【特集】10年間の足跡と、未来への願いを込めて──メジャーデビューも発表した「おいしくるメロンパン antique tour – 貝殻の上を歩いて – 」ツアーファイナル@日比谷公園大音楽堂レポート!

【特集】10年間の足跡と、未来への願いを込めて──メジャーデビューも発表した「おいしくるメロンパン antique tour – 貝殻の上を歩いて – 」ツアーファイナル@日比谷公園大音楽堂レポート! - photo by タカギユウスケ,郡元菜摘photo by タカギユウスケ,郡元菜摘

2025年6月29日、日比谷野外大音楽堂にて開催された、おいしくるメロンパンの9枚目のミニアルバム『antique』リリースツアーファイナル。この日のアンコール、ライブ数日前にリリースされたばかりの新曲“未完成に瞬いて”を演奏した後のMCで、ナカシマ(Vo・G)はバンドがメジャーデビューすることを発表した。彼の発表を聞いた観客たちから沸き上がった大きな拍手と歓声は、おいしくるメロンパンが結成から約10年もの間、いかに深く愛されてきたバンドなのかを物語っていた。僕らは、おいしくるメロンパンの実直で頑固な生き様や、「美しいものを作る」という1点に向けて彼らが10年間守り続けてきた繊細なこだわりを知っていた。そして、それを守り続けるためにはときに闘いだって必要としたのかもしれない、ということも。だからこそ、彼らのメジャーデビューという決断が、なんとなく起こったことじゃない、「変わらないまま変わり続ける」というバンドの深い覚悟の上で選択されたことなのだと直感的にでも理解できたのだ。観客たちから沸き上がる祝福を受け止めるステージ上のナカシマ、峯岸翔雪(B)、原駿太郎(Dr)の3人も嬉しそうだった。

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    ナカシマ(Vo・G)

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そして、その後に演奏された未発表の新曲 “群青逃避行”も素晴らしかった。彼らがずっと抱いてきた激しい疾走感と、胸をしめつけるような切ない叙情性が更なる進化を遂げて共存しているような楽曲だ。歌詞はまだわからないので分析することはできないが、繰り返し歌われる「海へ行こう」というフレーズは、バンドの魂の普遍性を感じさせ、耳に飛び込んできた「大丈夫」というフレーズは、今のおいしくるメロンパンだからこその力強さや逞しさを感じさせた。そして、そんな“群青逃避行”から立て続けにこの日のラストとして演奏されたのは、最初期の代表曲である“色水”。おいしくるメロンパンがどこからやって来て、どこに向かって行こうとしているのか?──そのすべてを見せたライブの、見事なエンディングだった。

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    峯岸翔雪(Ba)

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    原駿太郎(Dr)

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いきなりライブの最後から書いてしまったが、波の音やピアノ、ストリングス、それにオルゴールの巻き鍵を回すような音などをコラージュしたような入場時のSE、そして、1曲目の“波打ち際のマーチ”から、バンドは1本のライブを通して、まるで物語を見せるように時間の流れを生み出していった。“波打ち際のマーチ”は穏やかかつメロディアスな楽曲で、その曲調だけで考えれば、本来、あまりライブのオープナーになるタイプの楽曲ではない。しかし、ミニアルバム『answer』に収録されたこの曲について、以前ナカシマは「今まで自分たちが歩んできた道のりと、お客さんとの関係について書きたいと思って書いた歌詞」と語っていた。「この曲を書いたことで、お客さんに対して『一緒に歩んでほしい』『連れていきたい』という気持ちが自分の中にあることに気づいた」と。おいしくるメロンパンの新たな出発を告げるこのライブは、この曲から始めなければならない必然性があったのだ。そこから演奏は“look at the sea”へ。この曲で歌われる≪醒めないでいてね≫というフレーズは、続く“千年鳥”で歌われる≪醒めないでいて≫というフレーズにも繋がっていく。同じ言葉が、まるで違った言葉のようにも響く、そんな歌のマジカルさを体感する。そして“千年鳥”から、「飛翔」のイメージを接続させつつ、その意味合いを反転させもするように“灰羽”へ。ジェットコースターのように目まぐるしく、イメージを繋げたり、翻したりしながら、おいしくるメロンパンは彼らにしかできない時間の流れを生み出していく。

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ステージ上には白い布のようなものが美しく垂れ下がって飾られており、柔らかく神秘的な雰囲気を醸し出していたが、屈強でワイルドな3人の演奏は、ステージセットの神秘性とはまるで対照的なリアルさで、そのバランス感覚もとてもよかった。“シュガーサーフ”で間奏のソロを2周もキメてみせた峯岸のベースプレイは、もはやベースという楽器をあらゆる役割から解き放ってしまうような自由さがあったし、原のドラミングの強さとしなやかの共存はいつ観ても奇跡的。そしてナカシマの、ときに獣の咆哮のようなダイレクトなギタープレイ、さらに「繊細さを守り抜く強さ」を感じさせる歌声の強さは、この日も変わらず研ぎ澄まされていた。MCでは原が、「貝殻の上を歩いて」という“海馬の尻尾に小栴檀”の歌詞から取られた今回のツアータイトルに触れながら、「ポォ~!」とホラ貝語で話始めるシュールで変な時間も相変わらずあったが、「純粋に音楽を楽しみながら、続けることができた。みんながいるから、できたことだと思います」と、ナカシマが真っすぐに10周年を迎えるバンドの歴史を振り返りながら、観客たちに感謝を伝える場面も印象的だった。

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    ナカシマ(Vo・G)

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本編のラストに披露された“水葬”“渦巻く夏のフェルマータ”、そして“旧世界より”へと続いた流れは、前述したアンコールとはまた違った意味で、このライブが描いた物語の、ひとつの終わりを飾るに相応しいものだった。かつてナカシマが、自らの理想の景色を描き切ったという手応えをいただいたという、『hameln』に収録された“水葬”。その“水葬”のイメージを引き継ぎながら、「続き」を描くように、夢から醒めて、現実を歩き出す人間の心象の変化を見事なアンサンブルとアレンジで具現化した“渦巻く夏のフェルマータ”。そして≪君≫に語り掛ける“渦巻く夏のフェルマータ”と対を成すように、≪あなた≫に語り掛ける“旧世界より”。この3曲を本編の最後に持ってきたことで、おいしくるメロンパンはひとつの季節の終わりと、新たな季節の始まりを演出してみせた。そして同時に、終わっても終わらないことがある、ということも。忘れることも、思い出すことも、恐れないでいられるように。僕らが生きてきたすべての時間が、この一瞬を生み出していることを、ずっと大切にできるように。そんな願いを込めて。この日、おいしくるメロンパンは新たな扉を開いた。(天野史彬)

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