「面白いね。横浜アリーナなんだよね、ここね? あんまり横浜アリーナって感じしないんですよ。なんか、みんなが近い感じがして……それがね、非常に嬉しいです。来てくれてありがとう!」と世間話のように和やかに語りかける星野 源の言葉に、横浜アリーナを埋め尽くした1万1千人のオーディエンスから惜しみない拍手が湧き上がっていく――2月:日本武道館での振替復活公演「STRANGER IN BUDOKAN」、3月:全国ホール・ツアー「復活アアアアア!」&ファイナル「復活アアアア了!」、7月〜:大人計画×劇団☆新感線「大人の新感線」の舞台『ラストフラワーズ』出演、さらにドラマ、コント、ラジオ、文筆業……とフルスロットルで(しかし見た目は至って飄々と)駆け抜けてきた星野 源。そんな1年の活動の総決算と言うべき、横浜アリーナでの2日間のワンマン・ライヴ=「星野 源 横浜アリーナ2Days 『ツービート』」の2日目。1日目「弾き語りDay」/2日目「バンドDay」という構成の2日間でトータル約2万2千人を動員した今回のワンマン・ライヴのうち、2日目=12月17日「バンドDay」。アンコール前の寺坂直毅の陰アナでも明かされていた通り、2年前にくも膜下出血で緊急手術を行った日からちょうど2年後にあたるというこの日のステージは、そんなヘヴィな自らの境遇をも全力で楽しみきって「その先」を意気揚々と目指す星野 源の姿そのものの晴れやかさと滋味に満ちていた。
星野 源(Vo・G)と野村卓史(Piano)/伊賀航(B)/伊藤大地(Dr)/長岡亮介(G)/石橋英子(Marimba・Key・etc.)という気心の知れたバンド・メンバー、さらに曲によってブラス・セクション(4人)/ストリングス・セクション(9人)が加わる最大19人編成のラインナップで、「バンドのみ」「バンド+ストリングス」「バンド+ブラス」「バンド+ブラス&ストリングス」とフォーメーションを変えながらのアクトを展開。ストリングスの“デイジーお味噌汁”が流麗に流れたところに、サンタ・コスプレのギャル2人に両側からエスコート(?)されたスーツ姿の星野 源が登場、フルアコのギターを抱えて“ギャグ”“化物”へと突入すると、満場の横浜アリーナは一気に高気圧真っ只中のような開放感に包まれていく……が。当の本人は、「ちょっと諸事情があって、このままスッと進めますけど」「俺の身体的サプライズだから。それは後で説明する」とMCもそこそこに、今度はブラス・セクションと一緒になって“穴を掘る”“もしも”、バンドのみで“ステップ”“Night Troop”を披露、ファンキー&ソウル・サイド・オブ・星野 源的なブロックを構成していく。
ここで「身体的サプライズ」を明かす星野。「出てきた瞬間に、めっちゃウンコがしたくなって……ここ横浜アリーナだけど、いい? トイレ行ってきていい?」とトイレ退場する姿にざわつきと笑いが巻き起こる会場以上に、「さあみなさん、いったい何cmでしょうね?(笑)……すげえな、どうすんだこれ?」(長岡) 「源くんがしたくなったら、みんなで連れションとかいうシステムにすればいいんじゃないかな?……こういうアリーナでMCするの、生まれて初めてです(笑)」(伊藤)と戸惑いを隠せないバンド・メンバーが、星野不在のセッションを繰り広げていく。だが、そんな星野の姿には、「一世一代の晴れ舞台での」「まさかのトイレ退場」という空気感は微塵もない。あたかも友人宅で「トイレ借りるね」ぐらいの自然さでトイレに向かい、戻ってきて何事もなかったようにギターを抱えてセッションに加わり「鬼のように出た!(笑)。ありがとう、ずっと聴いてたよ。いい演奏だった!」と快活にメンバーを労っている。「トイレぐらい開演前に行っとけばいいのに」とブーイングの嵐になっても不思議ではないこの場面がしかし、「この日にしかない名場面」になってしまう――そんな星野 源ならではの磁場が、このアクトに最高の開放感を与えていたのは間違いない。
人前に立って、ステージと客席の間に距離感と緊張感を介在させない、ということがどれだけ難しいか、ライヴに多数参加している人ならよくご存知だと思う。それを星野 源という人は、1万人超の会場のライヴであっさり実現してしまっている。「日常」のムードをライヴに持ち込むのと同時に、巨大な規模のアクトをも自身の「日常」として真っ向から引き受けている――ということなのだろう。スケール面でも音楽面でも明らかに「すごい」ライヴを実現しながら、決して自分を「すごく」見せようとしない、という姿勢は、前日の「弾き語りDay」で共演した奥田民生にも通じるものだ。トイレから帰ってきた後、「ここからすごいしっとりする、っていうのが本当に申し訳ない!(笑)」という言葉に続いて、1stアルバム『ばかのうた』からの楽曲“くせのうた”の澄んだピアノ・イントロが響いた時には、あまりの雰囲気のギャップに客席にも一瞬笑いが広がったほどだが、星野の歌声がアリーナの隅々まで広がっていくと、会場が一気に凛とした空気感へと塗り替わっていたのも印象的だった。
2ndアルバム『エピソード』から“未来”“くだらないの中に”を立て続けに披露したところで、「ちょっと、この後そっち行くんで!」という言葉とともに一度全員退場、ステージ背後&左右のヴィジョンには「一流ミュージシャンからのお祝いメッセージ」として桃井かおり/森山良子/井上陽水/松任谷由実/秋川雅史/矢野顕子/美輪明宏(ここまですべて清水ミチコのモノマネ)による“くせのうた”、佐野元春(レイザーラモンRG)による「“SOMEDAY”横浜アリーナあるある」(「新横浜駅から結構歩かされる」だそうだ)が映し出され、会場を爆笑に包んでいく。そして、ステージ上にひとり姿を見せた星野、セグウェイに乗ってアリーナ中央のセンター・ステージへと移動し、弾き語りパートがスタート。“ひらめき”“スカート”やナンバーガールのカバー“透明少女”などをアコギ1本の響きと穏やかな歌声だけで披露し、ごく自然にアリーナを釘付けにしてみせる。さらに、「俺のライヴを観に来てくれるみなさんは、どこかヘンタイな部分があるんだろうと思いますが……」と言いつつ「みんな同じだと思うけど……休日ってセックスしたくなるよね?」「なるなる!(振り付き)」と1万人規模のコール&レスポンスを巻き起こしたり、「クソみたいな扱いを受けて振られた」ことを基に作られたという“ばらばら”の「相手の女性の続報」エピソードなどを盛り込んだりして、いちいち客席を沸かせていく。
そんな中、「部屋でいつも曲を作ってるんですけど。狭い部屋で――15年ぐらい前? もっと前か。そのぐらいから自分で曲を作り始めて。すごい狭い空間でやってる自分の音楽、みたいなものがあって」と静かに回想していた星野。「当時はネットとかも発達してないし、俺も20歳の頃とか金なくてパソコン買えないから、YouTubeにオリジナルをアップロード!とかないわけですよ。だから、歌とか歌いながら……『なんかわかんないけど、届け!』って念じる、みたいなことをずっとしてました。当たり前ですけど、届くわけがなくて。とはいえ、もしその念が、非常に遅いスピードで、14年ぐらいかけて、みなさんのもとにフッと伝わったのかなあと……そういうふうに思いたいなあと思って」という言葉とともに広がった“老夫婦”が、ひときわ深く、静かに、オーディエンスの心に染み込んでいった。弾き語りパートのラストには、前日の奥田民生との共演用に作った新曲“愛のせい”を披露。「本当に、小学生の頃から民生さんが好きで。民生さんには言えないけれども、民生さんを思って作ったわけです。俺は小・中・高と、あの人の作る曲に非常に救われて。学校に行かなかったりした時期も励まされてきたわけです。そういう感謝の意味をこめて……」という言葉とともに響かせた“愛のせい”の力強いコード・ストロークが、アリーナの空気をびりびりと震わせていった。
再び「一流ミュージシャンからのお祝いメッセージ」 by ベースのタク&木戸さん(バナナマン設楽&日村)の映像を挟んで、ステージ上にバンド/ストリングス/ブラス全員揃ったところで、ライヴは終盤へ。“レコードノイズ”の静かな風景から19人一丸となって雄大な風景へと昇り詰めるダイナミズム。疾走感あふれる“ワークソング”から一面のクラップを巻き起こした“兄妹”、さらに“地獄でなぜ悪い”!……と1曲ごとに会場の熱量と歓喜をぐいぐい高めていく。「本当にありがとう! 超楽しいです」と感激を隠しきれない表情で星野が語りかける。「アホみたいだけど……いろいろあるけど、楽しく生きてえなあと。『楽しくなりたい!』って思って作った曲があって……」と最新アルバム『Stranger』からバンド+ブラス編成で響かせた“夢の外へ”で一面思い思いのクラップ天国へと導き、客席一丸のウェーブ!!から最新両A面シングル曲“桜の森”ででっかく会場を揺らして……本編終了。
アンコールでは「さあ! いよいよ泣いても笑っても大詰めです! あのロング・ヘアー、あのサングラス、あのダンスを観ないと、そしてあのヴィブラート・ヴォイスを聴かないと、年が越せない! そういう方も多いのではないでしょうか?」という寺坂直毅の陰アナに続いて、もはやお馴染みの(?)布施明に扮した星野 源=「ニセ明」が登場、名曲“君は薔薇より美しい”を渾身の力をこめて(自身の歌以上の絶唱スタイルで)歌い上げ、ロング・ヘアーのカツラとサングラスを舞台に置いて退場して終演……かと思いきや、再びオン・ステージして正真正銘最後に演奏したのは、“桜の森”と同じく最新シングル曲“Crazy Crazy”! 祝祭と狂騒が巨大な渦を巻くような高揚感の中、圧巻のフィナーレを迎えた「星野 源 横浜アリーナ2Days 『ツービート』」。「恩返しとか、いろいろしたいなと思ってやってきた1年でした。来年はよりもっと、くだらないこと、面白いことをやっていけたらなと思っています」と語っていた星野。場内暗転した後には、闘病中などの映像とともに「ドキュメンタリー」「映画化」の文字が。2年前の急病のため「COUNTDOWN JAPAN 12/13」への出演がキャンセルとなった彼が、「COUNTDOWN JAPAN 14/15」初日・EARTH STAGEトリとしてリベンジ出演する瞬間は、もう目の前に迫っている。なお、この日の模様は2015年1月18日にWOWOWにてオンエアされるので、是非チェックしてほしい。(高橋智樹)
■セットリスト
01.デイジーお味噌汁
02.ギャグ
03.化物
04.穴を掘る
05.もしも
06.ステップ
07.Night Troop
08.くせのうた
09.未来
10.くだらないの中に
11.ひらめき
12.スカート
13.老夫婦
14.透明少女
15.愛のせい
16.さようならのうみ
17.レコードノイズ
18.ワークソング
19.兄妹
20.地獄でなぜ悪い
21.夢の外へ
22.桜の森
(encore)
23.君は薔薇より美しい
24.Crazy Crazy