シンプル・プラン @ SHIBUYA-AX

この日のMCでピエール(Vo)が何度か言っていたが、今年はシンプル・プランのデビューから10年の節目の年になる。そしてこれまたピエールが何度か謝罪していたけれど、今回のシンプル・プランの来日ツアーはピエールの喉の不調でキャンセルとなった昨年のサマソニのリヴェンジ・マッチの意味合いを持つものでもあった。場内を見渡せば、「Summer Sonic ‘11」のフェスTシャツを着込んだファンを幾人も確認することができる。シンプル・プランにとって彼らの日本での人気を不動のものにしたサマソニは重要なイヴェントだし、そして何より、10年に亙って彼らを愛し続けてきた日本のファンはシンプル・プランにとってまさに「イッチバン!」のファンであることは間違いないだろう。

ステージ上のバンドがこんなにも沢山の「トーキョーアイシテマス!」「ニホンイッチバーン!」を叫ぶライヴも滅多にないと思うが、シンプル・プランの場合はそれが真実の叫びに違いないことは誰よりも日本のファンが理解しているはずだ。オープニングの“Shut Up”からフロアには両手を掲げてのウェイヴがおこり、コーラス部分は大合唱になる。ハイテンションな入りからメロウに転調する中盤、そして再びスピードを上げてコーナーをドリフトする終盤と、シンプル・プランらしい「起承転結パンク」の王道を行くオープニングに、この日のステージも「間違いない」ことを早くも確信する。

過去に何度かシンプル・プランの公演を観ているが、基本的にこの人達のライヴは毎回ほとんど変わらない。時々の最新アルバムの傾向性がライヴに反映されることもなく、アルバムはアルバム、ライヴはライヴという線引きによってライヴの価値、その楽しさを常に高値安定でキープさせる道を選んだバンドである。紋切型と言ってしまえばそれまでだけど、シンプル・プランのライヴを一度でも観たことがある人ならば、彼らが自分達のライヴのエンターテイメント性を死守するために並々ならぬ努力鍛錬を重ねていることを理解できるはずだ。

そんなシンプル・プランのライヴにおける「変わらなさ」は彼らのファン側のスタンスにも言えることで、彼らファンは新作の曲でも旧作の曲でも等しく盛り上がるし、ヒット曲だけ爆発的なモッシュで応えるとかいう曲毎の極端なリアクションの差もほとんどない。どの曲でもデイビッド(B&Vo)にスタンド・マイクを向けられればいつだってパーフェクトなコーラスをかませてしまうし、シンプル・プランのライヴを楽しむためにアルバムをきっちりがっちり聴き込んでくる。ほんと、こんなにもロイヤルなファンが着いているのだから彼らもバンド冥利に尽きるというものだろう。

「パーティの準備はできてるか?ジャンプする準備はできてるか?!」とピエールが叫んで始まったのは文字通り“Jump”、フロアは瞬く間に大ホッピング大会に。そして「次の曲は日本語でコールしてくれるか?」とお願いすれば“Addicted”では即座に「イッチ!ニッ!サン!シッ!」の掛け声が決まるし、“Thank You”のサビはもちろん「アリガトー!アリガトー!」になる。最初から最後までオーディエンス全面参加型のショウで、ステージ上の5人の全力のベクトルとフロアのファンの全力のベクトルがぴたりと合致した幸福をずっと感じ続けられるのが凄い。

8ビートの王道メロディック・パンクから16ビートの高速スカ、ファンキーなディスコ・ロックに、ファンが一斉にスマホの液晶を光らせて揺らす鉄板バラッド・ソングまで、ファンはそれぞれの楽曲のモードに最も相応しいリアクションを完璧にバンドに届けていく。ここ日本で根強い人気を保ち続けているポップ・パンクというジャンル、それはもしかしたらポップ・パンクの「生真面目なエンターテイメント魂」と日本人の生真面目な国民性の相性の良さ故なのかもしれない――そんなことを考えさせられる光景が続く。

もちろん生真面目にエンターテイメントするだけじゃなく、くだらない下ネタを含む冗談もシンプル・プランのライヴには欠かせないアトラクションだ。この日もピエールは「キミカウァイーネ!」を何度も連呼し、“マル・マル・モリ・モリ”をカヴァーし、尻をパンパン叩きながら「日本の女の子とデートしたい!」と叫ぶ。彼らのジョークは来日するたびに日本の時事流行ネタをきっちりアップデートしているのがこれまた律儀だなぁ、と思う。

ピエールとデイビッドのツイン・ヴォーカルが冴え渡る“Jet Lag”はシンプル・プランの切ない系の最高峰ソングで、ライヴはエモーショナルな山場を迎える。この“Jet Lag”にひっかけてピエールが話し始めるのだが、これがまた感動的なMCだった。要約するとこんな感じ。→「おれはいつも時差ぼけ(ジェットラグ)に悩まされるんだけど、今回は平気だったんだよね。なぜなら、日本だったからさ。君たちが待っててくれたからだよ。俺達は10年前にバンドを始めた。それで、すぐに日本と恋に落ちたのさ。日本は俺たちにとっていつだってイチバンの国だった。君達はいつだってイチバンのファンだよ。本当にいつもありがとう。そしてサマソニに来れなくて本当に悪かった。もう二度とあんなことはしない、って誓うから許して欲しい。キミカウァイーネ!」。最後のオチでどっと笑いがおきたところで投下されるのが反則の“This Song Save My Life”。ピエールの言葉と相まって最高に泣けるエンディングが演出されていく。アンコールは2回、ラストは“Perfect”でこれまた完璧な幕切れだ。

明日は名古屋、そして明後日はいよいよオーラス大阪公演!名阪のファンの皆さんは今晩からアップ開始してください!(粉川しの)
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