うようになりました。“ワールド”はそれが顕著に出ていますね。この曲に合わせたきれいな裏声とかは、よりこの歌の世界観を深くするものにしたくて」
――リズムも絶妙に少しずつ変化していって、それが感情の動きを表していたり。
平部「遅くもなく速くもないミドルテンポの曲の中でも、ゆったりした感じをドラムのリズムで意識しています」
前田「デモでもらったときから、ドラムのこのノリは残そうっていうイメージがありました。曲中でフレーズのニュアンスが変わっても、リズムのノリは崩さずにいきたいっていうのはありましたね」
――《きっともう会わないと思うけど/ずっと会えないとは思っていないよ》っていう歌詞なんかは言葉にしづらい複雑な気持ちが表現されていて。この曲でのキラーフレーズだと思いました。
平部「ありがとうございます。そこは今回のEPの中でも僕がトップで好きな歌詞です。年々自分の歌詞は変わってきているなと思っていて、ここが今回は決定打ですね。今までだったら会えないことを嘆いていただけなのを、『僕らはここで終わるけど、いつか会えると思うよ』って歌えたのはすごく意味があるというか。自分の中で大事なものになったなと思います」
十九川「僕もこの曲はこれから歌い続けていくアンセムになるだろうなと思ったし、個人的には、《“盲目の恋”も もうできない歳になったな》っていうところは、ほんとにそうだよなあって思いましたね」
平部「若いときって『好き』という気持ちだけで一生一緒にいられると思っていたけど、やっぱり長く生きていると、それだけでは一緒にいられないということを痛感させられるんですよね」
――この曲での「愛」は、サウンド面でも表現されていますよね。やさしい感じというか。
前田「ドラムもあんまり強くは叩かないというか、結構やさしいイメージで。曲調や歌詞のテーマから、これは強くいく曲じゃないと思ったので、やわらかく叩いています」
――そして4曲目が“マイフェアレディ”。これはこの作品の中でいちばんヤバい曲。
平部「ヤバい(笑)。そうですね。ここでの『告白』は、片思いをしている気持ちをこじらせにこじらせ、腐っていく寸前の気持ちを吐露したというものなので」
――ここまで描き切るというのも、これまでなかったんじゃないですか。
平部「でもこの曲だけ、実は2年前くらいから作っていて。これも『告白e.p.』を作るきっかけのひとつになっています。“ページワン”とこの曲があったからこそテーマが明確になっていったんですよ。でも歌詞が『片思いのこじらせ感』に寄りすぎるとキモくなっていくので、爽やかに軽快なロックサウンドに落とし込んでいます」
十九川「いやこれ、自分の中では平部との恋愛観の違いが出ていて、この曲には自分は共感できないですね。《“間違ってない間違い電話”》とかヤバいし、掛けないよ。掛けられないでしょ(笑)」
平部「いやいや。これは実際あるあるやと思うよ」
十九川「ないない(笑)」
平部「そうかなあ。今LINEとかで簡単に電話を掛けられるけど、掛けるつもりがなくても、掛けてすぐ切って『ごめん。間違い電話した』っていうメッセージを送ると、向こうから返事が返ってくるやん。それだけでちょっと連絡とれる感じになるっていうか。いやだから、僕の実体験とは言ってないで? でもそういうのもあるよねっていう(笑)」
――ここ、かなりのパンチラインですよ。
前田「確かに。でもやっぱり僕も共感できないですね、ここは(笑)」
平部「この気持ち悪さを面白方面に捉えてもらえたらいいかなと思います。こっそり共感してください(笑)」
――相当好きですけどね、この歌詞。リズムは頭打ちのロックビートでかっこいいし。
前田「これ、それこそ2年前くらいからドラムはほぼ変わってない感じなんですよ。だからあまりどういうふうに作っていったか記憶にない(笑)」
平部「2年前って、言うてもそんな昔ちゃうで? 3人でスタジオ入って作ったやん(笑)」
《愛情か友情かとかわからなくなっても/大切な人には変わりないぜ》って歌えたことで、自分でも胸を張れる曲になった(平部)
――ギターサウンドもカオスというか、もがいている、泣いているみたいなユニークさがあって。平部「そうですね。リードギターを必要以上に乗せて。それが悲痛な心の叫びのようにも聴こえるし。自分の中でどんどん相手が崇高な存在になっていく、どんどんきれいなものになっていく、そのヤバいこじらせ方に“マイフェアレディ”というタイトルがはまっていると思います。あと、自分たちの曲で“ダレヨリ”っていう曲があるんですけど、その歌詞を引用してるんですよ。reGretGirlがよくやる手法なんですけど、そこと世界観をリンクさせてます。“ダレヨリ”の続編とは思ってないですけど」
十九川「真ん中のカオスパートとかは、ライブでやるのが楽しみです。サビもベタでは弾かず、休符が効果的なべースラインを弾いてみたいなと思って作っていたんですよね。そしてレコーディングの前日まで僕はモーニング娘。の曲のベースをコピーしていたことを今思い出しました。これは完全に僕がモー娘。にはまっていたときのベースラインです」
平部「2000年くらいの?」
十九川「そう。僕らが小学生くらいのときの曲」
――“恋愛レボリューション21”とか“LOVEマシーン”とか?
十九川「そうですそうです。“ザ☆︎ピ〜ス!”とか。あらためてこのベース実はいいやんって思いながら弾いていた時期があって」
――確かにその頃のモー娘。の曲は、ディスコとかダンスクラシックスを意識したアレンジが印象的ですよね。
十九川「それをバンドサウンドでやってみようと。だからそれこそ2年前に最初に作ったときのベースラインからほぼ変えていなくて。ちょっと若いベースラインやなと思ったけど、これは大事なベースライン」
前田「こういうテンポがいちばん難しいんですよ。ライブでやるとなると実はこの曲がいちばん気を遣うかも」
――でもつくづく、“ワールド”から“マイフェアレディ”という、この振れ幅がすごいですよ。EP作品だからできる流れですよね。
平部「確かに。アルバムやったらこの2曲はもっと離して置くと思う」
――ラストが“月の色”。このEPの中ですごく胸に沁みる曲だし、結婚する女友達への思いを告げる、あたたかい曲でもあります。
平部「僕はこれ、餞(はなむけ)の言葉だと思って書きました。曲の捉え方はいろいろあっていいと思うんですけど、僕としては『恋愛関係ではないけれど、特別な、すごく気の合う友達』がいて、向こうが結婚するというときに、僕が言いたいこと、伝えたいことを綴ったのがこの“月の色”です」
――《嫉妬も束縛も超越した/誰にも譲れないモノ》という歌詞にその関係性が表現されていますよね。
平部「ここもだから、こっそり共感してもらえたらいいなと思っていて。相手のことをすごく大切に思っているんだけど、別に相手に恋人がいようが結婚しようが、そこには何も思わないっていう不思議な感覚があったりもしたので。実際に友達から『結婚する』という話を聞いたときに書いたんですけど、実はこの曲のデモの弾き語りを、前回出したアルバム『tear』のCDに入れておいたんですよ。それをもっとブラッシュアップして、今回レコーディングしました」
――reGretGirlのバラード曲として、さらに一段深く、そして新しいものになったと感じました。
平部「自分たちの得意とするものを含めつつも、今の僕だから書ける歌詞だと思うし、僕はこの歌詞がすごく気に入っています。特に《愛情か友情かとかわからなくなっても/大切な人には変わりないぜ》って歌えたことで、自分でも胸を張れる曲になったというか。今現在の平部雅洋という人間をすごく表した一節になったなと思います」
――その歌世界にしっかり寄り添うバンドアンサンブルで。
平部「ほんと、いつも自信ない自信ないってふたりは言うけど、僕は今、すごく頼もしいメンバーだと思っていて。自分なりのこだわりは持ちつつも、なんだかんだ僕のわがままを聞いてくれるのはすごく助かっているし、今後は僕ももっとふたりに寄り添っていきたいと思っています。この3人のチームでどんどんのし上がっていきたいから」
――また次のライブや作品が楽しみになるEPでした。
平部「あ、あともう1個だけ伝えたいことがあるんです。実は今回のEPのジャケット写真は、ほんとに『僕が13歳のときに初めて告白をした場所』だっていうのだけは、ちゃんと伝えておきたいです」
――おお。この写真、そうなんですね。“ページワン”の世界がリアルにここに。
平部「はい、僕が中1のときにほんとに告白をした場所。この写真をわざわざ撮りに行きました。僕の地元です」
――中1の平部少年をイメージしながら聴きたいですね。
平部「ありがとうございます。それだけ最後に言っておきたかったので」