1992年にリリースされたPJハーヴェイのデビュー・アルバム『ドライ』は、当時における女性ロック・シンガーのオルタナティブを提示した作品だった。彼女の出身はイギリスだが、そのスタイルはアメリカのグランジやライオット・ガールと同じ時代の空気の中で精製されたハードコアなものだった。と同時に、『ドライ』で披露されるその一挙手一投足は、現在も彼女の音楽を規定するエッセンスであり続けている。それこそビッグ・バンドと化した『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』始め近作においても顔を覗かせる、その重く凄みを含んだブルース・ロックの咆哮は原型を留めたまま。初々しさとか生硬さといった類とは別物。いうなれば、彼女は生まれながらにしてPJハーヴェイだったことが『ドライ』を聴けば改めてよくわかる。
カート・コバーンも「生涯のお気に入りアルバム」と語った『ドライ』。この度の再発では、当時のプロデューサーであるヘッド(トム・ヨーク、マッシヴ・アタックetc.)によって新たにリマスター処理が施されている。“シーラ・ナ・ギグ(※女性器を大胆に表した裸体の彫刻)”の物騒なノイズ・ギター、バンド・メンバーのロブ・エリスと共作された“プランツ・アンド・ラグス”の狂おしい弦楽器の調べに改めて身震いを覚える。
そして機会があれば、併せて初リリースされる本作のデモ集『DRY-Demos』にも耳を傾けていただきたい。そこでは、『ドライ』のさらに奥底に流れる彼女のルーツ、フォーク・シンガーとしての姿を確認することができる。この15年後に彼女がその原風景と向き合うことになる7作目『ホワイト・チョーク』、あるいは昨今の女性シンガー・ソングライターたちの作品と聴き比べてみるのも一興かもしれない。
(天井潤之介)
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