「究極のロック・ドラマー」に選ばれたアーティストはこちら。
ジョン・マッケンタイア(トータスなど)
トータスの頭脳にして心臓。名うてのミュージシャンが揃うグループ内でも、ジョン・マッケンタイアの存在はやはり特別なものがある。コンポーザー/プレイヤーの一員としてのみならず、ミキシング・エンジニアetc.としてサウンド全体を統括する立場を担う彼のリーダーシップを抜きにして、トータスのディスコグラフィを語ることはできない。そして、マッケンタイアが初めてドラムを叩いたのは、トータス以前に彼が在籍していたバンド、バストロの時代に遡る。
ドラム・マシーンと代替する形で加入したマッケンタイアは、ケンタッキー州ルイビルを拠点に80年代末のポスト・ハードコア・シーンの第一線で活動。グランジ前夜のアメリカのアンダーグラウンドの空気を吸収しつつ、その後、ジム・オルークもメンバーだったガスター・デル・ソルに参加し実験的な音作りの探求をへて、トータスへの合流に至る。3人組のリズム部隊だったプレ・トータスが、ジャズやクラウトロック、ダブ、エレクトロニカ、ミニマル・ミュージックを取り込み音楽性を広げていった過程には、そうしたキャリアの変遷に加えて、大学時代には音楽理論や録音技術も学んだマッケンタイアのバックボーンがあったことは間違いない。
2001年にリリースされたトータスの4作目『スタンダーズ』は、なかでもマッケンタイアのアグレッシブなドラミングを堪能できる1枚だろう。前作『TNT』において、プロツールスに象徴されるハードディスク・レコーディングを全面的に導入し、音楽制作におけるポスト・プロダクションの可能性をドラスティックに拡張してみせたトータス。対して、生演奏への欲求に貫かれた本作では、より直接的で一体感の漲るバンド・サウンドを聴くことができる。数々のビンテージ機器やアナログ機材を音作りに持ち込み、ギターのディストーションに象徴される音の歪みやノイジーなトーンが浮かび上がらせる陰影豊かなサウンドスケープ。その最中で、普段より前のめり気味にピッチやトーンを変えるマッケンタイアの荒々しいプレイが印象的だ。
いわく「パンク・アルバム」という『スタンダーズ』は、そんなドラマーとしてのマッケンタイアの出自を物語るようでスリリングで刺激的。その叩き出される一打一音には、この男が辿ってきた歩みそのものが宿っている。(天井潤之介)
ロッキング・オンが選ぶ「究極のロック・ギタリスト」特集掲載号は、現在好評発売中。ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。