マーズ・ヴォルタ @ スタジオ・コースト

ライブ・バンドとして予め破格であるバンドが、更なる高みをモノにしたとんでもないパフォーマンスだった。最新作『ゴリアテの混乱』(08)を引っさげてのジャパン・ツアーとなった今回、超満員のスタジオ・コーストで繰り広げられたそれは、新生マーズ・ヴォルタを決定づける記念すべき一夜であったと言えるだろう。

何といっても、昨年ジョン・セオドアと入れ替わるかたちで加入した新ドラマー=トーマス・プリジェンがとんでもないキーマンだったのである。15歳でバークリー音楽院のスカラシップを取ったという彼は、まあいわゆるひとつの天才なのだと思うけれども、超絶テクニックを持った凄腕ドラマーというカテゴライズではなく、最早「ドラムを叩くために存在するヒトとは別個の超生命体」とでも形容すべき特殊なドラマーであった。千手観音のような高速連打から超スロウな間合い命の変調子まで、緩急自在に叩き続けるその様は、間違いなく今夜の最大のハイライトだったと思う。

インタビューではオマーも「トーマスが最後のピースだった」と語っていたようだが、拡大と縮小を同時に行うような、抽象と具象を両方持ち合わせているようなマーズ・ヴォルタのユニークな音楽性は、その構築の基礎たるリズム隊が磐石であって初めて全貌が明らかになったということか。ステージ上のオマーはよっぽど嬉しかったのか、何度も何度もトーマスとアイコンタクトを取りながらニコニコと顔をほころばせている。

かつてのマーズ・ヴォルタのライブはバンドの中心にオマーという「頭脳」を据えた、非常に支持命令系統の明確なものであったと思う。その壮大なフリー・ジャムのような演奏と裏腹に、セドリックさえもオマーの系統下にいるような制御が感じられるライブであった。しかし今回のパフォーマンスは、それぞれのメンバーの中にそれぞれの確固たる小宇宙が存在し、それが全力でぶつかりあった結果としてたったひとつのビッグバン=マーズ・ヴォルタを形成しているんだということを、まざまざと実感させてくれるものだった。複雑極まりない手数と呼吸の中に、奇跡のユニティが宿っていた。

凡百のバンド達とはそもそも立っているステージが違うのに、一体彼らはどこまでいってしまうのか。(粉川しの)
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