自分が自分の曲で救われた瞬間に満足するんだろうなって思っているんです。
そこがひとつのゴールかもしれないし、満足する基準かもしれないなって
昨年12月20日にリリースされたなとり初のアルバム『劇場』。もうとっくに聴いている人も多いだろうが、これ、ヤバいアルバムである。収録された13曲の中には、なとりが目指すポップスとしての理想形も、にもかかわらずそこに辿り着けないという葛藤も、彼と世界の乗り越えがたい距離も、だからこそそれを埋めたいという願望も――つまりなとりとは一体何者なのかという真実が詰まっている。
そしてそんなアルバムにこともあろうに『劇場』というタイトルをつけてしまう感覚もまた、なとりというアーティストの引き裂かれた本性を露わにしていると思う。さまざまなジャンルを横断したポップでアッパーなサウンドと、心の内側にある負の感情を吐き出すような歌詞。それ自体が矛盾を孕んだようなこの音楽は一体なんなんだと思っていたのだが、今回初めてインタビューして、パズルのピースがピタッと合った感じがした。なぜ彼がポップスを追い求め、にもかかわらず自身の闇を曝け出すような歌を歌い続けるのか。以下の彼の発言にその問いへの答えがある。
インタビュー=小川智宏 撮影=マスダレンゾ イラスト=オドリ
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年3月号より抜粋)
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