ぼーっとしてるように見えても、頭の中はキュルキュル動いてることが日常生活では多くて。そうした連想ゲームから、人間のあり方だったりを歌詞にしたくなるんですよね
──ポップスは歌詞の行間や隙間からも伝わるものがあると思うんですが、それに意識的なのが最新曲“ピアス”かなと思いました。「そうですね。ちょっとわかりやすくというか、受け取りやすくする難しさというか、それをすごく楽しみつつ、制作していきました」
──《そばにいて欲しい》というシンプルな切実さを、1曲の中でどう表現していくかっていう。情景のその奥の繊細な感情をすごくよく表現している曲だなと。特に《ピアスを外した穴から 吹き出した日々の憂鬱を 埋めてはくれないだろうか》っていう歌詞はすごい。感覚的に訴えかけるものがある。
「ありがとうございます」
──こういう歌詞は、どういうふうに思い浮かぶものですか?
「それこそ友達と遊んでる時とかに、ふとピアスを目にしたとして、ピアスに関する連想ゲームが勝手に頭の中で繰り広げられちゃうんですよ(笑)。ぼーっとしてるように見えても、実は頭の中はキュルキュル動いていてっていうことが日常生活では多くて。その連想ゲームから、たとえばいろんな人の悩みだったり、人間のあり方だったり、そこに通ずるものを歌詞にしたくなるんですよね。で、今回の連想ゲームでいえば、同じピアスをつけっ放しにしてたら膿んじゃったりしますよね。だからつけ替えるために一度はずさなきゃいけないんだけど、はずしたらちょっと膿や血が吹き出してしまう。それで少し落ち着いてから新しいピアスをつけたりする。そういうのってすっごく恋愛に近いなって思って」
──聴いていて共感するというよりも、言葉にするのが難しい繊細な感情を情景として映し出してくれているという感じがするんですよね。
「人間のほんとの強さややさしさって、傷ついた過去だったり、失った過去があって初めて生まれるものだと思うんですよ。それを“ピアス”の歌詞の中では『今空いてる穴を、できればあなたで埋めたい。そしたらこの穴もきれいに見えるから』っていうふうに表現したくて」
──複雑な感情がにじみ出てくるようなクボタさんの歌唱も、いつもとまた違う肌触りでした。
「もちろん曲に合わせた声の感じは意識しつつ、今回サウンドプロデュースがYaffleさんで、レコーディングも一緒にやっていただいて。ディレクションというか『こういう歌い方がいいんじゃない?』みたいなことをお互い話し合いつつやっていったんです。なので、ちょっと新しい歌い方になっていると思います。トラックがシャッフルしてるので、それにどう乗せるかっていうことは考えましたね」
──洗練されたサウンドとクボタさんの生っぽい歌声が非常によくマッチしています。
「最初に僕がアコギで作っている時は、主人公の女の子はもっとこう『うわーー!』っていう感じの子だったと思うんですよ。もっと棘を全面に出しているような。でもYaffleさんのアレンジが加わって、少しまろやかでメロウな雰囲気になった。それによって逆に、この人の傷が目立つようになったというか。ふだんニコニコしていても、家に帰ったらふっと見せる表情があって、そういうのに人は色気を感じるじゃないですか。それに近いことが楽曲で起きているのかなって思いました」
僕からヒップホップを感じたり、R&Bを感じたりしたなら、さらにそれを深掘りしていってほしいし、その入り口みたいな存在になりたい
──メロディと歌詞とサウンドとがひとつになって、情景や感情を描写している。ポップスとしてすごく完成度の高い楽曲だと思います。「ありがとうございます。個人的には1行目の《身体に傷や穴を空けるのは 心に傷や穴があるから》っていう歌詞が好きで、そのあと《溜息を色付けるハイライト》っていう歌詞があるんですけど、これは、タバコを歌詞に登場させたいなと思って。タバコって、お酒と違って始める理由が確実にあるじゃないですか。お酒は20歳になったらみんななんとなく飲んだりするけど、タバコはどうしても、『元カレが吸ってました』とか、『好きなアーティストがこの銘柄を吸ってるから』とか、何かしら理由があるんですよね。だから、この曲の歌詞の《ハイライト》ってタバコの銘柄でもあるけど、いちばん明るい光のことでもあって。『あの時よかったな』っていうのを、その銘柄で伝えられたらと思って。1行目ですぐ『後悔』の歌詞なんだなっていうことを、すごく表現したかったんです。でも最後には後悔だけじゃなく、未来を向いて『これからもそばにいて欲しい』って、自分から一歩踏み出せた、女性の成長物語でもありつつ、っていう」
──歌詞が立体的に編まれていますね。そうか、《ハイライト》という歌詞にはタバコの銘柄という意味もあったんですね。
「はい。ダブルミーニングです(笑)」
──今後のクボタカイについてもお訊きしたいんですが、この先はどんなふうに音楽活動を続けていきたいと考えていますか?
「自分がかっこいいと思うもの、自分の中でこういう歌詞を書きたいと思うもの、そういう自分のコアな部分はブラさずに、そのうえで、これから初めてクボタカイの音楽を聴いてくださる方も増えてほしいので、アレンジだったり、いろんなアプローチを考えつつ、ゆくゆくはいろんなジャンルの入り口的な存在になれたら嬉しいですね。僕からヒップホップを感じたり、R&Bを感じたりしたなら、さらにそれを深掘りしていってほしいし、その入り口みたいな存在になりたいです」
──最初に触れる曲によって、クボタカイというアーティストに持つ印象ってすごく変わると思うので、“ピアス”で初めてクボタカイを知るという人にも、これまでの様々な楽曲を聴いてみてほしいと思います。
「そうなんです。いろんな人に聴いてほしいっていうのはずっと思っていて。それを意識して曲を作っているので。いろんな人に1曲でも『自分の曲』にしてほしいなって思います」