19時を10分ほどすぎたころ、なんの前ぶれもなくメンバーが登場。喝采を浴びてダンがビブラフォンを叩き鳴らし、1曲目“GIGANTES”へ。フロントに対面してセットされた2台のドラムが繰り出す強烈なビートの奔流に、フロアからはたまらず「フォ――!」という興奮の雄叫びが上がる。ジョン・マッケンタイアの別プロジェクト・BUMPSから派生したという重厚かつ饒舌なリズム・セクションが不可抗力的に聴き手を揺さぶり、早くもラフォーレはトータスの術中に陥ってしまったようだ。続く“High Class Slim Came Floatin In”では、ジョンの操るサンプラーが脳ミソを素手で攪拌するように響き、ダンの強烈なドラミング、ジェフのブリブリのシンベとあいまってオーディエンスを麻薬的に魅了し、さらに続けて“Eros”!(この序盤の展開はヤバかった!) 例のごとく曲毎に忙しなく編成を変えながら、“I set my face to the hillside”、“Monica”と、着実に熱量と一体感を高めながらステージを進行させていくTORTOISE(事務的にポジションを入れ代わって、淡々と、しかし的確に職務を執行していくさまが何だか“デキる大人”って感じで、カッコよかったな~ぁ)。イントロのワン・フレーズが鳴らされるたびいちいち湧き上がる歓声に、いかに彼らが待望されていたかが伝わってくるようだった。
個々の熟達したプレイヤビリティに魅了されもしたのだけれど、特筆すべきはその“全体性”だろう。5つの高性能CPUが、それぞれ独立的にマルチ・タスキングを繰り返すようなパフォーマンスでありつつ――つまり誰かが中心となってコンダクトするわけではないのだが、難解な数式を思わせるアンサンブルの中でそれらは有機的にひとつのプログラミングとして起動し、場内に荘厳なサウンド・スケープを立ち上げてみせるのだ。そのあまりに性急でスリリングなステージ(例えば“Salt The Skies”でのプログレッシブなリフとドラムの応酬!)を時に僕らは身動きもできずに凝視し、あるいは驚くべき奔放さでもって響きわたるグルーヴィな演奏(例えば“Prepare Your Coffin”での自在に大空を駆けるような疾走感!)に、いきおい身体を揺らさずにはいられないのだった。
ほとんどMCもなく進行した本編とは異なって、アンコールでは「ビール、ウマい?」、「すげぇウマいよ。君も飲んだほうがいいよ(笑)」と客席とヘーンドンの掛け合いもあって、カジュアルな雰囲気も広がる。しかし、“Crest”ではジョンが高々と掲げた右手に駆られてフロアにいくつものコブシが突き上がるなど、一体感は右肩上がり。さらにダブル・アンコールで“Seneca”→“Glass Museum”と畳み掛けてラフォーレを沸き立つようなクライマックスへと導き、約1時間半の来日公演は幕を閉じた。あらゆるカテゴライズを無化する、ロック・バンド=トータスの本懐を見せつけられた実に濃密なステージだった。(奥村明裕)
<Set List>
01.GIGANTES
02.High Class Slim Came Floatin In
03.Eros
04.I set my face to the hillside
05.Monica
06.In sarah, Mencken, Christ, and Beethoven there were women and men
07.CHARTEROAK FOUNDATION
08.Dot/Eyes
09.Minors
10.Salt The Skies
11.The Suspension Bridge
12.Prepare Your Coffin
ENCORE.01
13.Benway
14.Crest
ENCORE.02
15.Glass Museum
16.Seneca