【インタビュー】カナダのオルタナポップバンド:ヴァリー、3人体制で新章へ――これまでの歩みと新作『Water the Flowers, Pray for a Garden』を語る

【インタビュー】カナダのオルタナポップバンド:ヴァリー、3人体制で新章へ――これまでの歩みと新作『Water the Flowers, Pray for a Garden』を語る

カナダのバンド、ヴァリーがジャパンツアーで2度目の来日を果たした。ライブでは、爽やかでノスタルジックでありながらも、ポップロックや歪んだロックサウンドまでを自在に行き来する、ダイナミックなステージを展開。その多彩さこそが彼らの真骨頂で、観客を惹き込んでいた。

ヴァリーは、結成から7年を経て2021年にリリースされた “Like 1999”が大ヒット。日本や韓国などアジアでも一気に注目を集め、順調にファンベースを拡大してきた。しかし2024年3月、初期から活動していたマイケル・ブランドリーノ(G)が脱退を発表。バンドは大きな転機を迎える。

同年8月にリリースされた新作『Water the Flowers, Pray for a Garden』は、メンバー脱退の喪失感を乗り越えるなかでバンドを再定義する、癒やしと再生をテーマにしたパーソナルな1枚だ。ここ数年のシンセやエレクトロ要素は控えめで、オーガニックな質感を基盤とした原点回帰ともいえるサウンドに仕上がっている。東京公演の直前、新体制で歩み始めたロブ・ラスカ(Vo)、カラ・ジェームズ(Dr)、アレックス・ディマウロ(B)の3人に話を聞くことができた。

(インタビュアー:石原有紗 rockin'on 8月号掲載) 



【インタビュー】カナダのオルタナポップバンド:ヴァリー、3人体制で新章へ――これまでの歩みと新作『Water the Flowers, Pray for a Garden』を語る

――2年ぶりとなる日本の印象はいかがですか?

ロブ「今回は今まで行ったことがなかった街を回ることができたから、それが良かった。大阪と名古屋にも行ったんだけど、満喫したよ。日本はどこも賑やかで、鮮やかで、なんだか夢の世界みたいだな、って思う。そういうのが、僕たちの地元とは真逆で、クールだなって感じたよ」

――現在はアジアツアー中ですね。ツアーやライブパフォーマンスのどんなところが好きですか?

カラ「ライブによって、雰囲気がすごく違うのがすごくいいなって思う。去年の夏は、カナダのフェスでポスト・マローンのオープニングアクトをやったんだけど、当然だけど、すごいお客さんの数で。たぶん10万人近い人が集まってたんじゃないかな。そういうステージに立てるのはすごい体験だった。でも、小さい会場でやるライブだと、お客さんとの距離が近くて、一人一人の顔が見えるし、したたり落ちる汗まで見えるくらいで(笑)。それとアジアでライブをするといつも思うのは、みんな本当に音楽に集中して聴いてくれるってこと。本当に楽しみにしていたんだな、歌詞の一言一句を聞き漏らさずに、何もかも染み込ませようとしているな、っていう気持ちを感じる。私たちは直接の知り合いではないけれど、会場に集まって、音楽がつながるきっかけになっていて、それってとっても素敵なことだと思う」

――初インタビューなのでバンドの結成について教えてください。もともとは別のバンドで活動されていたそうですね。それがとある面白いきっかけで合流したとか?

ロブ「そう。あるスタジオで、ダブルブッキングされちゃったんだ。僕とアレックス、カラとミッキー(マイケル・ブランドリーノ)はそれぞれ別のバンドにいたんだけど、そのスタジオで働いている共通の友だちがいて。その人がうっかり2つのバンドをダブルブッキングしちゃったっていう。ある意味、これはヴァリーが生まれる運命だったのかな」

――出会ってからどのような経緯で、ヴァリーとしてバンド活動を始めることになったんでしょうか?

アレックス「今ロブが言った出会いが2013年の12月で、翌年の秋にはヴァリーとしてライブをやっていたね。音合わせをしていて半年も経たないうちに『これだ』っていう手応えを感じた。その前からそんな予感はしてたけど、一緒に時間を過ごして、曲を書いたりして、とにかくあの夏はずっと一緒で、みんなでお気に入りの曲を聴いたりして、お互いのことをよく知ることができた。『これが自分のやりたいことだ』って気づいたのは、そのタイミングだったと思うね」

――2021年に日本を含め世界中で“Like 1999”が大ヒットしたのはバンドとして大きな出来事だったかと思います。今当時を振り返るとどのように感じますか?

ロブ「本当にうれしかったよ。自分が作ったものが、あれだけたくさんの人に届いたわけだから。特に、一度も足を運んだことがない場所とか、どんなところかも全然知らない場所で受け入れられていると知ればなおさら達成感があった。僕たちの音楽を聴いてくれる人がこんなにいるんだとわかって、励みになったね。あの曲が僕たちとファンを結びつけて、より大きな“ヴァリー・ユニバース”を築き上げるためのピースになってくれたわけだから、それは本当に最高だった」


――昨年リリースした新作『Water the Flowers, Pray for a Garden』はテネシーの山小屋で作られたと聞きました。

ロブ「それまでにいろいろあったから、隔離された環境が必要だったんだ。音楽を作るタイミングや場所について、意識的になるよう心がけてきた。だからあの時はドアを閉めて、音楽以外のことはすべて脇に追いやって、意味のある楽曲を12曲、作ることに集中するのが大切だった。そこは譲れないところだったんだ」

――山小屋で制作を始めた時には、書きたいテーマや、どうやってそれを形にするかは見えていたんですか?

カラ「着くまでは、全然見えてなかった。でも山小屋に到着したとたん、テーマが降りてきたんだよね。ミッキーの脱退を経たバンドについて書くべきだ、って」

――アルバム全体の方向性を決定づけた楽曲や、特別な瞬間はありましたか?

ロブ「“Water the Flowers, Pray for a Garden”だね。実は“Like 1999”ができた次の日に作り始めた曲で、ある意味、僕たちの未来を予言していたのかもしれない。あの曲が方程式みたいに、僕たちの行く先を指し示していたっていう。


それにこの曲は50くらい、いろんなバージョンを作ったから苦労したんだ。最初はアップテンポの、エレクトロ色が濃い、バンド風の曲だった。で、そこから『これだ』っていうものにたどり着くまで5、6回はやり直したと思う。だから、書いたのは一番先だったけど、完成したのは最後だったんだ」


――“Like 1999”をリリースした当時と比べて、今のヴァリーはどんな変化を遂げたと感じますか?

アレックス「一人一人が成長したし、その結果としてバンドとしても成長できた。この3人が一つにまとまって、しっかりした核がある。僕たちはみんな、大人になって、真価を発揮できるようになった。しかも、今はさらにそこから先に進んでいるよね」

ロブ「僕もそう思う。これから進みたい方向に矢印の先を向けるにはどうしたらいいのか、わかったんだ。自分本来の姿により自信が持てるようになった。周りの人が考えるイメージに合わせようとするんじゃなくてね。『僕たちはこれが好きだ。こういう作品を作るんだ』ってきちんと主張するのは簡単じゃないよ。でも『この曲の、こういう雰囲気が好きだ』と思えば、その形で出すって決めたんだ。今は自分たちの感じたままに曲を作れていて、自由度が高まったと感じている。『前にこれで成功したから』という理由だけで同じ道をたどることはないね。成功は狙って再現できるものじゃない。あくまで結果だから」

――ツアーで新作の曲を披露していますが、パフォーマンスしてから新たに発見したことはありますか?

アレックス「曲を書いて、プロデュースして、レコーディングして、ってやっている間には、決してわからないのは、できた曲を聴いたみんなが、どう反応してくれるか、っていうこと。“Crawlspace”とかはライブで大音量で演奏したら楽しいだろうな、っていうのは作った時からわかっていた。


すごくパワフルで楽しいし、みんなが一体感を感じられる曲になってる。ここだ、っていうところに来るとみんな盛り上がるし、Feurd(ツアーメンバー)のクールなギターパートになるとじっと注目してくれる。実はあのパート、最初はピアノで書いていたんだけどね。やっぱり、観客がいてくれることで、曲が進化していくのを見るのがすごくいい気分だね」

カラ「曲を書く時は、『ツアーに出て、オーディエンスの前で演奏したらどんなサウンドになるだろう?』っていうレンズを通じて見てみるようにしている。それは、私たちがずっとライブバンドだからで、それはずっと変わらない。最初のころの曲は、私の家の地下室で、楽器を持ち寄って作っていた。そうやって曲を作ってライブで演奏するたびに、少しずつスタジオ版とは違う、ライブ版のアレンジに変えてきたんだ。ツアーで繰り返し演奏しているうちに磨かれて、すごく良くなる。ライブで演奏することの意味って、そうやって変わり続けるところにあると思う」

――最後の質問です。ツアー後の予定や、挑戦してみたいことがあれば教えてください。

ロブ「秋まではほぼツアーの予定でいっぱいなんだよね」

カラ「いろんなバンドとツアーをする予定で、あと単独公演とフェスにもいくつか出る。AJRとは全米の野外ステージを回るし、あとは仲のいいバンドのThe Beachesのカナダ全土のアリーナツアーに参加する」

アレックス「あとはちょうど、新曲を作り始めたところなんだ。これからもできるだけたくさんリリースしていきたいね。それが目標だな」

カラ「プロデューサーに飛行機で乗り込んできてもらえれば、今作っている曲も完成させられるんだけどな(笑)。でもツアーが続けられてすごくうれしい。とにかく楽しいから」



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