物語ソングで結末を描き切っていないのは、自分と似た人たちに対する愛情なのかもしれない
――物語ソングも藤森さんの得意技になってきていますよね。“SECRET ROCK’N’ROLLER”は音楽好きとしてはぜひ現実になってほしい出来事です。
「物語調の曲はあんまり得意ではなかったんですけど、いいリアクションをもらえているのでありがたいです。“SECRET ROCK’N’ROLLER”はもともと、落としたいけど落とせるかなー……でも結局アクション起こせないまま終わる、みたいな合コンの曲にしようと思ってて。でも合コン行ったことないし、チャラいと思われたくないしなあ、ということで、今のかたちになりました」
――合コンというテーマが出てきた背景がまったくわからないですけど(笑)。でもそれも、創作の基盤にあるのが感覚的なものだからかもしれないですね。
「僕は『こうやって歌詞や曲を書けばいい』みたいな理論を持っていなくて。いつ書けなくなるかわからないし、もしかしたら次は書けなくなるかもしれないなという危機感もあるんです。物語ソングでも結局、主人公は悩んでいたり、一歩踏み出せないやつだったりして。やはり我々のラブソングはハッピーエンドにはならないという(笑)」
――でも“SECRET ROCK’N’ROLLER”も“矢文”も、バッドエンドではないですよね?
「ああ。結末を描き切ってはいないから、そういう意味では希望がありますね。自分と似た人たちに対する愛情なのかもしれない」
――今作の新曲はどれも、サウンド面でかなりユーモアセンスが発揮されているのが特徴的ではないでしょうか。
「“並行世界のすゝめ”は作っているうちにもっと音が欲しくなって、今までにないくらいギターを重ねて。ギターだけ録るのに8時間かかりました。“YAMINABE”はひとまずいろんなことをやってみようと思って」
――“YAMINABE”はとても理想的な音の遊び方だと思いました。隙間がある音像だから森野さんと木村さんのプレイも生きてますし、ラップやボーカルも光ります。
「クールな感じになりましたね。昔からDragon Ashを聴いたりもしていたし、僕は韻を踏める自信はあるので、いつかそれを生かした曲は作りたいなと思っていて。でもやったことは一切ないしな……。でもくるりの岸田さんもそういうアプローチをしてたしな……。と試行錯誤しながらやっていきました。『フリースタイルダンジョン』とか観たり(笑)、もっとテンション高いほうがいいかな? もっとMOROHAみたいなことしたほうがいいかな!? とか悩みつつ、みんなに『どう?』と確認しながらレコーディングしていきました。けど結果的にめちゃくちゃ評判のいい曲になって、良かったなあ……」
――しみじみと(笑)。
「見切り発車でスタートしたので、かっこ悪い作品になる可能性も大いにあったんです。『うわっ、ラップなんかしちゃって!』とか思われちゃうんじゃないかなあー……と穿った考え方をしてしまったり(笑)。でもそうならなくて本当に良かったです。だからR-指定くんにも聴いてほしい! 僕もアンサーするのに1時間もらえればフリースタイルで戦える自信があります!」
偏屈な高校生が作った『ああ、やっぱりこのバンドは裏切らねえな』と思えるバンドを集めたプレイリストのなかにSAKANAMONがいてほしい
――“矢文”は民族楽器とピアノがアクセントになっていて、今までのSAKANAMONにないロマンチックな空気感が生まれていると思います。
「最初はバイオリンを入れるつもりだったんですけど、デモを作っている時にこの曲には二胡の音がはまるなと思ったんです。こういうフォークっぽい曲は今までやってこなかったし、こういう弦楽器に憧れはあったんですけど入れ方がわからなかったので、今回は挑戦でもありました。奇跡的に二胡が弾ける人が見つかって良かったです。でもライブでどう表現しようかなって……ひとまずギターでやってみようかなと、バイオリンの弓を買ってみたんですけど」
――おっ、ボウイング奏法。シガー・ロスのヨンシーみたい。
「でも全然音出なくて!(笑)。特訓するか別の方法にするか模索中です」
――秋のワンマンツアーでのお楽しみにしておきます。『GUZMANIA』でもともと持っている特性を効果的に表現できるのも、新しい手札をこれだけ生かせているのは、経験の賜物だと思います。SAKANAMONみたいにマニアックでシュールなことをやりつつ、ポップソングを作れるロックバンドは貴重な存在です。
「そういうバンドでいたいし、昔からそういうバンドが好きなんです。そういうものが体現できているという自負はあるぶん、もうちょっと売れててもいいんじゃないかな?と思いつつ(笑)。……僕はつねに高校時代の自分というものがあるんです。高校時代の自分が好きになるバンドになりたい。クラスに馴染んでいない自分が聴いている、クラスのみんなが聴いてない偏屈なバンドや音楽。そんな自分が、みんなの知らない音楽を独り占めしてる教室。その音楽を聴いている人間は、確実に仲間――そんなバンドでありたいんです」
――うんうん。
「でも今思えば、僕が10年以上前に宮崎のど田舎で聴いていた、誰も知らなかったくるりやナンバーガール、フジファブリックは、東京だと全然売れてたんですよね(笑)」
――あははは。とはいえ、SAKANAMONの音楽が必要な、クラスの端っこにいるような人は間違いなく存在しますから。
「ああ、ありがとうございます。高校時代からダサいバンドには絶対になりたくないと思ってたし、偏屈な高校生が作った『ああ、やっぱりこのバンドは裏切らねえな』と思えるバンドを集めたプレイリストのなかにSAKANAMONがいてほしいんです。だからアルバムは毎回『わっ、また新しいことやってるな!』と思えるものにしたい。高校生の俺を裏切らないためにやってるところはあるし……だから売れないんだとも思ってた。でも、それに関しては最近論破されちゃったんですよ。苦しい気持ちを抱えてる人はいっぱいいるんですよね」
――表向きは明るい人でも、実はそれぞれでや悩みを抱えているということですね。
「TENGAの松本社長に『みんなそれぞれの悩みがあって苦しんでるんだから、高校時代の自分を裏切らない曲を書くことが、たくさんの人に届かないことの言い訳にはならないよ』と言われたんです。実はそれにうすうす気付いてたんですけど、とうとう面と向かって人から言われちゃいました(苦笑)。だから今後作る曲には、そういう影響も生かされてくると思います」
――『GUZMANIA』はライブテイクも入っているので、「10周年を経て俺たち今こんな感じだよ」というのを多面的に感じられて。ひとつの節目を終えたという安定感もありながら、新しい旅に出るようなすごくフレッシュな視点を持った作品だと思います。
「たしかに。そうですね。グズマニアは長い期間ずっと色褪せずに花咲いてる植物で、『いつまでも健康で幸せ』や『情熱』『理想の夫婦』という花言葉があって。卑屈なことを言いつつも前に進む気持ち、自分たちもそうありたいなという願いを込めてタイトルにしたんです。みんなを待たせたくないし、これからも頑張ります!」