大人世代のアーティストが青春を描こうとすると、どうしても客観性や「あの頃はよかった」的なファンタジーに美化されたフィクションが入り込んでくることは否めない。が、BIGMAMAの最新アルバム『Tokyo Emotional Gakuen』から立ち昇るのは、それこそ汗と涙にまみれ転がりながらこんがらがった青春の季節を爆走するかのような、現在の5人のリアルそのものだ。“現文 | 虎視眈々と”や“数学 | RULER”といった曲名にも示された通り、10代の学校生活をモチーフとした今作は同時に、バンドの原風景と「今ここにある青春性」を描き切るための最高のキャンバスとしても機能している。YouTuberとしても活動するドラマー・Bucket Banquet Bisの加入、事務所の移籍……多くの変革を経て生まれた5年ぶりのオリジナルアルバム『Tokyo Emotional Gakuen』について、5人に語ってもらった。
インタビュー=高橋智樹 撮影=三川キミ
ここに辿り着くまでのドラマをバンドが必然として背負ってるから、作品もそれを背負ってくれたんじゃないかなって(金井)
――5年ぶりのアルバム『Tokyo Emotional Gakuen』が、どうしてここまで青春真っ只中感あふれる作品になったのか?を伺おうと思って参りました。完成したアルバムについて今、改めて思うことは?金井政人(Vo・G) たぶん、ここまで我々にあったことをお伝えすると、1本のドキュメンタリーになってしまうと思うんですけど(笑)。それがあったからこそ辿り着けた作品なので。バケツくん(Bis)が僕たちの危機を救ってくれて、そこからも簡単な道程ではなくて、アルバム1枚制作してここに辿り着くまでのドラマをバンドが必然として背負ってるから、作品もそれを背負ってくれたんじゃないかなって。「最新こそ最高」みたいなことって、共感してもらうのが難しいとも思うんですけど……誰に嫌われようと、それを堂々と言える作品に仕上がったと思います。
柿沼広也(G・Vo) 今の時代にアルバムを作ることって、決して「意味がある」って思ってる人たちばっかりじゃないこともわかってるし、こうやって青春にテーマを当てることも、どちらかと言えば今の時代に聴かれている音楽とは違う方向かもしれないんですけど。ただ純粋に、自分たちの根っこにあって、かっこいいと思うものを――僕たちはこれが好きだし、これに憧れてバンドを始めたし、同じ想いを持ったメンバーが新たに来てくれて。その5人で作ったら、すべてをアップデートした僕らなりの音楽が作れたぞっていう。BIGMAMAはこういう音楽からまた始めていくっていう、大きなものが示せたんじゃないかなって思いますね。
安井英人(B) 本当に久しぶりのアルバムだったんで……純粋に楽しかったですね(笑)。アルバムの曲順を考えたり、曲の繋がり方を考えたり、「ちょっとハミ出た音、どっちのトラックに入れる?」とか(笑)、そういうのが本当に楽しくて。
――曲の繋がり方も前のめり感ありますよね。
柿沼 最初はもっと前のめりだったよね?(笑)
安井 「さすがに……」って直した部分もありました。青春なんで(笑)。
東出真緒(Violin・Key・Cho) いろんなドラマがあったんですけど……私たちも強くなったなあと思いました。Bisたんがもう、昔からいてくれたぐらいのメンバーでもあるので。なんて言うか、いい人生だなと(笑)。“17 (until the day I die)”っていう曲ができて――私が東京に出てきて17年目とかになるので。すごい人生だなって思いながら、このアルバムを本当にピュアに、ど直球のエモ、青春として作れたし。この5人でよかったっていうか、ずっとバンドを続けてきてよかったとか、そういういろんな達成感だったり、感謝だったり……いろいろ経たからこそ、そういうふうに思えるのは財産だなと思います。
Bucket Banquet Bis(Dr) 僕が加入してから、EPっていう形ではリリースはあったんですけど、フルアルバムは今回が初めてで。スケジュールの都合もあって、2〜3曲ずつをひと月ごとに分けて、3曲できたら「次の3曲どうしようか」っていうふうに時間を分けられたことによって、そのたびに「エモってなんだろう?」とか「青春ってなんだろう?」って考えたりして。「じゃあ、次の3曲ってどんなワクワクの形かな?」って練る時間があったことが、今までのものとはまったく違って。それが新鮮だったし、楽しくて。終わってみて振り返っても、本当にいいものができたな、っていう手応えを感じている次第です。
全曲再現ツアーで、初期の曲をBisと合わせてたときに、それだけで違う曲みたいだったんですよ。また違う追い風が吹いてるなって(柿沼)
――今年の春には「BIGMAMA COMPLETE」という、「過去の持ち曲149曲をツアーの中で全部演奏する」という、傍目にも無茶なツアーをやってましたけども――。一同 (笑)。
――それもBisさんが言い出したことらしいですね。「全曲覚えるからには……」という。
Bis でも、僕が入ったあとに全曲できることは当然だと、僕自身は思っているので。「じゃあライブで、しかもこの5人で行けてない地方に行って、過去の曲たちも自分たちのルーツとして、この5人の音で届けるっていうことができたらいいよね?」っていう話をしたことがあって。僕がその言い出しっぺ……だったのかな?
金井 (笑)。「僕が入ったからには、すべての曲を演奏できるようになります」って、彼がそう言ってくれたんですね。でも、それを「しめしめ」と思った周りのメンバーが「じゃあ、それをひとつのツアーの中でコンプリートするようなツアーをやろう」と言い出すとは思ってなかったと思うんですよ(笑)。
Bis ……思ってなかったです(笑)。
金井 でも、ライブが止まったことも一度もなく、149曲を自分たちは1ツアーで、意外といけたんですよと(笑)。それぞれのミュージシャンとしての実力の問題であったり、心持ちの問題であったり、他のバンドであればたぶんなかなかやれてない、やらないことをやり遂げて。そのあとでこのアルバムの制作と向き合うっていう……全曲演奏し終わったあとに、改めて「新曲作ろうぜ」って、名だたるアーティストの中で誰もやったことないと思うんですよ。
東出 おすすめはしないですよ(笑)。でも、誰も「嫌だよ」とは言わなかったですね。
安井 「本当にやるの?」とは思った(笑)。
金井 でも、ひとつのバンドのモデルケースとして、そういうことをやったあとで次にできるアルバムって、絶対に超いいと思うよ、っていうことは言い切れるんじゃないかなって思います。
――新ドラマーが全曲やるって言ったら、普通は「個人練の範疇じゃん?」と思いますけどね。
金井 そこはたぶん、YouTuber的発想が持ち込まれた瞬間だと思いますよ。やっぱり企画力というか、人を楽しませるために、っていう。今年の春先はツアー全体がそれだったんですよね。その数ヶ月間、我々が丸ごとエンターテインメントだったんで(笑)。体張ってる感じはありましたね。
柿沼 あのツアーをやる前から、初期の曲を彼(Bis)と合わせてたときに、それだけで違う曲みたいだったんですよ。また違う追い風が吹いてるなっていう。それが自分的にはすごく新鮮で。昔の曲を今の5人でやってみると、「あれ? なんでこれ、そんなにライブでやってなかったんだっけ」っていうぐらいにいい曲もいっぱいあって。長くバンドをやってると、そういうことに気づけるのがすごく大事だなって思ったんで、やってよかったんですけど……でも、おすすめはしません(笑)。