TOTO @ 日本武道館

TOTO @ 日本武道館 - pics by 森リョータpics by 森リョータ
TOTO @ 日本武道館
いや、もう、最高。19:10、荘厳なSEから場内暗転し、ステージを取り囲む幕が落ちると同時に“Child's Anthem”が武道館狭しと轟いた瞬間から、アンコールの“Hold The Line”の最後の1音の残響が消えるまで約2時間にわたって広大な空間を悠然と支配した、音の王宮とでも言うべきクオリティと輝度を誇るサウンドスケープ! すでに08年に解散しているものの、ベーシスト=マイク・ポーカロの闘病支援のために再結集して昨年からヨーロッパ各地でツアーを行ってきたTOTO。当初今年5月開催の予定から延期にはなったものの、金沢歌劇座/尼崎・アルカイックホール×2/名古屋市公会堂/日本武道館/パシフィコ横浜という6本の公演をほぼそのまま4ヵ月遅れですべて実現する形で行われている今回のジャパン・ツアーのラス前、2階席の上のほうまでこぼれそうなくらいの観客で埋まった日本武道館は、ベテラン・ファン中心のオーディエンスの目も眩むような濃度の歓喜と熱狂で満ちあふれていた。

今回の来日メンバーは、ジョセフ・ウィリアムズ(Vo)/スティーヴ・ルカサー(Vo・G)/デヴィッド・ペイチ(Vo・Key)/スティーヴ・ポーカロ(Key)/サイモン・フィリップス(Dr)、そしてサポート・プレイヤーとしてクラプトンなどでもお馴染みの辣腕ベーシスト:ネイザン・イースト(!)が参加した、まさに鉄壁の布陣。特にTOTOサウンドの重要な一角を占めるシンセの魔術師=スティーヴ・ポーカロに至っては実に25年ぶりの来日! 個人的には、最後に観たのがデヴィッド・ペイチ不参加の前々回来日時(06年)で、しかも前回=解散直前のフェアウェル・ツアーにしてボズ・スキャッグスとのWネーム来日ツアー(08年)を不覚にも観損ねていたため、今回のラインナップを見て必要以上にテンション高めで臨んでしまったのだが、この日の6人(+コーラス2名)の音はそんなこちら側の期待値を軽々と越えていくものだった。そして、“Till The End”“Pamela”“Lea”などジョセフ・ウィリアムズが在籍していた『ファーレンハイト』『ザ・セブンス・ワン〜第7の剣〜』期の曲を軸に据えながらもオールタイム・ベスト色濃厚な選曲がまたいい。招聘元=UDOの公式サイトに載っている初日・金沢の内容とセットリスト的にはまったく同じだが、この日の曲順は以下の通り。

01.Child's Anthem
02.Till The End
03.Afraid Of Love
04.Lovers In The Night
05.Somewhere Tonight
06.Pamela
07.Lea
08.Gift Of Faith
09.Keyboard Extravaganza
10.Africa
11.Human Nature
12.Rosanna
13.Georgy Porgy
14.Stop Loving You
15.Home Of The Brave
[Encore]
16.Hold The Line

TOTO @ 日本武道館
「ハロー、トキオ! ファンタスティック!」「武道館でプレイするのは最高だ」と高揚感を表情とプレイに滲ませまくっていたスティーヴ・ルカサー。「ジェフ(ジェフ・ポーカロ/92年に死去)とマイク(・ポーカロ)という2人の兄のことは確かにあるけど、僕にはデヴィッド・ペイチやスティーヴ・ルカサーという友人がいる。とても幸せです」と語って静かな感動を沸き起こしたスティーヴ・ポーカロ。ストライプ柄のジャケット&膝丈パンツをまとったふくよかな体躯が、アンコールで客席から投げ込まれたチョッパーのハットをかぶった瞬間「世界で最もかわいいおっさん」に豹変していたデヴィッド・ペイチ。コーラス隊とともに朗々たるハイトーン・ヴォーカルで武道館を震わせていたジョセフ・ウィリアムズ。06年の時の「曲に合わせてツーバスがびかびか光る」的な演出は一切なしで、その流れるようなドラミングでTOTOサウンドの屋台骨を支えていたサイモン・フィリップス。そして何より、ルークことスティーヴ・ルカサーの超絶ギター・ソロ・プレイや、ペイチ&ポーカロのWキーボードだけで無限の宇宙を描き出し得る圧巻のプレイアビリティを総動員し、AORもジャズもフュージョンもファンクもロックンロールもプログレも踏み越えるスケールを持った重厚&華麗なサウンドの1つ1つが、♪パメラーーー!の大合唱や“Stop Loving You”のシンガロングを生み、場内を汗ばむくらいの熱気で包んでいくのである。

それこそスティーヴ・ルカサーにしてもデヴィッド・ペイチにしても、後からバンドに加わったサイモン・フィリップスにしても(そしてバンドを離れてかなり経つスティーヴ・ポーカロにしても)、各人の卓越した技量だけで1つリーダー・バンドを作ってもおかしくないし、そこで自らの音楽的ヴィジョンとエゴの赴くままに活動を展開するという生き方もあったかもしれない。が、スタジオワークやサポート・セッションなどプロフェッショナルなプレイヤーとして幅広く活躍している彼らは、そのプロフェッショナルな才能と超絶テクニックをMAXに捧げる場として「TOTOという共同体」を選んできた。「TOTOという生き方」を選んできた、と言ってもいい。だから、たとえばルークがソロを披露している場面でも、マイケル・ジャクソンのナンバー“Human Nature”で作曲者=スティーヴ・ポーカロが前面にフィーチャーされても、それらはメンバー個人のアーティスト・エゴではなく、最終的にはTOTOという名の音楽理想郷の一部となっていく。逆に言えば、この鉄壁のメンバーでなければ描き出せない理想郷を築くために、手練のプレイヤーたちがしのぎを削り己を捧げてきた……という34年間の歴史が、その強烈なヴァイブに満ちた音からも伝わってきて、思わず胸が熱くなった。

TOTO @ 日本武道館
TOTO @ 日本武道館
“Rosanna”“Georgy Porgy”“Stop Loving You”と高揚の階段を1段また1段と昇った果てで見せた、本編最後“Home Of The Brave”の波動砲ばりのコーラスのエネルギー! そして、アンコールの“Hold The Line”で女性コーラスとミュージカルばりの掛け合いを披露しながらハイトーンのハモりへと昇り詰めたジョセフの絶唱! 終演後、並んで歓声に応える6人+2人の満足気な表情を残して、TOTO最後の日本武道館でのステージは終了――のはずなのだが。去り際にスティーヴ・ルカサーは確かに「シー・ユー・ネクスト・タイム!」と言っていたし、デヴィッド・ペイチは「マタネ!」と言っていた。果たして29日の日本最終日=パシフィコ横浜のことを指しているのか、あるいは……?という期待感まじりのざわめきは、客電がついても消えるどころか増す一方だった。思えば3年前来日の最後=国際フォーラム2デイズだって「これが正真正銘最後のTOTO!」と謳っていたのを考えると、またいつかこの無敵の音楽艦隊は意気揚々と日本にやってくるかもしれない。そして、僕ははっきりとそうあってほしいと願っているし、この日の武道館を観た今ではその気持ちはさらに強くなっている。ちなみに最終日=パシフィコ横浜は若干当日券も出るようなので、詳細はUDOホームページをご参照のこと。一度でもTOTOに心奪われた人なら、観ないともったいない。(高橋智樹)
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