軽やかに続くテクノとアートの旅

アンダーワールド『ドリフト・シリーズ₁:サンプラー・エディション』
発売中
ALBUM
アンダーワールド ドリフト・シリーズ₁:サンプラー・エディション

ダンス・カルチャーと独自のアート観をミックスすることで重要アクトとなった『ダブノーベースウィズマイヘッドマン』(94年)から四半世紀が経ち、すっかりベテランのビッグ・アクトであるアンダーワールドが現在どこにいるのか宣言する作品である。イギー・ポップとのコラボレーションも記憶に新しいが、いまなお彼らは過去の成功に拘泥せず、自分たちの創造性の未知の領域を開拓しようとしている。その場所を、彼らは「漂流」と呼ぶ。

この「ドリフト」と名づけられたプロジェクトは、昨年から彼らが52週にわたって新曲をインターネット上に発表してきたものである。トラックだけでなくデザイン集団〈トマト〉のサイモン・テイラーが手がけた映像やカール・ハイドの手記などもリアルタイムでアップされ、それらはまるで気まぐれな(それにしては異様にクオリティの高い)日記のようだった。アンダーワールドらしいマルチメディア・アートとしての実験であり、彼ら自身どこがゴールか定めないまま溢れるクリエイティビティの海で「漂流」し続けた。その総決算としてリリースされるのが本作で、まず『〜サンプラー・エディション』では厳選されたトラックをミックスしつつ収録。国内盤は音楽性の幅を広げた2枚目をつけたものもあり、また、ボックス・セットは「ドリフト」シリーズのすべての楽曲に加えて、映像作品を収めたブルーレイも同梱される。

こと『〜サンプラー・エディション』に関して言えば、オープニングの“アップルシャイン”をはじめとしてアンダーワールドの得意とする、よくデザインされたテクノ・トラックが中心となっている。『ダブノーベース〜』期を彷彿とさせるダークなトーンもあり、彼らの足取りを総括するような大胆さも感じられる。90年代前半のアシッド・テクノを思わせる“ディス・マスト・ビー・ドラム・ストリート”や“リッスン・トゥ・ゼア・ノー”などは長年のファンならニヤリとするはず。いっぽう、気鋭のテクノ・ミュージシャンであるØ(フェイズ)をフィーチャーした“ボーダー・カントリー”などでは『ボクー・フィッシュ』(99年)辺りのアグレッシブさを思い出しもする。美しい電子音とカールの歌が戯れるラストの“カスタード・スピードトーク”まで、彼らの美点が磨かれている。

ほかのディスクではテクノを大きく外れたトラックなどサウンドが拡張されているが、それでも全体で「シリーズ1」なので、「漂流」は続くのだろう。現在のアンダーワールドが創造の自由を謳歌していることが伸びやかに伝わってくる。 (木津毅)



詳細はBEATINKの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

アンダーワールド ドリフト・シリーズ₁:サンプラー・エディション - 『rockin'on』2019年11月号『rockin'on』2019年11月号
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